表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/314

3年生の締めくくりに

 お兄様のご結婚とそれに伴うあれこれを終えて私たちがコーストリナへと戻ってこられたのは、冬の真っただ中、先輩方が卒業準備やらに追われて慌ただしくされている頃でした。


「ありがとう、ルーナ」


「いえ、お礼を言われることではありません。元はと言えばお兄様の結婚式に突き合わせてしまったのはこちらの方ですから」


 私は図書館に入り浸ってメルたちと一緒に試験勉強をしています。

 寮にいてもメルだけならば問題はありませんけれど、カイとレシルは女子寮には入れませんから、必然的に女子寮ではなく、学院の図書館や教室ですることになります。


「結婚式、素敵だったね。次は春ごろにルーナのお姉さまが挙式されるんでしょう。いいなあ。ちょっとうらやましいね」


 メルは中空をぼんやりと見つめながらため息交じりにつぶやいています。


「私たちだっていずれ結婚すれば、花嫁衣裳に身を包んできっと沢山の人に祝福されながら幸せな式を挙げられますよ」


「それはそうなのかもしれないけど」


 メルはちらりと隣を盗み見ていましたが、幸いなのか、聞こえている様子はなく、視線に反応してこちらを向いただけでした。


「どうした、俺の顔に何かついてるのか」


「何でもない」


 なんだ一体という声を無視して、メルは再び机に向かいます。


「メルはどの辺が好きなんですか」


「どうなんだろ。どの辺って言われてもあんまりピンとこないんだよね。本当に恋なのかと言われるとそこまで自信を持って言い切れるのかなって気はするし。ただ、物心つく前から一緒にいるし、レシルはその頃からしっかりしててお兄ちゃんって感じだったからそういう風には見られなかったのは事実なんだけど」


 分厚い教本のページをめくりながら、メルは確かめるように言葉を紡ぎます。


「だからもしかしたらサラに感じていたのも、遊び相手がとられちゃうっていうような感覚だったのかもしれないし、そうじゃなかったのかもしれない。好きかと言われれば好きだけど、それが恋愛感情なのかと言われると、そう言い切る自信は」


 メルはうーんと考え込んでしまいました。試験勉強中に余計なことを言ってしまったかなと思いましたが、メルは頭を振ると再びノートとにらめっこを始めたので杞憂に終わりました。




 補填の試験も無事終了した私たちは、3年生では最後の現地実習に赴くことにしました。

 

「試験前まで残しておくと大変になるから早いうちに済ませてしまいましょう」


 アーシャの言う通り、学年終わりの試験前は大変になると思って、さっそく組合に赴き、貼ってある依頼を眺めます。


「地図作成は・・・・・・時間が掛かりそう。商人との折衝って、これ依頼するようなことじゃないでしょう。こっちは・・・・・・遊び相手募集ただし女性に限るって怪しすぎるでしょ」


「だったら、ここでしばらく手伝いでもしてみる」


「ソフィー先輩」


「ユニコーンとの取引が始まってから、衣服やなんかの取り扱いも増えたけど、やっぱり薬の充実によって魔力が少なくなって治癒魔法の効きが弱くなっても回復が出来るようになったでしょう。それに、こっちに興味を持って冒険者になろうというユニコーンも最近では珍しくなくってね。割と人手が足りない感じなのよ」


 私たちは顔を見合わせます。

 たしかに組合ならばそれほど遠くはありませんし、冒険者ではないのかもしれませんけれど、冒険者の仕事に触れることが出来ます。それに馬車を借りる必要もなく、寝食も心配ありません。


「でもそれって、職種的には大丈夫なんですか」


 アーシャも気になったようですけれど、ソフィー先輩は心配いらないわとメモのようなものをぱらぱらとめくられると、どこか面白そうな口調で告げられました。


「私たちの代にもやっていた組はあったし、個人情報になるからあんまり詳しいことは言えないけど、今もエクストリアで冒険者を選んだ生徒が、呼子やに運びをやっていたりするところもあるから問題ないわよ」


 いいですよね、とソフィー先輩は受付の奥の方へ向かって声をかけられました。


「ほらね」


「ええっと、ソフィー先輩。どなたも返事をされていらっしゃらなかったですよ」


 アーシャの真っ当な意見は、すでに私たちというおもちゃを手に入れたようなソフィー先輩には届いていませんでした。


「返事がないのは肯定ってことよ。じゃあ、えっと、確かこのサイズの制服は無いから・・・・・・そのまま学院の制服でいいかしら。そちらの方が需要があるかもしれないし」


「需要とはなんでしょうか」


「ルーナ、細かいことは気にしちゃだめなのよ。それにここなら、料理も、裁縫も、掃除もできるし、たまには喧嘩の仲裁なんていうのもあるけど、そっちはだいたい私がやるし、あなた達にも利はあると思うけど」


 一応学院に確認をとったところ、大丈夫とのことでした。どんな職業も、もちろん冒険者も広義的にみれば人助けですから、困っているところがあれば助けるのは逸脱した行為ではないという判断だとのことでした。

 そんな感じで押し切られるように、私たちの3年生最後の現地実習先は冒険者組合になったのです。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ