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解放

「アーシャっ、シズクっ」


 私とメルが叫んだときにはすでにルグリオ様は両者の間に割って入られていました。瞬く間に二人を連れて戻られたルグリオ様は中空から真っ白なローブを2着取り出され、私とメルにそれぞれ手渡されました。

 私とメルがアーシャとシズクにローブを着せている間にも、ルグリオ様の糾弾は始まっていました。


「現行犯ですから確認の必要もないのですが、あなたがこの屋敷の主人であるモルタンで間違いないですね」


 室内を見回されたルグリオ様は、目の前の何が起きたのか分からない様子で呆然としているどじょう髭の男から目を離さずに屈み込まれて、私とメルに耳打ちされました。


「二人は他の捕らわれている人たちをお願いできるかな。それから、絶対に、いいかい、絶対に二人一緒にいて、この部屋から出ないでね。少しでも危険や異変を感じたら、すぐに僕のところまで戻ってきて」


「分かりました」


 私たちが即座に頷くと、ルグリオ様は気を失ってしまったアーシャとシズクに嵌められていた首輪のようなものをいとも簡単に破壊され、その場でくるりと反転されて、真っ赤になってこちらを物凄い形相で睨みつけているこの屋敷の主人に向き直られました。

 私とメルは背後を確認できるように背中合わせになって、アーシャとシズクを、壊れ物を扱うように慎重に運びました。


「暴行、監禁、強姦未遂、その他にも叩けば叩くだけ余罪が追及できそうですが、とりあえず」


 ルグリオ様のお声が途切れた時には、眩しい閃光によって、後ろを向いていたのにも関わらず、私たちは思わず目を瞑ってしまい、アーシャとシズクこそ落とさなかったものの、ついその場にしゃがみこんでしまいました。

 そのすぐあと、何か重いものが壁にぶつかるような大きな音が聞こえてきました。


「お分かりですか。対物対魔結界で囲まれているあなたに出来ることは何もありません」


「メル、急ぎましょう」


「うん」


 ルグリオ様が相手をしてくださっている間に私とメルは全力でシズクとアーシャに治癒魔法をかけます。しかし、身体の傷は癒すことが出来ても、精神的な傷は癒すことが出来ないかもしれません。寸前のところで最後だけは未遂で終わったとはいえ、二人の身体を見れば、どのような目に合ったのかは想像に難くありません。想像したくもありませんけれど。


「あ、う、ルーナ」


「気がつきましたか。助けに来るのが遅くなって申し訳ありません。もう大丈夫です。ですが、今しばらく眠っていてください」


 絞り出すような声を出してくれたアーシャには本当に今すぐに抱きしめて何でもしてあげたかったところなのですが、怪我こそ治したとはいえ、アーシャたちの身体が堪えられそうになかったので、今は身体を休めてくださいと手を固く握りしめ、祈りを込めるとそのまま眠りに落ちてくれました。

 私たちが他の捕らえられている人のところへ向かおうとしたところで、背後から何かが弾けるような甲高い音が聞こえてきました。


「はっはは、ふぅぅうう、こ、この程度の結界でこの私をどうにか出来ると思ったか」


 まさかと思いつつも後ろを振り向くと、信じられないことにルグリオ様の結界が破壊されるところでした。


「う、嘘でしょ」


 メルも手を口にあてて目を見開いています。ルグリオ様のお創りになられていた結界は、込められていた魔力の質も、強度も、明らかにものが違うと私たちにすら理解できるものでしたが、それが跡形もなく消え去っています。


「ルグリオ様っ」


 気がついたときには私は叫んでいました。腕の中のアーシャの重みが感じられなければ、すぐにでも、何もできずとも、駆け寄っていたところだったでしょう。


「大丈夫だよ、ルーナ」


 しかしルグリオ様の優し気な声が暖かな風に乗って私たちの下まで運ばれてきて、私たちは気分を落ち着けられました。考えるまでもなくルグリオ様の魔法でしょう。


「殺してやる」


 全身に真っ黒な靄を纏ったモルタンがいつの間にやら接近してきていて、まさにルグリオ様に目掛けて右腕を振りかぶられるところでした。


「反省する気もありませんか。元々許すつもりはありませんでしたが、更生も期待できそうにありませんね」


 異常な速度をもって振りぬかれたモルタンの右腕は、ルグリオ様の障壁に跳ね返され、そのまま自分の顎を殴って、自分の力で後ろへ飛んでいきました。


「こっちは大丈夫だから、はやく他の人たちを」


「メル、行きましょう」


「行かせるかあ」


 怒声が響き、私たちの身体の中まで震わせます。


「それはこちらの台詞ですよ」


 何か、おそらくモルタンが壁にぶつかるような音と共に、壁にひびが入るような音と、天井が崩れるような何かが降ってくる音が聞こえてきました。


「言っておきますが、僕は今非常に怒っているんですよ。彼女たちの手前、みっともない姿を晒すわけにはいきませんが、下手をすればあなたを引き渡すことが出来なくなるかもしれないくらいに。だから、これ以上手間をかけさせるなよ」


 ぞっとするような低い声が聞こえてきました。


「でもやらないよ。ルーナたちをこれ以上悲しませたくはないからね」


 先程の声は何だったのかと思うくらいに柔らかい声が聞こえ、その直後にセレン様が騎士長様方を連れてお戻りになられました。


「あれが」


「そう、あれ」


 セレン様は人が殺せるのではないかと思えるほどの視線を投げつけられると、控えていらした騎士の方達は何も言われないうちにするすると進み出られて縄を取り出されました。


「他の子たちの目に入らないうちにお父様に引き渡しておいて」


「はっ。畏まりました」


 セレン様は再び、モルタンを連れた2人の騎士の方と一緒に転移され、すぐにまた戻っていらっしゃいました。


「とりあえず、すぐにこの腐った場所から離れましょう。こんなところにこれ以上、特にアーシャやシズクたちをいさせられないわ」


 私たちは一も二もなく頷くと、すぐに他に囚われていた人たちを解放して治癒魔法をかけて、セレン様とルグリオ様がお持ちだった服を着せると、残った全員でエノーフ地区の組合まで転移しました。

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