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潜入のち発覚

 とりあえず建物の中の情報を得るために、私たちは内部を伺うことが出来そうな窓を探しました。

 それほど警戒していないのか、それとも中で何か起こっているのかは分かりませんが、見張りのための人員は正面と思われる入り口の二人だけで、私たちは見つかることなく、格子のはめられた窓を発見することが出来ました。


「ルグリオ、ちょっとあそこから中を覗いてきなさいよ」


「中を覗けと言われても、高くて届きそうもないのだけれど」


 窓の高さは私たちの身長を遥かに上回っていて、とても手は届きそうにもありません。


「壁を登ればいいでしょう。こうやって」


 セレン様は何の躊躇いもなく壁を指差されると、その部分に丁度いい具合の窪みが出来て、あっという間に伝って登れそうなほどにでこぼこした壁面に様変わりしました。


「まさか、ルーナやメルに登らせるつもりじゃないわよね」


 セレンは私たちの服装をご覧になられながら、じとっとした視線をルグリオ様に向けられました。特に意識はしていないのでしょうが、メルは何げなく後ずさりしていました。


「まさか。もちろんそんなことはさせられないよ」


 ルグリオ様は壁を登られて、顔をのぞかせられると、そのまま、おそらく中に転移されたのでしょうが、姿が見えなくなりました。


「大丈夫でしょうか」


 メルが不安そうにセレン様に話かけています。私もルグリオ様のことは信頼していますが、心配する気持ちは同じです。


「大丈夫でしょう。それよりも、多分そろそろね」


 セレン様がそうおっしゃられると、ルグリオ様が再び窓から顔をのぞかせられました。


「ここは大丈夫そうだよ」


「じゃあ行きましょうか」


 セレン様は私とメルの手を取られると、ルグリオ様の下まで転移されました。



 華美な装飾を施された室内には胸当て鎧と手甲、足甲、そして剣を持ったままの状態で数人の男性が倒れていました。


「なんだか急に眠くなったみたいで」


 ルグリオ様は近くの机の上に乗せてあったお酒の瓶を指差されながらそのようにおっしゃられました。グラスには色のついたお酒が注がれていましたが、机や床には一滴たりとも零れている様子はありませんでした。


「部屋の中は一通り確認したけど、気を付けるべきものはなさそうだよ。少なくともこの部屋には」


 セレン様は室内を興味のなさそうなお顔で一瞥されると、先を急ぎましょうと扉へ向かわれました。



「やっぱり部屋の中からじゃ聞こえないね」


 ルグリオ様はしばらく扉に耳をつけて外の音を拾おうとなさっていたようでしたが、諦めて首を横に振られると、慎重な動作で扉をわずかに押し開けられました。すると、内部の巡回のものらしい足音が外から聞こえて来ました。


「おい、そっちはどうだった」


「ああ、さっき侵入してきた奴らがいただろう。なんだかエクストリアの学生だったらしく、学生証なんて持ってやがったぜ」


 私とメルは思わず出そうになった声を噛み殺し、顔を合わせました。

 学生というのはまず間違いなく、アーシャとシズクのことでしょう。


「そいつはやばいんじゃないのか。いなくなったと知られればここにも足がつくんじゃ」


「大丈夫だろう。知らぬ存ぜぬで通せば、こんなところに学生が入り込んでいるなんて教師も思うはずはねえよ」


 などと笑い声をあげながら遠ざかって行きます。


「どうやらこの建物に捕まっているのは確定みたいね。急ぎましょう」


 セレン様は縄を取り出されて部屋の中の男たちを縛りあげてしまわれると、扉を開いて外へと足を踏み出されました。




 ルグリオ様がお創りになられた白い鳥に導かれるまま、私たちは建物の内部を進みました。廊下の突き当りまで進むと、階段を下りて、どうやら地下へと向かうようです。

 階段を下りきると、私たちの足音は消していますから、石畳を叩く別の足音が曲がり角の先から響いてきました。


「誰か来るから、壁に張り付いていて」


 ルグリオ様に言われるままに、私たちは息を殺して壁に張り付きました。

 先程と同じ鎧を着た男性がこちらに姿を見せ、目を見開くのと同時に、声を上げる間も与えずにルグリオ様はその方の意識を絶たれました。


「おい、どうした」


 壁の向こう側から声が聞こえてきます。ルグリオ様が気絶した方の手を支えながら何でもないというように振られると、それきりこちらに声はかけられませんでした。


「たるんでいるわね」


 セレン様は漂う酒気に顔をしかめられながら吐き捨てられました。


「でも今の僕たちにとっては好都合かもしれないよ」


「そうね」


 壁の向こう側は明かりが灯っています。私たちが先へ進もうと頷きあった瞬間、私たちが先程降りてきた階段の上から声が掛けられました。


「なんだ、お前たちは」


 降りてきた男たちは、敵襲敵襲と叫びながらじりじりと階段を降りて私たちの下へ迫ってきます。


「姉様」


「分かっているわよ」


 ルグリオ様とセレン様は、私とメルを間に挟むようにして、階段と通路の向こう側へ背中合わせに立たれました。

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