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組合の仕事―—取引、整理

 早朝。冷え込みも厳しく、空はどんよりとしていて今にも雪が降ってきそうです。肌を切るような風が吹きすさぶ中、私たちはソフィー先輩に連れられて市場へと買い出しに出かけました。


「買い出しのリストはそのメモに書いてあるから、手分けしてさくっと終わらせましょう」


 私たちは二手に分かれて食材等のを探します。


「おはようございます」


「おはよう、ソフィーちゃん。って後ろにいるのはルーナ様じゃないか。それに他のみんなも。どうしたっていうんだい」


 驚いた様子の露店の女性に私たちは丁寧にお辞儀をしました。


「おはようございます。今は学院の実習の最中でして、こちらへはその一環として付き添いで参りました」


「そうかいそうかい。この寒いのによく頑張るんねえ。ほら、これはサービスだよ」


 リンゴを4つおまけしてくださいました。私たちはありがとうございますと笑顔でそれを受け取ると、紙袋ごと収納しました。


「いまのそれ何」


「消えた・・・。そんなことって」


 ソフィー先輩とお店の女性は、驚いた様子で目を瞬かせて私のことを凝視していました。


「いえ、ちゃんとありますよ」


 私は先程いただいたうちのリンゴを一つ取り出して見せました。


「これは、えっと、そう、王家に伝わる魔法の一つで、アルメリア様にお教えいただいたものです。もちろん、セレン様もルグリオ様もご存知ですが、無暗に他人に教えることはするなと厳命されていますので」


「へえ。それは便利なんて言葉じゃ言い表せないほど便利だものね。容量はどのくらいなの」


 ソフィー先輩は目を煌かせて空中で手を動かしていますが、もちろんそんなにすぐに出来るはずもなく、手は空中を彷徨っています。


「限界は分かりませんけれど、セレン様は小屋を一軒とその他にも色々、そのくらいは収納されていました」


「家一軒・・・」


 お店の方は目を白黒させていらっしゃいましたが、ソフィー先輩はますます目を輝かせていらっしゃいました。


「さすがはセレン様。いづれ是非、色々と学院を卒業されてからのことなど、お聞かせいただきたいです」


 ソフィー様は中空を見上げて浸りそうになっていらっしゃいましたか、首を振って思い出されたように私に声をかけてくださいました。


「ごめんなさい。ちょっと考え込み過ぎていてしまったわね。次にいきましょうか」


 私たちはその後も同じようなやり取りを何度かしながら買い物を終えました。





 

 食事の後は組合の一室で、商人の方やそれぞれのお店の方との折衝の場に入らせていただきました。


「それでは存分にご覧ください」


 引き取った魔物や魔獣の解体された後の部位ごとに、それぞれの店子の方が鑑定されて、価格を決定されます。


「このワイバーンの翼膜はいいものだね。あっと、こっちの毛皮はこれからの時期に向けていいのがつくれそうだね。急いで作らなくちゃ」


「こっちはいつもの薬草だね。この歳になってくるとこの時期に出歩くのはつらくなってきてね。いつも助かっているよ」


「これは前に出しておいた依頼の報酬だよ。あのゴブリン共がうちの家畜を狙って来て大変困っていたからね。助かったよ」


 次々に物がなくなっていき、書類が減り、お昼ごろにはほとんどのものが捌けてしまいました。


「あとは、今日来られなかった人の分ね。じゃあ、ルーナ。これを戻しておいてもらえるかしら」


「分かりました」


 残った分を仕舞い終えると、ソフィー先輩について部屋を移動します。


「これが帳簿よ。つけ方は今から教えるから、昨夜の分、はもうつけちゃったから、今日の朝からさっきまでの分をつけてしまいましょう」


「はい」


 帳簿にはびっしりと丁寧な字で詳細な内容、取引物や食事に出したもの等の情報が細かく記載されています。

 正直なところ、教わるまでもないほどに丁寧に記載されていたのですけれど、ソフィー先輩は丁寧に教えてくださいました。


「そうそう。そこの数字を足して・・・随分呑み込みが早いのね」


「見ればわかるものですから」


 収支計算と記載場所だけですので一つ一つはすぐに終わります。ただ、量は膨大なのでそれなりにかかるとは思いますけれど。


「これが終わったら各部屋の掃除と点検、まだまだやることはたくさんあるわよ」


「よろしくお願いします」


 達成書を見ていると、知らない、行ったことのない場所の情報なども出て来て、次回以降に向かう場所の参考にもなったり、予習になったりもします。

 未だ開拓されていない地域、地図に詳細が記載されていない場所などの踏査も冒険者としての仕事の一貫です。危険は多く、私たち学生には荷の重い仕事ではありますけれど、地図が広がっていくのは書いている方も楽しいのでしょうねと想像して少し笑みがこぼれました。




 結局、膨大な量の書類を処理するのにはお昼過ぎまでかかってしまい、掃除等に移る前に賄をいただけることになりました。


「あ、ルーナ。お疲れ」


「メル。お疲れ様です」


 アーシャとシズクとは交代で休憩に入るので、メルと一緒に昼食をとりました。


「どうですか、そちらの様子は」


「うん、さっきまでは昼食をとる人たちで溢れ返っていたから大変だったよ。今は少しおさまったからこうして休憩に入らせてもらえたけど」


 それから私たちは他愛のないやり取りをしつつ、ソフィー先輩に冒険者の方々のことや仕事のことを伺ったりしながら昼食をいただきました。

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