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4年生学内選抜戦決着

「待って、ルーナ」


 互いに名乗り合い、まさに私が男子寮寮長、ヴィクトールさんとの戦いを開始しようとしたところで、横から待ったがかけられました。


「レベッタ先輩」


 私たちの戦いに横やりを入れられた5年生のレベッタ・ロマーノ先輩は、クリーム色の髪を掻き上げられながらこちらへ向かって滑るように移動してきて、私の肩に手を置かれました。視線が向けられるのを感じて、私はお顔を見上げました。


「ルーナが並の同級生、いえ、もしかしたら一部の5年生よりもできるのはわかるけど、ここは私に任せてくれないかしら」


「分かりました」


 私は自分で戦っても構わなかったのですけれど、レベッタ先輩の声には力がこもっていましたし、先輩としての使命感のようなものも感じられたので、他に来るだろう男子生徒に備えて校章の位置、シエスタ先輩の隣まで下がりました。。

 私があっさり引き下がったせいなのか、レベッタ先輩は拍子抜けされたように目を瞬かされました。


「どうかなさいましたか」


「何か調子狂うわね。いえ、何でもないわ。それよりも校章をお願いね」


「はい」


 レベッタ先輩は待っていてくださったヴィクトール男子寮長に向き直られました。


「待っていてくれるなんてね」


「まあ、待つくらいはね。それにしても、ルーナ様と戦うのは少し楽しみだったんだけどな」


「私でごめんなさいね。だけど」


「分かってるよ。後輩に守られるんじゃあ恰好つかないもんね」


 言葉を交わされると、レベッタ先輩の前には盛り上がった地面が壁のようにそびえたち、その壁ごと移動して女子寮前に立ち並ぶ木々の中へと姿を消されました。



「ルーナ様」


 シエスタ先輩のじとっとした視線に迎えられて、少々気まずくなった私は先に言い訳をまくし立てました。


「私が戦うつもりだったのは本当です。最後の守りにはシエスタ先輩がついていてくださった方が私も安心できますし、それに」


「それは建前ですよね」


「はい。すみません」


 元より誤魔化しきれるとは思っていませんでしたが、あっさりと看破されて私は素直に謝罪しました。


「ルーナ様。以前にも申し上げたことと思いますが、私の身体のことであれば心配は無用です。私も伊達や酔狂、お飾りで寮長についているわけではないのですから。今後は出来る限りそういったことはなさらないでください」


「わかりました。では、私からも一つ、申し上げてもよろしいですか」


 シャノンさんがハラハラおろおろと私とシエスタ先輩の様子を窺っているようでしたが、幸い、こちらの様子に気付いているような守備陣衛の先輩方の奮闘のおかげで、校章の無事は守られています。シャノンさんも、首を振られて頬を張って、話し始めてしまった私たちの代わりにかなり集中しているようです。


「何なりとお申し付けください」


 シエスタ先輩が膝をつこうとされたので、それはお止めしました。

 シャノンさん一人というわけではありませんが、最重要部の守りを長いこと後輩に任せきりにするのは忍びないのですが、今告げておかなくてはこの先機会があるかもわかりませんから。


「シエスタ先輩。私のことを気遣ってくださることは大変嬉しく思っています。ですが、私は守られてばかりのお姫様になるためにこの学院に通っているのではありません。むしろ、ルグリオ様やセレン様、他の皆様にも守られてばかりではなく、自分で行動して、自分の意思を貫くことができるようになるためにこの学院に通い、学んでいるのです。先輩に対して不遜な物言いになることをお許しください。私は自分の意思でここにいるのです。少なくとも、この学院に通っている間はただのルーナ・リヴァーニャとして扱っていただけると嬉しいです」


「・・・・・・善処致します」


 お互いに完全には納得していませんでしたし、おそらくはこの先も同じような展開を幾度も迎えることでしょう。しかし、それでもこのひと時に関しては、シエスタ先輩のルビーのような真っ赤な瞳に理解してくださったような色が浮かんでいるので、一先ず話は切り上げて目の前に集中しなおしました。


「やはり、私は・・・・・・」


「どうかなさいましたか」


 シエスタ先輩が何事かつぶやかれたような気がして後ろを振り返ります。シエスタ先輩は静かに首を横に振られました。


「いえ、何でもありません。もうすぐ決着とは思いますが、最後まで油断せず行きましょう、ルーナ」


 シエスタ先輩は最後の言葉を無理して飲み込まれたようでした。


「はい。シエスタ先輩」


 そう返事をするのと同時に、男子寮の方からも何かが崩れ落ちるような大きな音が響いてきました。


「そろそろ終わりなのでしょうか」


 シャノンさんが若干残念そうなつぶやきを漏らしていました。


「シャノンさんもやはり攻撃陣に参加して見たかったですか」


 私がそう尋ねると、いいえとシャノンさんは首を横に振りました。


「2年生までは出られなかったので、参加できることが嬉しかったです。私の出番はほとんどありませんでしたけど、この雰囲気を味わえるだけで良い経験になりました。・・・本音を言えば、攻撃にも参加して見たかったですけど」


「本戦出場が叶えばその機会もありますよ」


「そうですね。楽しみです。そのためにも、今はここに集中します」


 直後飛んできた氷柱をシャノンさんが放った火球が迎撃したところで試合の終了と女子寮側の勝利を告げる合図が鳴り響きました。

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