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我に策あり

「あら、ルーナ。何があったのかしら」


 セレン様は分厚い本を何冊も広げられながら、怪しげな色の煙を上げている薬品の入った瓶を振っていらっしゃるところでした。

 のんびりとしている暇はないのですが、まず話さなくては始まらないため、部屋に入ると、勧められるままにセレン様の前の椅子に腰かけます。


「メル。何も遠慮することはないのよ」


 部屋に入ったところで遠慮するように固まってしまったメルの手を引いて椅子に座らせると、セレン様は作業を中断されて、カップを取り出されようとしていらっしゃったようですが、途中でその手を止められて私たちの正面の椅子に腰かけられました。


「お忙しいところ申し訳ありません、セレン様」


「全然そんなことはないわ。あなた達が来てくれてとても嬉しいわよ。私はね」


 セレン様は優雅に微笑まれると、それきり何もおっしゃられずに私たちが話し出すのを待たれるようでした。


「何か言いたそうね、メル」


 まさか話しかけられるとは思っていなかったらしいメルは椅子に座ったままピシッと音が聞こえてきそうなくらいに固まっていました。


「何も遠慮することはないのよ」


 セレン様に優しく促されて、メルは意を決したように口を開きました。


「あの、セレン様は何もお尋ねにならないのですか」


「尋ねているじゃない。何があったのかって」


「いえ、そうではなく」


 メルが困ったような顔をしていると、セレン様はたまらなく愛おしいものでも見るかのようにとても綺麗な笑みを浮かべられました。


「ふふっ、ごめんなさいね。別に困らせようと思っていた訳ではないの。急いでいるみたいだったから手間を省いてあげようと思っただけなのよ。本来なら学院にいるはずのあなたたちがお城に戻ってきているということは何か余程の事態が起こったのでしょう。それに馬車が来たという知らせは受けていないから

ここへ来たのはおそらくルーナが使った転移の魔法。お母様に注意されている転移の魔法を、ルーナがむやみやたらと使うはずはないわ。つまり、その転移の魔法を使ってまで私に会いに来るほど、事態は逼迫しているのだと考えられるわ。ルグリオのところにいかなかったのは、女性絡みだからということで無意識に避けたからかしら」


 セレン様は一息でそこまでおっしゃられると、再び私たちに視線を戻されました。


「じゃあ、改めて聞かせて貰えるかしら」





 私たちが話し終えるとセレン様は少しばかり思案するような顔をされた後、立ち上がられると、優雅な仕草で私たちに手を差し伸べられました。


「それじゃあ、あまりもたもたしているわけにもいかなさそうだし、さっさと行きましょうか」


 セレン様は私たちの手を握られると、即座に転移されました。


「セレン様」


 セレン様が転移された先はエノーフ地区の組合、ではなく、ルグリオ様がいらっしゃるお城の中の訓練場でした。

 ルグリオ様と、ルグリオ様に稽古をつけていらっしゃる先生は突然現れた私たちに目を丸くされていらっしゃいました。


「姉様、それに、ルーナとメルまで。一体何が」


「いいから来るのよ。すみません、少々ルグリオをお借りしますね」


 臣下の礼をとられた先生に微笑まれると、セレン様はルグリオ様の腕を捕まれて、次の瞬間に私たちが見たのはエノーフ地区の冒険者組合の前でした。


「姉様」


「ルグリオ。あなたの稽古は何のためのものなの。自分を、そしてルーナを守るためのものでしょ。だったらしっかりとルーナを守っていなさい」


「いや、そうじゃなくて。まあいいか」


 ルグリオ様がため息をつかれるのを見つめていると、私の視線に気づいたようなルグリオ様がごめんと笑顔を漏らされて、私の頭に手を乗せて、優しく髪を撫でてくださいました。


「別にルーナに対して思うところがあるわけじゃないんだ。どんな状況だってルーナのためなら僕はすぐに駆け付けるよ。だから、今のは、そう、自分の気持ちを切り替えるためのものかな」


「ありがとうございます、ルグリオ様」


 すみませんでは違う気がして、ありがとうございますと感謝を告げました。


「それじゃあ、人に見つかる前に出発しましょうか」


 


 建物の外環を一周された後、セレン様は難しいお顔でため息を一つ漏らされました。


「これは一気に制圧してしまうのは無理そうね」


 現状、この場にはセレン様とルグリオ様、それから戦力にはならなさそうな私とメルしかいません。ルードヴィック騎士長様にお話しするという手もないわけではありませんでしたが、以前誘拐犯と対峙した時とは違い、時間があるわけではないため、回復する時間がないので他の方はお呼びできませんでした。あまり大事になり過ぎて、相手に気付かれてしまうと人質がどうなるか分からないという理由もあります。


「そうだね。気付かれないようにするにはやっぱり陽が落ちるまで待たなくちゃだめかな」


「あの、中にはシズクとアーシャがいるのですが、そこになら転移されることが可能なのではないですか」


 メルの疑問はもっともでしたが。


「あなた達が話してくれた内容によると、他にも捕まっている子がいるみたいじゃない。おそらく部屋を分けて捕まえられていると思うのだけれど、それだと他の捕まっている子を助けられないのよ」


「転移できるのは知っている場所か知っている人のところに限られるからね。こっちが探している間に向こうに先に動かれて、別の場所に移動されたら厄介だからね」


「そうですか」


「落ち込まないで。もちろん策はあるわ。私たちが来たのだから、確実に全員助けるわよ」



 セレン様はそう不敵に笑われました。


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