討伐からの帰り道
投降しようとしたらまたもエラーで書いた文章が全部消えてしまい、このような時間になってしまいました。
ワイバーンの討伐は思いのほか順調に進めることが出来ました。というのも、一匹はすでに捕らえたので、脚に関して心配する必要がなくなったためです。まあ、脚というのはとりあえずミーシャさんやアーシャたちを納得させるための方便ですけれど。本当に納得してくださったかどうかはわかりませんが。
たしかに、高速飛行する魔物、大音声による息吹、硬い皮膚とかなりの難度の依頼であることには変わりありません。
しかし、生け捕りにすることと討伐とでは難度としての差にとてつもなく大きな差があります。
討伐して良いのなら、捕らえることを前提とした場合に割けるべき攻撃部位の限定もありません。
「いっけえ」
アーシャの放った雷はワイバーンの速度を優に超え、確実に脳を直撃し、一撃で持って絶命させました。
「私だって」
メルの作り出した火球はワイバーンの翼に命中し、翼を燃やし尽くされたワイバーンは墜落しました。
シズクから射出された氷柱は、一本だけではありましたが、その分硬度と速度に威力が割り振られていて、ワイバーンの硬い皮膚を貫通しました。
数で圧倒的に勝っているワイバーンではありましたが、仲間をやられて狂騒状態に陥ってしまったらしく、こちらとしては好都合でしたが、どの個体もが我先にと私たちと馬車に向かって飛び込んで来ようとしているため、上手く進むことが出来ずに、結果としてまとまっている巨大な格好の的に成り下がっていました。
そんな状況を打破しょうとしたのか、一匹のワイバーンが私たちに向かって大きく口を開きました。
どうやら学習能力が低いのか、それとも先程のことをもう忘れているのか。
「アーシャ」
「わかってるよ」
今にも火炎を吐きだそうとしているワイバーンの正面に反射障壁を展開します。吐き出された炎は跳ね返り、ワイバーン自身を丸焦げにしました。
「ワイバーンって食べられるのかな」
メルも興味深そうに丸焼きになったワシバーンを眺めています。
これに懲りて逃げ出されると時間が掛かって厄介になるところでしたが、彼らは逃げるそぶりを見せずにやはりこちらへ向かって突撃と急降下を繰り返してきます。
「あと半分ほどですね」
接近してきたワイバーンに向かって雷を数度落としつつ、残りのワイバーンへと視線を向けました。
数だけは多いワイバーンを討伐し終えたのは夕暮れも近づいてくる頃でした。
目に見える範囲にワイバーンが見当たらなくなるころには、私の収納も大分いっぱいになっていました。
「今はこんなところが限界ですか」
「十分だと思うよ」
私は最後の一匹を収納し終えると、ミーネさんに向かってお声をかけました。
「とりあえずここまでで一区切りだとは思うのですが、ワイバーンの討伐の件はこれで完了ということでよろしいでしょうか」
「はい。確認いたしました。それで、どうなさいますか。本当にワイバーンに乗っていかれるおつもりでしょうか。思いのほか早く済んだので、今からでも出発することは可能ですが」
「今から出ると、到着はどのくらいになりますか」
「そうですね。とはいえ、夜中は進むことが出来ませんから日中に進むとして、最速で3日後の夕暮れ近くでしょうか」
「分かりました。おそらく大丈夫だと思いますから、それでお願いできますか」
「承りました」
「それから、帰りは何とかしますので、帰りのことは心配なさらずに先に戻ってくださって構いません」
私の返答にミーシャさんは目を瞬かせられましたが、何もおっしゃられずに頭を下げられました。
その後は問題なく、予定よりも早い3日後の朝には私たちはグレミンへと到着しました。
「こちらがグレミンの組合になります。それでは私はこちらで失礼させていただきます」
ミーシャさんに感謝を告げて、私たちは組合の中へと足を踏み入れました。
「まあね、こうなるのは分かっていたけど」
私が足を踏み入れると、それまで喧騒の絶えなかった組合が一瞬静まり返りました。その後には私たちを伺い見るような視線と、潜められた声が聞こえてきます。
私たちの前にあった人だかりは左右に分れて受付までの一本の道を作り出しました。
「おはようございます。ようこそいらっしゃいました、ルーナ様」
受付の方はやはり一瞬動揺されたのですが、すぐに持ち直されて笑顔を浮かべられました。
今は学生という身分で、実習での冒険者として依頼を受けてきましたと説明し、依頼書を提示して、依頼先の住所をお聞きしたところ、すぐに教えていただけました。
お礼を告げて、元来たまま空いている道を戻って組合から外に出ました。
「すみません、組合で依頼を受けてきたものですが」
私たちが声をかけると、お店の奥からすぐに店主と思われる方が出て来て下さいました。
依頼書を見せると、すぐに納得してくださったようでお礼を告げられました。
「それで、品物はどちらにあるのでしょうか」
「ここにあります」
私が収納していた目的の品をとりだすと、やはり目を丸くして驚かれました。
店主さんの目はしばらく私と品物を往復していたのですが、やがて我に返られたように平伏されました。
「大変失礼いたしました。ありがとうございます」
「いえ、気になさるのも当然です。それで、こちらでよろしかったでしょうか」
「はい。確かに確認いたしました」
奥からその方の奥さんと思われる方が出て来てお茶をお出ししてくださるとのことでしたが、急いでおりますのでとお暇させてもらいました。
「それで、どうするつもりなの」
お店を出てすぐ、アーシャに話かけられました。
「どう、とは」
「だから馬車に帰ってもらったりして大丈夫だったの」
「問題ありません」
「まさか、本当にあれに乗って帰るつもりじゃないよね」
「もちろん、私だけならともかく、そんな危険な目に合わせるわけにはいきませんから」
私はアーシャとメル、シズクに向かって手を差し出しました。
「捕まっていてもらえますか」
アーシャたちは不思議そうにしながらも手を握ってくれました。その直後には、私たちはエクストリア学院に最も近い、いつもの冒険者組合の裏手に戻ってきていました。
私も成長しているので、今ならルグリオ様やセレン様と同じように複数人での転移が可能だろうとは思っていましたが、成功して良かったです。無理ならば別の手も考えてはいましたけれど。
「普段ならば使用は控えているのですが、今回は時間もありませんでしたし、帰りには使用できるだろうとは思っていました」
知らない場所、行ったことのない場所には今のところ、成長すればどうなるかは分かりませんけれど転移することが出来ないのですが、知っている場所ならばどれ程離れていてもおそらく可能と思われます。
アーシャたちはぽかんと口を開けていましたが、状況を把握すると、数拍後には大きく息を吐き出していました。
「先に言っといてよね」
「心臓に悪い」
「そうじゃないかなって予感はしてたけど」
アーシャからも、シズクからも、メルからも少し不満をいただきました。
「ですが、ちゃんと間に合いましたよ」
ミーシャさんがまだ戻っていらしていないはずなのでかなり驚かれることとは思いますが、気にしてもしょうがないので、私たちは依頼の達成の報告をするために組合へと足を踏み入れました。