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4年生学内選抜戦 2

 開始直後、真っ白な霧が私たちが守っている校章を中心として、徐々に広がり始めました。それは靄のように辺り一面を覆いつくしました。


「驚かれないでください、ルーナ様。これは皆と協議した結果なのです」


 シエスタ先輩の発生させた霧は留まるところを知らず、時間の経過とともに濃くなっているようです。それに加えて、若干ではありますが魔法の精度を狂わせる働きをしているようです。


「すみません。こちらまで巻き込んでしまいました」


 シエスタ先輩がそうおっしゃられた声が聞こえたかと思うと、私たちの周り、正確にはシエスタ先輩と3年生のシャノン・グリムさん、それから私と校章の周りの空間だけが少し晴れて、お互いの顔が確認できるくらいにはなりました。

 シャノンさんは素直に驚きを浮かべ、きらきらとした瞳でシエスタ先輩を見つめながら魔法の技量を称賛しています。


「シエスタ先輩、ルーナ先輩、私、少しの間ここを離れても良いですか。ちょっと、この霧がどこまで広がっているのか確認したくなりまして」


 開始直後ですし、早々には来ないとも限らないわけですが、私とシエスタ先輩は顔を見合わせてから頷きを返しました。


「構いませんよ。好奇心は時に危険な時もありますが、成長する上では非常に大切な感覚だと思いますから」


「わーい。あっと失礼しました。ありがとうございます、ルーナ先輩。それでは、少し外しますね」


 シャノンさんは、頭頂部付近で赤いゴムに結ばれた紺色の短髪を揺らしてぱっと笑顔を浮かべたかと思うと、ぐっと地面に沈み込み、次の瞬間にはバネに弾かれたかのように衝撃波をまき散らしながら空高くへジャンプしていました。


「すごい、すごいです。フィールドの半分くらいは埋まっていましたよっ」


 私とシエスタ先輩が、音を誤魔化すために張った遮音障壁は何とか間に合い、驚いた女子寮の方も、気付いたような男子寮の方もこちらへ向かってくる様子はありません。


「シャノンさん。次からはこちらに注意するのを忘れないでくださいね。個人戦ならば構いませんが、これは団体戦なのですから」


「はい。すみません。ルーナ先輩」


 本当に分かっているのでしょうか。びしっとした敬礼は見事なものでしたが、なんとなく不安を感じるものがありました。


「い、嫌ですね、先輩。そんなじとっとした目で見ないでくださいよ。興奮、じゃなかった冷汗が流れるじゃないですか」


「シエスタ先輩、この霧はどのくらい持つのですか」


「ああん、すみません、無視しないでください。でもこれはこれで」


 ごくりと喉のなる音が聞こえてきて、色々と大丈夫なのでしょうかと思いましたが、とりあえずそちらは放っておくことにして重要なことを先に聞いておきます。


「問題ありません、ルーナ様。自陣から相手の陣地までの丁度中間あたりまでに範囲を設定してありますから、おそらくは試合時間中くらいは持続できるはずです」


「ご無理はなさらないでくださいね」」


 シエスタ先輩は霧で額に張り付いた白金に輝く髪の毛を手で払いながら、ありがとうございますとおっしゃられました。


「ですが問題はありません、ルーナ様。既にご存知とも思いますが、この霧は視界の妨害だけでなく、魔法、その他の探査も妨害しますので、おそらくここまで辿り着ける相手はほとんどいないかと思われますので」


「そうでしょうか。先程から、というよりも試合開始以降、結界を以前と同じように三重に展開していますが、それらすべての反応を感じ取れていますよ」


 例によって展開しているのは校章を守るもの、私たちを守るもの、そして対応可能範囲ギリギリに設置しているものです。

 たしかに今のところ結界内には味方の、女子生徒の反応しかないようですが、すり抜けてくる相手がいないとも限りません。実際に、サイリアにはそのような技能、異能をお持ちの方がいらしたわけですし。

 そう思っていたのですが、シエスタ先輩とシャノンさんは驚いたような、納得しているような表情を浮かべていらっしゃいました。


「どうかされましたか」


「いえ、何でもあ「すごいです、ルーナ先輩っ」


 シエスタ先輩は変わらず冷静な口調で微笑みを浮かべていらっしゃるようでしたが、そのシエスタ先輩の言葉を遮られたシャノンさんはかなり興奮していらっしゃるようでした。


「私も少し探査の魔法を飛ばしてみたんですけど、全然探れなくてすぐに戻ってきてしまいました。そんな中でちゃんと使えているなんて、やっぱり流石です、素敵です、ルーナ様っ」


「あ、ありがとうございます。ですが、その、あんまり寄って来られると、体勢が」


 私は4年生でシャノンさんは3年生だというのに、シャノンさんの方が私より身長が高いため、手を握られたまま詰め寄られると、のけぞる形になってしまって、少しばかり背中に負担がかかるのです。


「ああ、私ったら少し興奮してしまって。すみません、ルーナ先輩」


 シャノンさんはぱっと手を放して頭を下げられました。手を離されたことで、私は数歩後退しました。


「もう大丈夫です。それよりも、安心していてはいけませんよ。まだまだ、油断は・・・聞いていらっしゃいますか」


「私、今日はこの手は洗いません。・・・・・・っは、はい、聞いています、ルーナ様」


 おっしゃることの意味はよくわかりませんでしたが、洗わずとも辺りは霧に覆われていますから意味はないのではとは言わずにおきました。

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