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4年生学内選抜戦 3

 視界のない状況でも、魔法的な探索がある程度阻害されていても、私が探索できたように、そしてシャノンさんが確認したように、こちらの位置をある程度特定することは決して不可能というわけではありません。

 また、尽きることなく発生させ続けているとはいえ、風を起こすなり、結界を作り出してその中で魔法を使うなり、この霧の影響を受けずに探索する方法はいくらでも思いつきます。もちろん、そういった妨害の突破に魔力を使ってくれるので私たちにとって有利になることには変わりがないのですけれど。

 試合開始から幾分経ち、体感としてはおそらく半分ほどの時間が過ぎた頃でしょうか、ようやくと言っていいのか、私の結界の最外層を突破された反応がありました。

 相手の陣地、男子寮の方からはすでに戦いが始まっている音が聞こえてきているため、決着はそう遠くはないと思いますが、油断などは以ての外です。


「シンシア。寮とは逆の方向、学院の方からです」


 私と同じように、ご自身でつくられた霧を突破しながらこちらへ向かってくる何者かに気付かれた様子のシエスタ先輩が、近くを守っていてくださっているはずのシンシア先輩に向かって警戒の声を投げかけられます。


「了解。みんな、気を引き締めていくわよ」


 私からは姿を見ることはできませんが、結界の中ですので位置は分かります。

 シンシア先輩の声が聞こえるのとほぼ同時に、辺りの霧が吹き飛ばされるように晴れたため、突風が吹きこんで来たのが分かりました。


「ようやく到着か。場所が女子寮ってのが分かってなかったらえらいことになってたな」


「そうだね」


 吹き飛ばされた霧の中から姿を見せたのは、赤黒い髪に紅い瞳の男子生徒と濃い青色の髪に金色の瞳の男子生徒でした。


「ああ、ここが女子寮か。通りがかることはあってもこんなに中まで入って来られる機会はそうはないから、今のうちにしっかりと心に焼き付けておかないと」


 濃い青い髪の方は大きく手を広げられて深呼吸をされた後に、上空へ向けて信号弾のようなものを打ち上げられました。

 それと同時にシエスタ先輩は霧を解除されたらしく、辺りが徐々に鮮明に見渡せるようになってきました。こちらの位置を知られてしまった以上は、目くらまし以上の効果はほとんど期待できない、探索系統の魔法の妨害はできますが、霧を維持しておく必要はもはやないということなのでしょう。

 私も最外層の結界を解除して、目の前に姿を見せられた方に集中できるように態勢を整えます。


「おっと、いけねえ。大分時間を取られちまったからな。さっそく戦闘に入らせてもらうぜ」


 言うが早いか、爆発音とともに赤黒い髪の男子生徒の姿が一瞬で大きくなり、こちらへ向かって真っ黒い影で出来ているような、鎌にも見えるようなものを振るってこられ、それはシンシア先輩の手に握られている、リィン先輩と同じような、氷でできているらしい白銀の剣に受け止められていました。


「いきなりうちのお姫様たちに切りかかろうなんて無粋なのよ、ターラン」


「いきなりじゃねえだろ、ちゃんと断ったじゃねえか」


 シンシア先輩の件を握っていない方の指の先から光弾が飛び出し、それはターラン先輩の避けられたギリギリを通過して消えて行きました。

 反対側からは、回り込んできた巨漢の男子生徒、同じ組のネロ・レイニスさんがシェリルとぶつかって弾き飛ばしたところのようでした。


「くっ、やるじゃない」


「シェリル、大丈夫ですか」


 シェリルは心配無用とばかりに、ネロさんから視線を外さずに障壁と身体強化、加えてゆらゆらとした紺色の魔法装甲を再展開しています。

 魔法装甲は以前対峙させていただいたサイリアのユルシュさんの鎧と似たようなものではありましたが、鎧ほどには形が決まっておらず、出現場所も身体全体を覆うものではなく、相手の攻撃に合わせて集中させる個所を変えられるもののようでした。


「私は大丈夫。ルーナは自分と校章のことだけ考えていればいいから」


 それだけ言い残して、シェリルは再度ネロさんに突撃していきました。シェリルの突撃速度及び威力はすさまじく、驚いているような表情のネロさんを連れて、徐々にではありますが戦場を移動して中心地から離れていっているようです。

 時折、男子寮の方からもかなり大きな激突音や爆発音が聞こえてきて、閃光がほとばしるのが見えるため、まだ戦闘中なのが分かりますが、経過が分からないのがもどかしくもあります。


「では、僕たちもそろそろ始めましょうか」


 その場で成り行きを見守っていたらしい濃い青い髪の男子生徒に声をかけられました。


「彼はヴィクトール・オンエム。今の男子寮の寮長です」


 シエスタ先輩が教えてくださると、彼、ヴィクトールさんはその場で優雅に一礼されました。


「ご紹介に預かりましたヴィクトール・オンエムです。よろしければ一手お願いしたいのですが」


 私がそれに応えて前に進み出ようとすると、シエスタ先輩に制されました。


「ルーナ様が出られるまでもありません。ここは私が」


 どこがとは言いませんが、なんとなく嫌な予感がした私はその手をくぐってシエスタ先輩の前に立ちました。


「いえ、シエスタ先輩。先輩はここで守っていてください。私がどこまでできるか分かりませんが、まずは私に行かせてください」


 シエスタ先輩と私の視線が交錯します。しばらくルビーのように美しい先輩の瞳をじっと見つめていると、根負けしたようにシエスタ先輩が分かりましたとおっしゃられました。


「ですが、ご無理だけはなさらないでください」


「ありがとうございます、シエスタ先輩」


 私はさらに一歩進み出て、ヴィクトールさんに向かって一礼しました。運動着なのでカーテンシーはとれませんでしたけれど。


「お待たせしました。ルーナ・リヴァーニャです。シエスタ先輩ではなく申し訳ありませんが、精一杯お相手を務めさせていただきます」


「とんでもありません。しかし、こちらも手加減は致しませんよ」


「もちろんです。よろしくお願いしますね」



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