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お礼にいきましょう

「せっかくの夏期休暇でルーナたちも帰ってきているのだから、皆で出かけましょう」


 その日、夕食をいただいてからお部屋でのんびりと古代語で書かれた書物を読みふけっていると、セレン様がそのようなことをおっしゃられました。

 私はルグリオ様と顔を見合わせると、特に反対する理由もありませんでしたし、皆でお出かけというのは楽しみでしたので、揃って頷きました。


「それとも、あなた達は二人だけの方が良かったかしら」


「そんなことも、なくはないけれど、きっと皆一緒なのは楽しいと思うよ」


 ルグリオ様が答えられたので、私は黙って肯定の意を示すと、セレン様は満足されたように頷かれました。


「まあ、あまり強制はしたくないのだけれど。私はサラ達のところへ声をかけに行くけれど、あなた達はどうする」


「僕たちも一緒に行ってしまうと、そうは思っていなくても、きっと威圧させてしまうだろうから、ここで待っているよ」


 セレン様がお一人で向かわれてもあまり変わらないだろうとは思いましたが、そのようなことはセレン様も当然考慮なさっているだろうと思って私もルグリオ様に追従する形で待っている旨を伝えました。


「私の独断で決めてしまってはつまらないから、私もサラ達には聞いてくるけれど、あなた達も何かしたいところとか、行きたいところとか、ぼんやりした感じでもいいから考えてみていてくれるかしら」


 私たちがわかりましたと答えると、セレン様は柔らかい笑みを浮かべられて、すぐにその場から転移されました。

 私は正直なところ困っていました。

 先日ルグリオ様にも尋ねられましたが、私はルグリオ様やセレン様と一緒にいることが出来れば、このお城から抜け出さずとも、また、どこへ行くことになろうとも一向にかまわないし、どこへでもついていこうと考えていますけれど、具体的に自分からどこかへ行きたいなどといったことは考えたことはなかったからです。

 私がそんな風に自分の主体性のなさに愕然としていると、ルグリオ様が見透かされたように優しくお声をかけてくださいました


「ルーナ、あんまり深く考えることはないんだよ。思うところとか、引っかかるところとか、何でもいいんだ。何か思い浮かぶことはないかな」


「遊びに、というわけではないのですが、個人的には一か所、何となく行きそびれていたところがあるので、ルグリオ様に案内していただければとは思っているのですけれど」


 心残り、というほどのものではないのですけれど、やはり一度はちゃんとお会いしておきたい、お会いしなければならないと思っています。


「僕に案内できるようなところなのかな」


「はい。以前、お話してくださったミカエラ様のところへちゃんとお礼に行ったことがなかったので、やはり一度しっかり自分でお会いしてみたいと思っていました」


 私は被害者、などと一方的考えるつもりはありません。たとえ、ミカエラ様のご家族の方がお母様に、直接的には私に呪いをかけられたのだとしても、解呪に協力してくださったのは紛れもない事実ですし、一度も顔を見せずにいるのは失礼かなとも思います。

 もちろん、懸念もあります。


「ですが、メルたちがあまり行きたくないというのであれば、遠慮致します」


 ルグリオ様に少し伺ったところですと、孤児院の近くというほどでもないようですし、気にし過ぎなのかもしれませんが、万が一を考えると、進んでメルたちを連れて行きたいとは思えません。

 私の話をルグリオ様は黙ったまま聞いていらっしゃいましたが、私がやはり大丈夫ですと言いかけたところで、セレン様がお戻りになられました。


「いきなり言われても困るようだったけれど、出かけること自体にはそれほど抵抗はないみたいだったわ。残念ながら、この前来たばかりの子達はまだ外に出ることに抵抗があるみたいで行かないって言っていたけれど、何かあったの」


 セレン様は私たちの微妙な空気を感じ取られたのか心配するような眼差しを向けてくださいました。


「何でもないよ。ルーナにミカエラさんのところにお礼が言いたいと言われていたのだけれど、それは二人でちょっと抜け出して行ってくるから」


 私は少しの意外感と共にルグリオ様とセレン様を見比べました。


「セレン様はお会いしたことがあるのですね」


「ええ。まあ最初は私には面白いだろうからってルグリオに連れていって貰ったのだけれど、その後も何度か個人的に足を運んでいるわね」


「こう言っては悪いけれど、行ってもあまり面白くはないかもしれないよ」


 私は首を横に振って真剣にルグリオ様の瞳を見つめました。


「面白い、とかではなく、しっかりとお礼を自分の口で告げたいのです」


「分かったよ。じゃあ、一緒に行こうか。僕も前にルーナを連れていくと約束したこともあったからね」


 私たちがそうして見つめ合っていると、セレン様が不思議そうな顔で尋ねられました。


「お礼って、何かあったの」


「それは秘密」


「秘密です」


 声が揃ったので、私とルグリオ様はもう一度顔を見合わせて微笑みを交わしました。


「まあいいわ。たしかあの近くには湖もあったし、きっとバカンスとしても楽しめるでしょう」


「別に近くでなくても僕たちだけでちょっと転移して来ればいいんじゃないかな」


 セレン様は首を横に振られました。


「いいえ。あなた達が秘密だというのなら深く詮索したりはしないけれど、私だってあそこの知識には興味があるもの」


 転移で距離はほとんど関係ないとはいっても、心情的には近くにいるという方が安心もできるでしょう。


 はやい方が良いだろうということで、翌日には私たちは皆で一緒に孤児院の跡地近くの湖の傍へと降り立ちました。

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