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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
少女誘拐編
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3人でもお祭り

 次の日、警備の人たちに詳しい話を聞いたところによると、昨日、僕たちを襲った賊たちは、残念ながら他の子供たちが消えてしまった事件とは直接の関係はないらしかった。彼らは前払いの報酬で、今回の依頼だけを受けた、言い方は悪いが、使い捨ての傭兵だったらしい。


「それで、その依頼人のことは聞き出せたのですか?」


 僕の問いかけに、姉様の部屋まで報告に来たルードヴィック騎士長は、申し訳なさそうな口調で答えた。


「申し訳ありません。その手の魔法に詳しい者が情報を得ようとしているのですが、どうやらその賊たちにもよくわからないらしく、黒幕の正体は依然として判明しておりません」


「彼ら自身にもわからないとはどういうことなの?」


 姉様も気になるらしく、目を細めて、いぶかしげな口調で尋ねている。


「それが、私にも詳しいことはわからないのですが……、記憶を読み取ろうとしたところ、その部分に靄がかかったようになっているらしく、読み取れなかったとのことです」


「……なるほど。わかりました。ご苦労様。もう十分です。ありがとうございました」


「はっ。失礼いたしました」


 ルードヴィック騎士長は一礼して、部屋から出ていった。僕は椅子から立ち上がり、姉様とルーナと自分のカップを用意して、紅茶を注ぐ。


「ありがとう」


 そう言って、姉様は紅茶を一口含むと、何か思案しているように目を瞑った。僕もルーナの横の椅子に戻り、昨日のことを思い出して考えを巡らせる。

 彼らは言っていた、殺すんじゃねえ、と。

 僕たちを襲いながら、殺しはしない。つまり、依頼人の目的は、姉様か、ルーナか、もしくは僕の、或いは全員の身柄の確保。僕たちが生きていることに意味があるのだ。そうすると、考えられるのは、人質とするか、奴隷として売り飛ばすか、もしくは自分の奴隷としたいのか。

 そして、彼ら自身、僕たちを王族だと知りながらも、自分たちで手に入れようとするのではなく、あくまで、依頼人に従おうとしていた。王族という価値を考えれば、どう考えても自分たちで確保していた方が使い道はある。つまり、僕たちを渡してなお、それに見合うだけの報酬を払うことができる人物、あるいは組織。そして、記憶を操作するだけの魔法にも精通した人物。

 さらに、僕たちを狙うという、リスクを恐れない人物。

 僕たちは王族で、当然、狙われれば国家レベルで警戒され、近づくことさえ難しくなる。そして、成し遂げたところで、得られるものはこの国の衰退。

 現在、コーストリナもアースヘルムも戦争状態ではなく、この状況で国内に混乱を起こしても大した利益は得られない。それに巻き込まれるかたちで、周辺国家も被害を受け、逆に不要な混乱を招くかもしれない。


「ダメね。どう考えても情報が不足しているわ」


 姉様も息を吐き出す。害意があることはわかっているのにも関わらず、こちらからは具体的な対策はない。精々、城に引きこもる程度だ。それもどこまで安全なのかはわからないけれど。


「その辺りは、専門家に任せるしかないよ。狙われているのが僕たちである以上、僕たちが自ら動くわけにはいかないから」


 現在わかっている情報だけでは犯人の特定は不可能に近い。


「今日は昨日よりも多くの人員が警備に当てられる予定だという話だったけれど、国民の安全を考えると、僕たちが祭りに出歩くのはやめておいた方がいいのかもしれない」


「そうね。……不本意だけれど」


 たしかに、僕たちが出歩けば注意を引くことはできるかもしれない。でも、そうするとどうしても僕たちの警備をする人員を割く必要が出てきて、その結果、収穫祭全体の警備が手薄になり、国民を危険に晒すことになる。

 昨日僕たちを襲った者たちと、最近の誘拐事件の関係は不明だけれど、現段階では全く関係がないとは言い切ることはできない。今日は広場で舞踏会が開催されていたり、町中をパレードが練り歩いていたりと、昨日以上に人が密集するはずだ。

 人を隠すなら人の中。犯人も隠れやすいことだろう。それに、周りの人を巻き込む可能性も高くなる。


「ルーナはお祭り見て回りたかったよね」


 初めてのお祭りでパレードを見たくないなんてことがあるだろうか。昨日も胡桃の蜜掛けをとても幸せそうに食べていたし。


「いいえ、ルグリオ様。私はここで、ルグリオ様とセレン様と一緒にいられてとても楽しいです」


「ルーナ、なんて可愛い良い子なのかしら」


 姉様に抱きしめられたルーナは、胸の谷間に埋められて、解放されたときには若干苦しそうだった。


「じゃあ、今日はここで3人でお祭りにしましょう」


 言うが早いか、姉様はルーナの手を取って扉へ向かった。


「姉様どこへ?」


「厨房よ。あなたもいらっしゃい、ルグリオ」


 僕たちは連れ立って、部屋の外へ出た。



「そういうわけで、厨房を貸して欲しいの」


 厨房に来ると姉様は、料理人と交渉していた。


「それは構いませんが、セレン様。お申しつけくだされば、我々がどのようなものでもご用意いたしますが」


「セレン様、ルグリオ様、ルーナ様のためならば、例え象の卵の卵焼きでもご用意致します」

 

 いや、象は卵生じゃないから無理だろう。


「竜の丸焼きでもご覧にいれます」


 食べられるものなのか、竜って。


「いいえ、それには及ばないわ」


 姉様は取り合わずに厨房に立つ。


「おいちゃんの料理は飽きちゃったんですかい」


 よよよ、と泣き出してしまった料理長。厨房の料理人が皆集まってくる。いや、おいちゃんって、誰ですかあなたは。


「料理長!」


「しっかりしてください、料理長!」


「料理長おおおおおおおおおお!」


 ノリのいい人たちだ。


「ほら、ぼさっと立ってないで、あなたもフルーツを刻んだり、生地を焼いたりしなさい」


 姉様は無視して料理を続けている。どうやら、僕たちと料理をするのを楽しんでいるらしい。


「ルーナは……そうね、私と一緒にクリームでも立てましょう」


「はい、セレン様」


「義姉様でもいいのよ」


 まあ、ルーナも楽しそうにしているし良しとするか。料理長たちには悪いけれど。


「あら、ルーナ、ほっぺたにクリームが飛んでいるわよ」


 そう言って、姉様はそれを自分の指でぬぐおうとして、何を思ったか悪戯っ子のように笑うと、ルーナの身体を回して、僕の方へ向けた。


「ほら、ルグリオ。ぬぐってあげなさいよ」


「なっ」


 僕は固まってしまった。ぬぐってって、なにやら恥ずかしい。周りをみると、料理長たちも息を止めるようにこちらを窺っている。なんなんだ、この状況。


「ほらほら」


 どんどん姉様がルーナの肩を押してくる。わっ、近い。ルーナは僕を恥ずかしそうに見上げている。


「じ、じゃあいくよ、ルーナ」


「は、はい」


 人差し指を伸ばして、ルーナの頬っぺたについているクリ-ムをぬぐう。ルーナの頬っぺたのすべすべで柔らかい感触が気持ちいい。ルーナはくすぐったそうにしていた。ぬぐった指をそのまま舐める。


「ごちそうさま」


「……そのセリフは、僕が言うものじゃないの?」


「いいえ、私が言うものよ」

 

 姉様は楽しそうに笑った。


 


「こうして3人でいるのも楽しいね」


僕は、クッキーをオーブンから取り出しながら話しかける。


「そうね。これからもこうしていろいろ遊びましょう。私はお邪魔かもしれないけれど」


「そんなことないよ」


「私も、もっとセレン様とこうしていたいです」


 ルーナも頷いてくれる。


「そうね、今回のことが片付いたら、また遊びましょう。ルーナが学校に行くとそう簡単に会えなくなる……ってそんな辛気臭い顔をするんじゃないの。大丈夫よ、私たちは家族なんだから」


 姉様はクッキーやケーキや飲み物を収納の魔法で収納すると、手を差し出してくれた。


「だから、命一杯思い出を作って、命一杯楽しみましょう」


「そうだね」


 僕も、笑いながらその暖かい手をとった。


「さあ、ルーナもいきましょう」


「はい、セレン様。……お義姉様」


 反対の手をとり、ルーナも微笑んだ。

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