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シエスタ メイド奮闘記

 この身には過剰なご厚意をルーナ様から賜り、ヴァスティンコーストリナ国王陛下の、そしてアルメリア王妃様の寛大なご処置の下、私、シエスタ・アンブライスは、夏季休暇の間という短い期間ではありますが、コーストリナのお城のすぐ隣に建立されている孤児院で院長を勤めていらっしゃられるサラ・ミルラン様のお手伝いをさせていただいております。

 もちろん、それは仕事のほんの一部でしかなく、元々、私のためにそのような理由をこじつけられたルーナ様のお顔を立てるという意味合いが強いようです。実際の仕事は掃除洗濯などに始まり、お客様のお迎えなど、それこそ本当に多岐にわたり、ソラハ様に手ほどきを受けております。

 このように申し上げますと誤解を招くかもしれませんが、お城で働かれていらっしゃるメイドの皆様からのルグリオ様とルーナ様に対する評価といいますか、評判もしくは感想はどれも、おそらく本心からでしょうが、好意的なものばかりです。


「それは当然よ。私は私の母もここで働いているんだけど、ルグリオ様やセレン様、もっと言えばヴァスティン様がアルメリア様とご成婚なさった頃よりも前の代から仕えている親がいる人ばっかりよ。人手はいくらあっても足りないし、募集もかけているみたいだけど、やっぱり気おくれされるみたいなのよね」


 ソラハ様はおどけたように首をすくめられました。

 しかし、それも当然のことと言えるでしょう。実際にお城で働かれていらっしゃるソラハ様ですらそのような感情があることを理解されているのです。大多数の国民、私も含めまして、そのような行動に出ることが出来ないのは至極当然のことと思います。


「だから、どんな理由、もしくは多少強引だったのかもしれないけれど、ルーナ様があなたを連れて来てくれたのは私たち一同、大いに喜んでいるのよ」


 ソラハ様は振り向きざまに、左右で縛った綺麗な黒髪をはためかせられながら、可憐な笑みを浮かべられました。


「私も一緒に働く中に、私よりも年下の子ができたのは初めてだからとっても嬉しいわ。できれば、この夏の間だけでなく、ずっといられたらいいのにと思えるくらいにはね」


「ソラハ様は学院には通われていたのですか」


「もちろんよ。国民なら誰でも通うことが出来るのだから、というよりも通わなくてはならないの方が正しいかしら」


 だからそっちの方でも先輩ねとおっしゃられました。


「セレン様やルグリオ様とはご一緒されていたのですか」


「ええ。セレン様がご入学されたときに・・・・・・って、もしかして私に歳でも聞いているのかしら」


「いえ、そのような意図は決して・・・・・・」


「ふふっ。冗談よ。だって私たちは永遠に17歳なのだからね」


 私は驚いて目を見開きました。


「意外そうな顔をしているわね。でも本当よ。私たち、このお城で働いているメイドは皆17歳で成長が止まっているの」


 そうだったのですか。では、最初に紹介されたときにいらした皆様は17歳のころからあの容貌でいらしたということですか。なんとも威厳に満ちた方々だったのでしょうね。


「だから、冗談だってば。面白いわね、シエスタは」


 私がそう告げると、ソラハ様はこれ以上面白いことはないとでもいうようにお腹を抱えられました。


「さあ、無駄話はこのくらいにして仕事に移りましょうか。次は、えーっと、私たちは洗濯ね」


 私は案内されるまま、ソラハ様の後についてお庭へと向かいました。



 お庭と言っても、城門からすぐに見える正面ではなく、お城の建物を挟んだ裏側にある、いわば裏庭とでも言える場所です。裏庭、とはいっても、この言い方にも語弊はありますが、普通の貴族の方々が構えられているような邸宅程度は余裕で収まるほどの広さがあります。


「あら、どうしたの」


 ソラハ様に案内された裏庭に辿り着くと、アルメリア様が料理長様とご一緒に花壇、菜園を眺めていらっしゃいました。


「そんなに畏まらなくてもいいのよ、公の場ではないのだから」


「ありがとうございます。こちらへは回収した洗濯物をしに参りました」


 アルメリア様は少し残念そうに眉を下げられた後、そう、じゃあよろしくね、と言い残されて思い直すように頭を振られると、再び花壇を弄られていました。


「以前、アルメリア様にお手伝いしましょうかと言われたことがあったらしくてね」


 公務に追われていらっしゃることが多いヴァスティン様やルグリオ様と違って、アルメリア様やセレン様は比較的自由になさっているので、そのようなことも頻繁に起こるのだそうです。

 そこに居合わされたメイドの方は皆さん、当然のことながら首を縦には振られたりしないので、アルメリア様は少し残念そうな顔をされるのだそうです。


「私たちとしても、これこそが矜持なのだから譲ることは出来ないけどね」


 本当は料理もなさりたいということなのですが、たまにすると料理長様や他の料理人の方と争いにもならない争いになるのだそうです。


「今日はいいお天気だし、洗濯物もすぐに乾きそうね」


 眩しい夏の日差しを仰ぎながら、ソラハ様は目を細められました。




「もう少し休憩していてもいいのよ」


「お気遣いありがとうございます。ですが、ご心配には及びません」


 お昼と休憩をいただいたのち、私は本来の実習先であるはずの孤児院へと案内していただきました。


「これは、ソラハ様」


 学院でも見かけたメルさんだけではなく、まだ学院に入るには足りない年齢に見える子達と戯れていらしたサラ様は、ソラハ様のお姿が目に映ると畏まってお辞儀をされそうになっておられました。


「いつも言っているでしょう。そんなに畏まらないで」


 いつものことらしい一通りのやり取りが終わって、私に気付いたメルさんが私のことを紹介してくださると、サラ様は私に向かって頭を下げられました。


「シエスタ様、いつもメルがお世話になっております」


「様などと。私は特に何もしておりません」


 実習とはいえ、何をいたらよいのか分からずに固まっていると、ソラハ様がお声をかけてくださいました。


「私は報告をまとめてくるから、その間、シエスタは子供たちの相手をしていて」


 私の返事を待たずに、ソラハ様はサラ様を伴われて院の中へと入って行かれました。


「相手をしろと言われましても、私はこの子たちのように駆けまわることは出来ないのですが」


 最近増えたらしい子供たちに随分喜んでいる様子のメルさんたちは楽し気にお庭を駆けまわっています。


「そうだ、シエスタ先輩」


「なんでしょうか」


 メルさんが気がついたように私に声をかけてくださいました。


「先輩からも皆に魔法の使い方を教えてあげてくださいませんか。私やカイやレシルだけでは、どうも実力不足感が否めなくて」


「僕たちも是非、シエスタ先輩の魔法を拝見したいです」


「そのようなことでよければいくらでも」


 メイドの仕事とは離れているような気もしますが、子供たちの相手をするのもきっと立派な仕事なのでしょうと思い直し、私はねだられるままに、景観を損なわないよう注意を払いつつ、魔法をお見せしました。

 

奮闘記とは一体・・・

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