結婚式への招待状
「ルーナ、一緒にお店でも出さない?」
対抗戦が終わり収穫祭に向けての準備が始まるころになると、毎度のことながら学院全体、ひいてはコーストリア全体が勉強、或いは仕事どころではなくなる雰囲気になります。
その夜、勉強を切り上げて部屋に戻り、ベッドに入る前にアーシャが唐突にそんなことを言いだしました。
「お店を出すというのは、収穫祭当日に寮でお菓子作りや売り子の仕事を手伝うのではなく、私たちが個人的に出店するということでしょうか?」
「うん。2年生の時のリベンジっていうのも考えたんだけど、それはまた今度にして、せっかく学院に通っているんだから出来ることを出来るうちにやってみたいなって思って。それで、寮でもやってはいるんだけど、やっぱり個人的にってわけではないけれど、そういう風に出来たらなって思っているんだけど、どうかな?」
嫌ならいいけどと上目遣いに私を見つめるアーシャに私は二つ返事で協力を申し出ました。
「いえ、もちろん協力させてください、アーシャ」
アーシャはぱっと顔を輝かせると、私の手を固く握りました。
「ありがとう、ルーナ」
「というわけで皆も了承してくれたよ」
翌日、授業が終わってから私とアーシャの部屋にはメルやシズクをはじめ、他にもシェリルたち数十人の有志が集まりました。
「それでアーシャは何がしたいんですか?」
私が尋ねると、他の方には不思議そうな顔をされました。
「あれ、ルーナには言ってないの?」
同じ部屋なのに、とメルがきょとんとした顔でアーシャに尋ね返しています。
「あ、ごめんルーナ。いつでも言えると思っていたらつい言いそびれちゃって」
アーシャの話によると、テーブルを並べて、来てくださったお客様にケーキやスコーンといったお菓子や紅茶やコーヒーなどのお飲み物をお出しする、いわば喫茶のようなものだということです。
「じゃあ、ルーナに説明も済んだところで調理場を借りに行きましょう。もう話はつけてあるから」
「ちょっと待ってください、今からですか?」
私以外の皆が立ち上がってぞろぞろと向かうのに、私は慌てて待ったをかけます。
「思い立った日こそが始めるには良い日なのよ」
思い立ったのは今日ではないのではと思いましたけれど、アーシャも他の皆もやる気は十分のようです。
「今はトゥルエル様が夕食を作るのに使用しているはずではないですか」
「それもそうね」
「じゃあ、明日使用する許可をいただきに行きましょう」
そして私たちは無事に調理場の使用許可をいただけたのですけれど、この時点ではまだ、私もメルもコーストリナの収穫祭に参加できると思ていましたし、友達と一緒にお店を出すということを楽しみにしていました。
「ルーナ、手紙が来てるよ」
アーシャたちとお店を出すと決めてからはや3日、トゥルエル様のご許可もいただけて、期間も短い中でレイアウトやメニューを考え、宣伝用の広告を作りながら料理の特訓を過ごす日々を送っていたのですが、その日学院から寮に戻ってきた私を待っていたのは予想していないものでした。
「それと、こっちはメルにだね」
「私ですか」
受け取ったメルが不思議そうな顔をしているのも無理はありません。なぜならそこに押されていたのはコーストリナの封ではなく、アースヘルムのものだったからです。
宛名だけ違う同じ手紙を、私とメルは同時に封を開きました。
一読すると、私とメルは顔を見合わせました。
「これって」
「ええ」
トゥルエル様にお話ししようとしたところで、丁度管理人室のドアがノックされました。
「トゥルエル様、よろしいですか」
「どうしたんだい」
呼びに来られた上級生の方はとても緊張していらっしゃるご様子でした。
「ルグリオ様とセレン様がお見えです」
「お忙しいところ恐縮です、トゥルエル様」
トゥルエル様と一緒に玄関へと向かうと、人だかりがさっと左右に分れて私たちを通してくださいました。私たちがルグリオ様とセレン様の前まで辿り着くと、正装されたお二人は揃って美しい所作でお辞儀をされました。
「それで、もうお話はお済でしょうか」
「いや、今から聞こうとしていたところだよ」
「そうでしたか」
ルグリオ様とセレン様はお顔を見合されて頷かれると、ルグリオ様が口を開かれました。
「この度、このような形になってしまい、申し訳ありません。アースヘルム王家からの正式な通達でしたので、火急伝えねばなりませんでしたので」
ルグリオ様はそこで一呼吸置かれてました。それから私の方をちらりと見られて微笑まれたように感じられました。
「アースヘルム第一王子であらせられるアルヴァン・リヴァーニャ様がこの度ご成婚なさるということで、私たちにもそのパーティーへの招待状が届きましたので、こうして参った次第です」