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お兄様の結婚式

 お兄様とミリエス様の結婚式は、どこまでも広がる秋晴れの空の下、たくさんの人たちに見守られながらマリヴェーラ教会で執り行われました。

 オルガンの調べが静かに流れる中、純白の花嫁衣装に身を包み、チュールのベールでお顔を覆われたミリエス様が、手を引かれながら緋色の絨毯を踏んで、しずしずと登場すると、その美しさと可憐さに場内からは溜息がもれていました。

 お兄様がサンダリー帝国の皇帝様からミリエス様を受け取られると、式場の興奮は最高潮に達したようでした。


「お二人ともとっても幸せそう」


「あんなに寄り添われて、楽しそうにされていて。見ているこちらまでついついぽーっとなってしまいますわね」


 参列されている方のうっとりとした声が聞こえてきます。

 お兄様は本当に嬉しそうな表情で、ふんわりと微笑まれたミリエス様の手を優しくとられて、祭壇の前で凛々しく誓いの言葉を述べられました。


「健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うか」


「誓います」


 お兄様は喜びにあふれたとびきり晴れやかな笑顔で、ミリエス様は信頼と愛情にあふれた朗らかな表情で答えられ、ほっそりとした美しい手に指輪をはめられて、小鳥のついばみのようなキスを交わされました。




 その後の花嫁のブーケトスで、ブーケを受け止められたのはカレンお姉様でした。

 ピンクと白の可憐な花束が、大きく弧を描きながら青空を舞います。

 歓声を上げてはしゃぎながら一斉に手を伸ばす若い女の子たちの方へと落ちてきました。

 もちろん私も一緒になってブーケを受け取ろうと、手を伸ばしました。

 ほっそりした腕を青空へ高く伸ばしたカレンお姉様の開いた手の中に、ブーケが落ちてくると、周りからわっと歓声が沸き上がりました。

 カレンお姉様は唇をほころばせて女性らしく柔らかに笑われました。


「よかったわね」


「お幸せに」


 あたたかな眼差しがお兄様とミリエス様に注がれます。

 出席者の方から声をかけられて、お兄様とミリエス様は幸せそうにはにかみながら手を振り返されていらっしゃいました。



 お兄様とミリエス様の姿が見えなくなると、ブーケを持ったままのカレンお姉様のところへ歩いてゆきました。

 お姉さまはにこにことお日様のように笑われていて、隣りにいらっしゃるローゼス様はそんなお姉さまの肩を抱きながら、優しく微笑みかけていらっしゃいます。


「次は私たちの番ということかしら」


「そうみたいだね。それまでには君のお父様に認めて貰えるように、僕も頑張らなくちゃいけないね」


 決意を込めたローゼス様とは対照的に、お姉さまはくすくすと綺麗な微笑みを漏らされました。


「お父様はみとめていらっしゃるわよ。ただあなたにそうと告げないだけで」


「そうだといいけどね」


 ローゼス様が困ったような、喜んでいるような笑みを漏らされると、お姉さまはその頬っぺたに軽いキスを落とされました。こちらに注目していた方から小さい歓声があがります。


「あんまり目立つわけにもいかないから、私たちもそろそろお暇しましょうか。主役はお兄様たちですもの」


 お姉さまは周りを見渡されると、ブーケを持つのと反対の腕でローゼス様の腕を取られて歩き出されました。


「ルーナも、ルグリオ様も、セレン様も、一緒に参りましょう。この後戴冠式が行われますから」


 振り向いて花のような笑顔を浮かべたお姉さまの後ろについて、私たちは教会を後にしました。




 結婚式の熱を保ったまま、お城に移動して、今度はお兄様の戴冠式が行われました。

 厳格な雰囲気の中、粛々と式が行われ、式典用の金色の冠をお父様が受け取られ、お兄様の頭に乗せられると、静かに拍手が沸き上がりました。

 そのままお披露目のパレードに向かわれるため、新しい国王になられたお兄様と、まさに新しい王妃様になられたミリエス様は、純白に光り輝く馬車に乗り込まれました。

 門を出ると、すぐ前からずらっと人が並んでいて、警備の人たちがいるにもかかわらず、少しでも近くで見ようと押し合っています。

 警備にあたっていらっしゃる騎士の方の悲鳴のような声が聞こえていましたが、興奮状態の皆さんは、意にも介されていらっしゃらないようで、馬車が進むことさえ困難な状況です。


「静まりなさい」


 そんな状況の中、決して大きくはないその一言は、不思議と私たちの心に響き渡りました。

 湖面に落ちた水滴の波紋が広がるように、放たれた弓矢の弦が次第におさまり、張りを戻すように、観衆の皆さんの一瞬の忘我のうちに、街道はしんと静まり返りました。

 

「おめでたい場で興奮する気持ちはわかるわ。だからといって何をしても許されるというわけではないのよ。せっかくの結婚式、つまらないことで台無しにしたくはないでしょう。盛り上がるのは大いに結構。でも、節度は保ちなさい」


 セレン様の魔法によって落ち着きを取り戻した観衆の皆さんは、その後は特に問題は起きず、熱し過ぎることもなく、かといって興奮が冷めているわけでもない、とても良い状態、状況でお披露目のパレードは行われました。


 

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