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お兄様たちの馴れ初め

 セレン様がお持ちの、私たちがつくった時よりも大分豪華になっていたログハウスに泊まり、翌日、太陽が高くに昇るころ、私たちはアースヘルムのお城に到着しました。


「お帰りなさいませ、ルーナ様。ようこそお越しくださいました、ルグリオ様、セレン様、皆々様」


 結婚式の前だというのにもかかわらず、いつもと変わらない様子のフェリスに迎えられてお城へと入った私たちは、お兄様への挨拶へと向かいました。


「アルヴァン様、ミリエス様、この度はご成婚おめでとうございます」


 ルグリオ様が祝辞を述べられて腰を折られるのに合わせて、セレン様も、私たちも一緒に頭を下げました。

 お兄様は椅子から立ち上がられると、星の海のように輝く青色のドレスを纏ったミリエス様に寄り添われて、愛おしそうに髪を撫でられると、ミリエス様は静かに目を閉じて幸せそうに微笑まれました。それから手を重ねられてほんのりと頬を染められました。


「遠いところを私たちのためにお越しくださってありがとうございます。私自身、夫として、そして国王としてまだまだ不安も多く、未熟ではありますが、ミリー、妻と共にこれからも一層精進して参りますので、これからも末永くお付き合いください」


 


「私がアルヴァン様にお会いしたのは、私がアースヘルムに留学してきたからなんです」


 私たちが席に着くと、ミリエス様は大切な宝箱でも開くようなうっとりとしたお顔でお兄様との馴れ初めを話してくださいました。

 アースヘルムに留学してきて歌の勉強をなさろうと思っていたというミリエス様は、ある音楽会の会場でお兄様に会ったのだそうです。


「その時は私の通っていたレディネス音楽学校や、アルヴァン様が通っていらしたマシュルーク学院などを含めてアースヘルムの学校が集まるいわば発表会だったのですけれど、終わって友達と寮に戻ろうとしていたところをアルヴァン様に呼び止められまして」


 ミリエス様を呼び止めたお兄様はとても焦ったお顔をしていたのだそうです。その時まだ私は赤ん坊だったはずですので叶わぬ願ではあるのですけれど、その時のお兄様の様子を見てみたかったと思いました。


「アルヴァン様はお顔を真っ赤にされていて、いてもたってもいられなくなったのだと、唐突にとても情熱的な告白をされました」


「あの時はまだミリーの名前と顔しか知らなくてね。王女だなんて思ってもいなかったけど、どうにもとまらなくて、つい呼び止めてしまったんだ」


 お兄様に呼び止められて告白されたミリエス様はその場で呆然と立ち尽くしてしまったのだそうです。


「だってその時は私、アルヴァン様のことを全く存じ上げていなかったのですもの。知らない男性に呼び止められて告白されたら、その方がどんなに素敵でもまず疑ってしまうでしょう」


「でも、あの時もミリーの顔は真っ赤に染まっていたよ」


 その告白以降、発表会が終わってからしばらくは音沙汰もなかったそうなのですけれど、その間ミリエス様は学校のご友人に大層冷やかされたのだといいます。


「アルヴァン様の行動はお早かったの。その冬にはサンダリー帝国のお父様の元までいらして、娘さんを許嫁にくださいとおっしゃられたのよ。お父様はそれはすごい剣幕で反対されたのだけれど、私たちはその後も学院から外出許可をもらっては逢瀬を重ねて、街頭でコンサートを開いたり、一緒に風景を描きに出かけたりもしたわ」


「それで、僕たちは卒業のコンサートをサンダリー帝国で開くことにしたんだ」


 お兄様とミリエス様は聴いてくださった方の、ミリエス様のお父様の心を震わせるように、やさしく、あたたかく、穏やかに、ときめいて、微笑ましい、たくさんの感情と胸いっぱいの思いを乗せた音を響かせたのだそうです。


「演奏が終わった後、お父様がいらして私たちの演奏を褒めてくださったわ」


 愛することの喜びを知った、とてもあたたかな旋律だったと。

 私は幸せですという気持ちが乗せられた、雄大な調べを奏でていたと。

 ミリエス様のお父様、サンダリー帝国の皇帝様は、娘があの音を響かせられるのはおそらく君といるからだろう、ここで反対しては娘の音楽はきっと悲しく寂しいものになってしまうのだろうねとおっしゃられたのだそうです。


「そんなこんなで卒業してすぐ僕たちは婚約したんだ」


「私は今もとても幸せです、アルヴァン様」


 ミリエス様ははにかんだ笑顔をお兄様に向けられました。


「僕もだよ、ミリー」


 再びお二人が見つめ合われたので、私たちは部屋を後にしました。




「胸の熱くなるお話だったね」


 部屋を出ると、ルグリオ様が私の手を握ってくださいました。


「僕たちの出会いはそんなに奇跡的なものではなかったのかもしれないけれど、僕たちもルーナのお兄様たちに負けないくらい幸せだといえるようになりたいね」


 私たちの婚約は生まれる前から決められていたものではありましたけれど、そんなこととは関係なく、私はルグリオ様が大好きです。胸を張って心の底からそう言えます。きっと、魔女の呪いなんてなくてもめぐり合って恋に落ちる運命だったと思っています。


「そうですね」


 私は出会ったときよりも身長の伸びられたルグリオ様を見上げてはにかみながらそう答えたのでした。





「私たちも春にはマナリアで結婚式を挙げるのよ。お父様には色々言われているけれど」


 隣の部屋ではお姉様がローゼス様とご一緒に式場の案内をご覧になっていました。


「その際にはルグリオ様もルーナ様も是非お越しくださいね」


「ええ、その時は是非」


「ルーナもね。学院も忙しいとは思うけれど、お姉ちゃんの晴れ舞台には来てくれるわよね」


 お姉様とローゼス様は嬉しそうに楽しそうにマナリアの魅力を語ってくださって、特にセレン様はとても興味深そうにローゼス様のお話を聞いていらっしゃいまっした。





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