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実際に爆発したわけではないので、後遺症等人体に影響はありません

 大よそ人体があげているものとは思えない衝撃音を響かせながら、エミリア先輩とハースさんが拳をぶつけ合わせています。エミリア先輩の腕には黒い手甲、ハースさんの腕にも似たような白と黒の手甲がいつの間にやら装着されています。


「まさかそちらにもこれを使える者がいたとは。正直驚きました」


「そいつはどうも。ついでに言っとくと、使えるのはあたしだけじゃないんだぜ。それじゃ、驚いたついでにそのままぶっ倒れて貰おうか」


 お二人が拳をぶつけられると、拳圧なのか、地面に亀裂が入り、さっと後ろに飛びのかれました。息をつく間もなく再び前方へ飛び込まれたかと思うと、手をがっつりと組み合われ、にらみ合われていらっしゃいます。そして思い切りのけぞられると、額と額をぶつけ合わせられました。


「痛ってえな。なんて石頭だ」


 額をさするエミリア先輩の目尻には薄っすらと涙が浮かんでいます。


「それはこちらも同じこと。思わず飛びのいてしまいましたよ」


 ハースさんは涙こそ浮かべていらっしゃらないものの、赤くなった額に手を当てて、熱を冷ましていらっしゃるご様子でした。


「エミリア先輩、私が」


「いや、手出しは無用だ」


 学内の選抜戦の時にもやったように、多少の時間を稼ぐことが出来ればハースさんを打ち倒すことができるのではと思ったのですが、私の言おうとしたことを悟ったらしいエミリア先輩は片手を後ろにつきだす形で私にそこで見ているようにと指示されました。


「心配しなくても大丈夫さ。あたしは今最高に楽しめてる。それに、そっちに気を取られてると一瞬の隙にのされてしまうからな」


 エミリア先輩は再び構えられると、大地を強く踏みしめられました。


「だからお前さんたちはそっちを頼む」


「分かりました」


 私はシエスタ先輩と目配せをすると、校章を守るための結界を強化して後ろに下がりました。

 私たちが後ろに下がると、エミリア先輩は腕をたたんで身体の前面を守るように小さく構えを変えられました。


「どうしたんですか。何を狙っているのですか」


「言うわけないだろ。教える理由がどこにある」


「たしかに。ですが、あなたが攻めてこないのなら好都合です」


 ハースさんはエミリア先輩がガードされている腕の上から怒涛のように拳を叩き込んでいらっしゃいます。

 そして、ハースさんの拳がついにエミリア先輩の片腕を弾き飛ばします。


「貰いましたよ」


「伏せろっ」


 その瞬間、エミリア先輩から叫び声が聞こえました。私とシエスタ先輩は反射的に頭を抱えて障壁を張り、その場に蹲りました。

 次の瞬間、眩しい閃光が視界を奪ったかと思うと、数舜遅れて物凄い音が聞こえたようでした。ようだというのは、光が治まって顔を上げると耳鳴りがして何も聞こえず、遅れて痛みがやってきたからです。

 障壁、結界を多重に張っていてもこの威力。私たちは元々張っていたから良かったようなものの、咄嗟に張ることができなければおそらく。

 そう思って前方を確認すると、まさにエミリア先輩がハースさんを捉えて打ち倒すところでした。


「今のは一体・・・・・・」


 ようやく耳が聞こえるようになると、シエスタ先輩も何が起こっているのか分からないという表情で何をするでもなく棒立ちになっておられました。


「そうです、校章は」


 校章には最高のものとは言え、始めに作ったものしか施していません。

 後ろを振り向くと、結界こそ消失していたものの、校章自体は無事にそこにありました。

 ほっと胸を撫で下ろした私たちは正面に向き直り、どかりと座り込んでいる、おそらくは事情を知っているであろうエミリア先輩に尋ねました。


「今の閃光と破裂音は一体何だったのですか」


「ああ、多分すぐにわかるだろうさ」


 エミリア先輩がそのようにおっしゃられた直後、終了を告げる合図が響き渡りました。


「先輩方が、攻撃陣の方々が何かされたということですね」


「ああ。正確にはキャシーがな」


 エミリア先輩のお話によると、キャシー先輩がなさったのはそのまま、光と音を周囲一帯、少なくともフィールド全体に届くように炸裂させる、いわば音響光爆弾のようなものだということで、エミリア先輩がこちらへ向かわれてから一定時間以上経過しても戻られなかった場合に頼んでいた物だということです。


「タイミングさえ合わせとけばこっちに対する被害は少なくて済むし、まあ流石に対処されたら大変だったけどなんとか無事みたいで良かった」


「無事じゃないわよっ」


「痛いっ。何すんだよ、リィン」


 飛ばされてきた空気弾に頭をはたかれたエミリア先輩は、不満気な顔を戻っていらしたリィン先輩に向けられました。


「たまたま障壁を張っていたから私は良かったものの、これはやり過ぎでしょ」


「審判からは何も言われていないし、そもそもやったのはあたしじゃない、キャシーだって」


 しばらくすると、フィールドが解除されて、見ればあちらこちらで伸びて倒れている選手が見方も相手もたくさん見受けられました。


「無事だったのね、良かったわ」


 キャシー先輩はお一人でこちらまで歩いていらっしゃいました。


「キャシー、あなた。まあいいわ。他の皆は」


 リィン先輩は額に手を当てながら困っている表情を浮かべながら、確認をとるように後ろの方を覗かれました。


「皆伸びてるわよ。教えたのはエミリアにだけだから。知っている人数は少ない方が良いと思ったのだけれど、一応、エミリアには教えておかないとだめだったし」


「やるならやると最初から言ってくれれば」


「それだと相手に察知される可能性がゼロじゃないでしょ。それに、できれば私も使わずに済ませたかったし」


 そのように先輩方が言い合いをされていると、ようやく皆さん起き上がることが出来るようになったようで、耳の中に指を突っ込まれていたり、目を押さえてぐりぐりとされています。


「ま、何はともあれ勝ったんだし良かったじゃないか」


「いや、私はあなたに言いたいことは山のようにできたわ」


 私たちがゆっくりした足取りで整列に向かうと、同じようにアーシャたちも前方から歩いてきました。

 アーシャの足取りはおぼつかないもので、私は駆け寄って横から支えました。


「ルーナ・・・・・・。ありがとう。もしかして無事だったの」


 アーシャが何か異常なものでも見るような顔をしていました。


「ええ。直前にエミリア先輩が注意してくださって、どうにか間に合いました」


「そんな一瞬で・・・・・・。すごいね」


「一瞬というわけでもなかったのですが。元々校章を守るためのものはありましたし。ですがアーシャも無事・・・・・・とはいかないまでも、ここまで歩いてこられたようで安心しました」


「まあ、さっきまで立てなかったんだけどね」


 アーシャは整列を済ませるとようやく笑顔を見せてくれました。

 

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