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事後の対応

「後のことは僕がやっておくから、姉様、彼女たちのことを頼んでもいいかな」


「・・・・・・ええ。その方が良いでしょうね」


 組合に戻ったところで、セレン様は捕らえられていた方を送り届けに向かわれ、ルグリオ様と私、メル、シズク、アーシャの5人で報告へと向かいました。


「ルグリオ様、あまりお気になさらないでください。シズクもアーシャも、他の捕まっていた皆さんも、無事とは言えませんでしたけれど、最悪の事態になるのを避けられたのはセレン様と、それからルグリオ様のおかげですから」


 ルグリオ様がひどく落ち込んでいらっしゃるように見えて、私は背中にぎゅうっと抱き着きました。


「ありがとう、ルーナ。心配させてしまったね」


 ぎこちない感じではありましたけれど、ようやく笑顔を見せてくださったルグリオ様に少しほっとして私たちは組合へと足を踏み入れました。



 ルグリオ様に頼まれて、ルグリオ様が私たちの代わりに組合に報告してくださっている間に、私とメルは組合内の机に向かってシズクとアーシャの様子を窺いながら遅めの朝食を摂りました。


「食べられそうですか」


「うん、ありがとう、大丈夫だよ」


 シズクもアーシャも、非常にゆっくりとした動きで小さくパンを千切ると、暖かいスープに浸して一口ずつ味わうように口に運んでいます。

 アーシャとシズクが元々着ていた服は心が痛みましたが私たちの方で処分しました。今二人が着ているものはセレン様がお持ちだった動きやすく、肌を露出しない丈の長いパンツと、首元から腰、手首の先まですっぽりと覆うことが出来るこの季節には少し合わないものでしたが、心情的にはきっとセレン様は上着やコートも羽織らせてあげたかったことでしょう。

 私もメルもかけていい言葉が見つからず、重苦しい沈黙が組合の一角を占めていました。

 黙々と朝食を食べていることで沈黙を紛らわせることしかできなかったのですが、そこに手にたくさんのお料理を抱えられたルグリオ様がお戻りになられました。


「お待たせして申し訳なかったね。昨日から何も食べていないんだろう。ここの料理を食べてみたけど、どれもとっても美味しかったから、一口だけでも入れてみてくれないかな」


 ルグリオ様はスプーンで一杯、お皿に盛られた海の幸をふんだんに使った炒めご飯を掬われると、アーシャの口元へと運ばれました。


「ル、ルグリオ様」


 さすがにアーシャも驚いたようで、顔を真っ赤にして目を見開いてきょろきょろと辺りを見回しています。


「行儀やマナーなんて気にしなくていいから。冷めないうちの方がおいしいよ」


「あ、あの、でも」


 アーシャがちらりと私の方を見てきました。


「大丈夫、皆の分ちゃんとあるから」


「あぅう、は、はい・・・・・・いただきます」


 アーシャは観念したように殊更真っ赤な顔になると、差し出されたスプーンをぱくりと口に含みました。


「お、美味しいです」


「それは良かった」


 ルグリオ様は本当に嬉しそうな顔を浮かべられて、再びスプーンでご飯を救われると、シズクにも同じように差し出されました。

 シズクも滅多に見せないような幸せそうな笑顔を浮かべると、幸せを噛みしめるように口を動かしていました。


「ルーナ、メル、口に合わなかったかな」


 私たちは固まったまましばらくその光景を眺めていたのですが、心配そうなお顔をされたルグリオ様がこちらを覗き込んでこられて、はっとして我に返りました。


「いえ、とても美味しいです」


「あんなことの後だし、何かあったら遠慮なくすぐに言ってね」


 ルグリオ様は小声で私とメルにだけ聞こえるようにそうおっしゃられました。

 私たちは極力アーシャとシズクを意識しないように小さく頷きました。




「お父様とお母様、それにサラ達への説明なんかの手続きその他諸々は終わらせてきたわ」


 私たちが朝食を終えるとセレン様がお戻りになられました。


「ありがとう姉様。こっちの方も残っているのは二人のご家族への挨拶と学院への説明だけだよ」


「ルグリオ様。大変ありがたいお申し出なのですが、そこまでご迷惑をおかけするわけには」


 アーシャはかなり恐縮している様子でしたし、シズクもぷるぷると身体を震わせていました。


「迷惑ではないよ。全員をというわけにはいかないのだけれど、せめて目に見える範囲の出来る限りのことはしたいからね」


「で、ですが、私の家となりますと」


「大丈夫。地図で場所さえ教えて貰えればそれ以外の手間は掛からないから」


「そ、それに、今頃ですと、両親は仕事に出ていておそらく家にはいないのではないかと」


「そんなことはないと思うけど。だって、今日は普通ならお休みの日じゃないかな」


 たしかに、今日は普通に学院に通っていたなら休日のはずですので、アーシャやシズクのご両親も祖仕事は休まれている可能性は高そうです。

 アーシャもシズクも、あー、うー、と唸っていましたが、結局観念したように地図を指差しました。


「分かった、この辺りだね。じゃあ、捕まっていて貰えるかな」


 


 アーシャのご両親も、シズクのご両親も在宅されていて、私たちが尋ねると同じように平伏されました。ルグリオ様はその都度そのように畏まる必要はありませんとおっしゃられていましたが、いきなり家に王子様と王女様がいらっしゃれば何と言おうともそのような対応になってしまうでしょう。

 説明が済むと、アーシャもシズクもご両親に強く抱きしめられていて、少し涙も流れていました。


「あとは学院への説明だね」


 エノーフ地区の組合に戻ってきた私たちは、実際にはそれほど経ってはいないはずですが、実感としてはかなり久しぶりに思えるミーシャさんの馬車へと戻りました。


「お待ちしておりました」


 日が空いてしまい、その上何の説明もしていない私たちをいつもと変わらなく受け入れてくださったミーシャさんに感謝して、少し窮屈に、それでも何となく外に出る気にはならずに、並んで座って学院へと戻りました。


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