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目立つなという方が無理

 分かってはいたことでしたが、ルグリオ様やセレン様はただそこにいらっしゃるだけでも目立ってしまわれるので、目立たずに、見つからずに、よく知らない建物の中を進むというのは無理な話でした。


「もしかしてルーナ、そこに自分が入ってないとでも思ってるの」


 メルが全然わかってないねとため息をついています。


「言っておくけど、ルーナは人の事言えないから。セレン様もそうだけど、ルーナも負けないくらい美少女だから。むしろこの中では私だけ目立たなさ過ぎて逆に目立ってるまであるくらいだよ」


「そんなことはありませんよ。メルもとっても可愛いですよ」


 そんな私たちの会話を無視して、黒い甲冑を着た人物が一歩前に進み出て来て、マスクの顔の部分を下げて口を開きました。


「先に警告だけはしておく」


 黒い甲冑の騎士風の男性と思われる方は、肩幅程度に足を開かれると、音を立てて、ご自身の足元に剣の入っている鞘を突き立てられました。


「俺たちの着ているこの鎧や胸当てには、効果に差はあれど、魔力を吸収するという性質がある。あんた方が多少は武術の心得があるのだという話は聞いてはいるが、それでも魔法を使わずに俺たち全員を無力化出来るはずもねえ。せっかく来てもらったところ悪いが、早めに抵抗を諦めて投降した方が身のためだぜ。それに、もしかしたらあんたたちを傷つけると上がうるさいかもしれないし、俺達もわざわざ戦わなくて済む。その辺りが落としどころだと思うんだけどな」


「落としどころですって」


 セレン様がつかれた大きなため息が私にも聞こえました。


「私たちも舐められたものね。あなたは見た目だけはできそうなのにがっかりだわ」


「愚かな。自ら助かる道を放棄するなど。仕方ない。強引になるが、少々痛い目を見て貰おうか」


 黒い甲冑の方の号令で、鎧を着こんだ方達が一斉になだれ込んできます。しかし。


「ルーナとメルは僕たちの背中から出ないようにして」


 言われるままに、私とメルはルグリオ様とセレン様の背中にぴったりと身を隠します。


「せいっ、やっ」


 掛け声とともに突き出された槍を、ルグリオ様はただ手のひらを側面に当てるだけで簡単そうに弾き飛ばしてしまわれました。

 私も、その槍を突き出した当人も、言葉もなく呆然と、手の中から弾き飛ばされごろんと床に転がった槍を見つめていました。


「どうしました。とんでもない隙ですね」


 いつの間にやら弾き飛ばされた先頭にいらした方は、いつの間にやら懐に潜り込まれていたルグリオ様の掌底によって吹き飛ばされて、背後の壁に激突してそのまま気を失ったかのようにぐったりと力なく倒れられました。


「皆さん勘違いされている方も多いようなのですが、僕も、それに姉様も魔法しか使えないというわけではもちろんありません」


 そのまま半回転されると、私たちの方へ向かって手に持った剣を振りかぶっていた方の正面に素早く回り込まれて、拳でその剣の軌道を逸らされるのと同時に体側に拳をめり込まされて、正面の方は悶絶してその場に崩れ落ちました。

 そして、細く小さく絞り込まれた光弾を飛ばされて鎧の間隙を突かれた騎士風の格好をした一人の男性は、その個所を押さえながらその場に蹲ってしまわれました。


「そして今ご覧になったように、決して魔法が全て無効ということでもありません。素早く、細い、一点集中型のものならば容易く隙をつくことが可能です」


「簡単に言ってくれるねえ」


 引きつったような声と共に鎧がこすれてうるさい音が通路に反響します。

 おっしゃりたいことはよくわかります。そのようなことができる方はほとんど存在しないことでしょう。


「そして、そういった方法をとらずとも、別の方法もあります。もっとも、こちらの場合は加減が分からないため、やり過ぎてしまうことになってしまうでしょうから、あまり取りたい手段ではなかったのですが」


 ルグリオ様の手の中に拳大の黒色の球体が浮かび上がります。そこから感じるのは、圧倒的なまでの魔力。今までルグリオ様からは感じたことのない、圧縮された高濃度の純魔力球体のようでした。そこから感じる圧倒的なまでの魔力に、魔力を吸収するという鎧を着こんでいる方達が、おそらく無意識のうちにでしょうが、うめき声を漏らしながら後ずさっています。


「しっかりしろ。この鎧は魔力を吸収―—―—」


「本当にそうでしょうか」


 私にとっては普段と変わらない調子に感じられましたが、相手の方にはおそらく、かなりの恐怖を伴って聞こえたことでしょう。


「皆さんも水を飲んだり、スープを飲んだりするときには器を使いますよね」


「な、何の話だ」


 余裕のなさそうな口調で先頭の方が応じます。


「当然ですが、器の容量以上にスープを注げばスープは溢れてしまいます。説明されるまでもなく、自明の話です」


「何が言いたい」


「何にでも容量というものがあるということです。まあ、実際に見ていただいた方が理解も早いでしょう。勉強と同じです」


 そうおっしゃられると、ルグリオ様は手の中の黒い魔力の球体を投げつけられました。投げつけた、というのは結果から推測したことであって、その挙動が見えたわけではありませんでしたが。おそらくは避ける間もなくその黒い球体がぶつかったのであろう方は、魔力を吸収するという鎧を着こんでいたらしいのにも関わらず、膝から崩れ落ちました。


「な、なにが」


「その鎧、確かに魔力を吸収するようですね。本来ならば絶命していてもおかしくはないはずでしたが、気絶程度で済ませるとは」


 ルグリオ様はあくまで冷静な口調で告げられました。


「要するに、何にでも限界は存在するということです。たしかに多少の魔力なら吸収するのかもしれませんが、限界容量以上の魔力を受ければ、当然受容しきれず攻撃が通るものと思っていましたが、間違ってはいなかったようですね」


「馬鹿な。一体どれほどの魔力を保有しているというのだ。現に」


「少なくとも、ルーナとアーシャ、それに姉様を守りながらでも、人質を取り返して、この館を制圧できるくらいには」


 何か言いかけていた言葉を最後まで聞かずに、ルグリオ様は目の前の全ての方の意識を刈り取られました。

 

「聞こえているわよ、ルグリオ」


 振り向けば、セレン様の目の前にはすでに立っている方はいらっしゃいませんでした。


「まあいいわ。先を急ぎましょう。何だか嫌な予感がするわ」


 ルグリオ様がその場の全員を素早く転移でお城まで運んで、ルードヴィック騎士長様に引き渡されると、私たちは再び白い鳥に導かれて建物の奥へと進んでいきました。


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