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シエスタ先輩とメイドさん

 シエスタ先輩が来てくださったことを、ヴァスティン様も、アルメリア様もとても喜んでくださいました。特にアルメリア様は、お城で働いていらっしゃるメイドさんの中でも最も若い、シエスタ先輩と最も歳の近い、ソラハさんにシエスタ先輩のことをお願いしていらして、ソラハさんも白いヘッドドレスの両側で可憐に二つに縛った黒髪を揺らして、豊かな胸の前で両手をぎゅっと硬く握りしめられて、とても嬉しそうな表情をされた後、お任せくださいととても素敵な笑顔を浮かべられました。


「そうは言っても、馬車での旅もさぞ疲れたことでしょう。まずはお風呂にでも入ってゆっくりして来たらどうかしら」


「それは私もでしょうか」


 ソラハさんが何だか期待の籠った表情でアルメリア様を見つめていらっしゃいます。


「そうね。お願いできるかしら、ソラハ」


「お任せください、アルメリア様」


 ソラハさんは膝をついたまま、上げていたお顔を恭しく下げられました。





 アルメリア様の提案を受けて、実際には転移で戻ってきただけでしたし、アルメリア様もそのことはご存知のはずでしたが、せっかくかけていただいたお言葉に甘えることにして、私はシエスタ先輩と、それからセレン様とソラハさんと一緒にお風呂へ向かいました。


「・・・・・・あの、ソラハ様」


「いかがされましたか、シエスタ様」


 流されるままに浴場へ辿り着き、あっという間に着ていた制服を脱がされて浴室へと放り込まれたシエスタ先輩が、浴槽の中、一列に並んで足を伸ばして座った私の横から、反対側のセレン様の横へと座られたソラハさんに大層遠慮がちに声をかけられました。


「・・・・・・できれば、様、というのはやめていただきたいのですが。失礼しました。私もお風呂にご一緒してしまってよろしかったのでしょうか」


「・・・・・・シエスタ、さんはお風呂はお嫌いでしたか」


「そういう訳ではないのですが・・・・・・」


「でしたらお気になさらないでください。私も最初は同じことを先輩方にお尋ねしましたけれど、汚れた身体のままお仕えする気ですかと言われてしまって。もちろん、普段は仕事が終わってからになりますし、滅多なことではありませんけれど、今日のように特別な日には気にしないことにしました」


「・・・・・・わかりました」


 こうして並んで座ってみると、どこがとは申しませんが、大層比べられてしまっているようで何となく居心地が悪くなります。こう申しあげては失礼極まりないとも思いましたが、シエスタ先輩がいてくださってとても助かりました。


「それと、これからはシエスタとお呼びしますので。いいですか、いや、これも少し違いますね。こほん。これからはシエスタって呼ぶからね」


「はい。ソラハ様」


「様は禁止よ。ソラハさん、もしくはただソラハって呼んでくれていいからね」


「・・・・・・わかりました。ソラハさん」


 シエスタ先輩の中では、ソラハさんと呼ぶことにかなり葛藤があったようでした。


「身体のことは聞いているから。つらくなったらいつでも言って。私でも、他の誰でもいいから。無理して倒れるのが一番だめだからね。わかった」


「ありがとうございます。ご面倒をお掛けしないように努めます」


「それから一つ、最初に言っておくけど、セレン様やルーナ様もそうだけど、ここの方達は基本的に出来ることは自分でやってしまわれるから。先読みして出来ることからやっていかないと、仕事なくなっちゃって、ものすごい罪悪感を抱えることになるからね」


「ねえ、ソラハ。それは間接的に私たちに文句を言っているのかしら」


 セレン様が肩にお湯をかけながら、さらりと流し目で横を見られます。


「嫌ですね、セレン様。そんなわけないじゃないですか。ただ、ここの騎士の方達は料理も出来てしまって、外出されるときの私達の仕事がないなとか、調理場に入ると料理長さんたちがうるさいなとか、お身体を洗う機会も少ないなとか、そんなことは全然考えておりませんよ」


 ソラハさんは私のことを見つめられました。


「別にアースヘルムの、フェリス様のことを羨ましいとも思っていませんからね」


 そして再びセレン様の方を向かれました。


「ですが、たまに、いつもなどと大それた望みは申しません。そう、たまにで良いので、私たちを頼って、任せてくださると、私たち一同の矜持は大層満たされるのですが」


「あの、ソラハさん」


「なんでしょう。何でも聞いて」


 ソラハさんは得意げに胸を張られました。シエスタ先輩はそれを凝視された後、とても自信なさげなお声で口を開かれました。


「・・・・・・先程、馬車を出迎えてくださったときにも思ったのですけれど、こちらのメイドの方々は、その、皆様とても素晴らしいものをお持ちでしたのですが、私はその」


「ああ、そんなことを気にする必要はないですよ。夜伽に呼ばれるわけでもありませんし、胸のあるなしでメイドの器量は、もちろん女性の価値も決まりませんから」


 ソラハさんはシエスタ先輩のお顔をまじまじと見つめられました。


「うん、とっても綺麗。うん、可愛い。ちょっと教えればどこに出しても恥ずかしくないメイドさんの完成ね。ところで、セレン様」


「何かしら」


「この流れですと、今日くらいはお身体を流させていただけるのかなあっと」


「いいわよ」


「思いまして。えっ、本当ですか。やったあ。皆に自慢しちゃおう」


 セレン様はソラハさんを伴って湯船から出られると、シエスタ先輩と私の方へと首だけ振り向かれました。


「ルーナもシエスタに流してもらったら」


 セレン様とソラハさんが去られた後、私とシエスタ先輩はしばし無言で湯船に浸かったまま見つめ合っていました。


「で、では、流させていただいてよろしいでしょうか」


「は、はい。よろしくお願いします」


 シエスタ先輩の手やお肌はスベスベでとても緊張しました。




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