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14歳。

 そんなわけで、さして大事件が起こるわけでもない、のどかなコーストリナ王国で、メルたちと一緒に遊んだり、ルグリオ様と素敵で幸せな日々を送りながら、ときには勉強や稽古をつけていただきながら、夏季休暇を過ごした私は、学院へと戻る前に、いつも通り少し早い14歳の誕生日をお祝いしていただきました。


「誕生日おめでとう、ルーナ。君が生まれて来てくれたことを心からお祝いするよ」


 初めてこちらに来たときの、10歳の誕生日以降は、本来の誕生日には学院にいてお祝いが出来ないからという理由で、学院に戻る前、秋の訪れと共に、城内で、身内の方だけで、それでもとても盛大に祝っていただきました。

 本当はこのように派手に祝っていただかなくても、大好きなルグリオ様と一緒にいられれば、それだけで私は十分幸せで、胸もいっぱいになるのですけれど、準備をなさっているときから嬉しそうなご様子をちっとも隠されようとしていないルグリオ様やセレン様、メルやカイたち、サラやシエスタ先輩、他のお城で働いていらっしゃる方々、ヴァスティン様、アルメリア様が、まるでご自分の事のように幸せそうにしていらっしゃるので、私はいつも通り、何も言わずに、ただ用意していただいた豪奢な席に座っていました。


「ありがとうございます、ルグリオ様」


 ルグリオ様はパーティーが始まるとすぐ、誰よりも早くに隣の席から起立されて、私の前で膝をつかれると、繊細な壊れ物でも扱うかのように優しく私の手を取られ、静かに一つ口づけを落とされました。それからゆっくりと立ち上がられると、柔らかく微笑まれて、私の髪に丁寧に綺麗な蝶々のような髪飾りをつけてくださいました。

 セレン様からは白と紺の素敵なドレスを、ヴァスティン様、アルメリア様からはアースヘルムの有名な職人に作成されたというヴァイオリンを、シエスタ先輩からは立派な装丁の本を、メルたちからはとても抱えきれない、私の方が隠れてしまうほど大きく綺麗な花束を。


「えへへ。いつもこんなのしか上げられないけど、その分、気持ちは私たち皆の分を込めたから」


「とんでもありません。いつもありがとうございます、メル、それに皆も」


 私がお礼を告げると、メルはお日様のような笑顔を浮かべてくれました。

 一番驚いたのは、パーティーの中盤に差し掛かるころにいらしたお父様とお母様から、忙しくて来られないというお兄様とお姉様の分までお祝いをしていただいたことでしょう。


「そうそう、アルヴァンとカレンは子供たちのことで忙しくて、そちらへは行けないからってとっても残念そうにしていたわ」


「そうですか・・・・・・。えっ、お母様、今、何とおっしゃいましたか」


 何でもないように、世間話でもするかのようにさらっと話されたことですが、私は聞き流すことは出来ずに思わず問い返しました。


「だから、生まれたばかりの子を放っておくことが出来ないから今回は遠慮するって言ってたわよ。あの子達も立派になったわねえ」


「その話、私の方には知らせも何も届いていないのですけれど」


「多分、こうして驚かせたかったのではないかしら」


 私は隣に座って一緒に話を聞いていたルグリオ様と顔を見合わせました。


「そうですか。それでは、お兄様とお姉様にはおめでとうございますと伝えておいていただけますか」


 今聞かされても、さすがに転移してお祝いにいく訳にもいかないですし、もうすぐ学院も始まるので馬車で参ることもできません。

 お兄様も、お姉様も、もう少し・・・・・・いえ、おめでたいことですし、素直にお祝いを申し上げなければいけませんね。


「うふふ。分かったわ。きっと伝えておくわね」


 それからお母様はアルメリア様と楽し気に談笑されていらっしゃいました。お父様はヴァスティン様に泣きついて、お酒を酌み交わされていらっしゃるご様子でしたけれど。

 その他にも、輝くような靴や、青い空に白い小鳥が戯れるように描かれている可愛らしい絵画、星になった英雄やお姫様の曲を奏でるオルゴール。とてもたくさんの素晴らしい贈り物をいただきましたし、何よりもそこに込められた想いがたくさんで、私は胸いっぱいの幸せを噛みしめました。



 やがて、パーティーも中盤に差し掛かり、広間のテーブルやお料理が脇に避けられると、優雅な旋律と共に心地の良い演奏が始められました。


「僕と踊ってください、ルーナ姫」


「はい。喜んで」


 お日様のような笑顔と共に差し出されたその優しい暖かな手を取ると、周囲の人の、温かく、微笑ましいものを見るような視線を受けながら、音に合わせてくるくるとステップを踏みます。

 周りでも何組も同じように踊っているはずなのに、まるで私たちだけが世界から切り離されているような浮遊感を味わいながら、その優し気な瞳だけを見つめ続けます。もちろん、足を踏んだり、踏まれたりするようなことはありません。幼いころから何度も受けた教育の賜物でしょうか。

 最初の曲が終わって私たちが会場の真ん中で静かに一礼すると、耳を劈く、割れるような拍手と歓声が沸き起こりました。

 ルグリオ様の一礼に、私もカーテンシーを返すと、再び拍手と歓声が起こり、そして次の曲が奏でられ始めました。


 

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