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売り言葉と買い言葉

「あの、シエスタ先輩」


「申し訳ありません、ルーナ様。私には止めることができません」


 対抗戦の会場を決めるためのくじ引き会場に集まった私たちは、シトリィ先輩とクラウディア先輩がイエザリア学園の選手の生徒と一触即発の状態に陥ってしまうのを止めようとは思ったのですが、気付いたときにはすでに遅すぎました。




 夏季休暇を終えて戻ってきた学院では、やはりいつものように収穫祭と、何と言っても対抗戦の話で持ちきりでした。


「シエスタ、私たちの対抗戦はシエスタにかかっていると言っても過言じゃないからね」


 5年生の出場されない先輩方はシエスタ先輩の手を固く握られると、皆さん、念でも送られていらっしゃるかのように真剣に祈るような仕草をされていました。


「私たちの念があれば、シエスタがじゃんけんで連勝出来るかもしれないでしょう」


「応援に行くにしても、やっぱり自校のほうが何かと便利だしね」


 どうやら対抗戦の試合会場にエクストリアが選ばれることを期待しての事だったようです。たしかに、私自身もそうでしたけれど、基本的には会場となる学校以外の生徒はほとんどが自校で投影されてくる映像で観戦していらっしゃいます。それはやはり、会場の広さということもありますし、自分たちの学校での応援に全力を投じたいとの考え方もあるのだと思います。選手は仕方がないにしても、応援する生徒まで疲れてしまっては仕方がありませんから。


「まあ、ぶっちゃけ楽したいからよね」


「ねー」


 相手校に遠慮しているという面もあるのでしょうが、結局はそういうことなのでしょうけれど。



 そして迎えた当日、開会式はつつがなく進行し、そこまでは良かったのですが、その後の会場決定の場で問題は起こりました。

 私たちエクストリア学院は、セレン様が、おそらく、面白いからという理由でお決めになったことにより、選抜戦の代表は男子生徒と女子生徒が事前に学院内で決着をつけた後、どちらかの寮の代表が出場することになっていて、そのことには双方ともに納得しているのですけれど、他校の生徒からしてみると、そうではなかったようです。


「今回もエクストリは女子だけか。まったく、連勝が続いているからって調子に乗るなよ」


 隠す気は元々なかったのでしょうが、わざわざ試合前に波風を立てることもないでしょうと思っていましたし、私たちのほとんどは全く気にせずにいたのですが、先輩方を侮辱されていると感じたのでしょうか、売り言葉に買い言葉、シエスタ先輩がくじを引く手を止めてしまうほど恐ろしく感情の籠っていない、むしろ煽り返すような口調で、アンシリーナ先輩とクラウディア先輩が言い返してしまわれていました。


「そういうことは勝ってから言いなさいよ」


「それとも、審判の先生方に泣きついたらどうかしら。エクストリアは強ーい女子生徒ばっかりが出てくるから僕たちが勝てないんだ、ずるいよー、って」


 思わずなのでしょうが、その場にいた私たちエクストリア学院からだけでなく、ルーラルからも、サイリアからも、一人や二人などではない数の失笑が漏れていました。


「なんだと、喧嘩売ってんのか」


「何言ってんの、最初に言ってきたのはそっちでしょう?」


「双方、それ以上は控えて。でなければ、あなた方の出場を取り消しますよ」


 仲裁に入ってくださった審判団の先生のおかげで、とりあえずこの場は治まりましたが、ピリピリとした空気は変わりません。


「いいですか、くれぐれも問題は起こさないでくださいね。はい、それでは各校の代表の方はそれぞれくじを引いてください」




「あんたたち、ちょっと正座」


 くじ引きを終え、会場へと移動する前、他の学校の生徒が出ていったくじ引き会場の床にアンシリーナ先輩とクラウディア先輩が正座させられていました。


「どうしてかは分かっているわよね」


 シルヴィア先輩はこめかみのあたりを押さえながら、震えないように努力しているような声で注意なさっています。


「だって聞いてよ、シルヴィア」


「だってじゃないでしょう。大体、私も一緒にここにいたんだから、説明されなくても状況はわかってるわよ」


「だったら」


「黙りなさい」


 シルヴィア先輩がぴしゃりと言い放たれ、アンシリーナ先輩とクラウディア先輩は正座されたまま、背筋をピンと伸ばされました。


「いい、私たちはエクストリアの代表としてここに来ているのよ。馬鹿にされて頭に来るのは分かるけど、後輩の前でみっともない姿を晒したり、後輩や同級生、さらに言えば先生方や卒業された先輩方のお顔にまで泥を塗るような行動は慎みなさいよね。何かあれば試合の中で決着をつければいいのよ。分かったかしら」


 言外に分かっていなければ分かるまでお説教ねと匂わせながら、じろりと睨みつけられました。


「わかったわよ……」


 不承不承ではあったようですが、ケリはつけられたようで、少なくともこちら側では表面上は収束したので、私たちは溜息をつくと、会場へ移動するための馬車へと向かいました。

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