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団体戦なのですから

 無数に煌く剣閃とその度に聞こえる剣戟のぶつかり合う音が先輩方の戦いの熾烈さを物語っています。リィン先輩と渡り合っている間、グリスさんは私たちのことは攻撃どころか目にも入れていらっしゃらないご様子でした。


「あちらはリィン先輩にお任せしていて大丈夫そうですね」


 私が入っていっても邪魔になるだけのように思えましたし、相手はグリスさんだけではありません。地響きを立て、破砕音を上げながら近づいてくる物体に意識を集中させます。

 鋼の甲冑に身を包んだその方は、私たちの手前で立ち止まると、丁寧にお辞儀をされて、魔法で造られていたのだと思われる甲冑を消して姿をお見せになりました。


「お初にお目にかかります。私はイエザリア学園5年1組所属、ハース・トランブルと申します。女性の方を相手にするのは心苦しいのですが、これも勝負故ご容赦頂きたい」


「ご丁寧にありがとうございます。私はエクストリア学院3年1組所属、ルーナ・リヴァーニャです。お気になさらず全力でいらしてください。それが競技ですから」


 私は失礼しますと断りを入れると、シエスタ先輩の方へ向き直りました。


「シエスタ先輩。あちらの方は私がお相手しますので、その間、よろしくお願いします」


「それならば私が」


 シエスタ先輩は心配されているように胸に手を当てて主張されましたが、私は反対側の手を取って大丈夫ですと伝わるように微笑みました。


「いえ、あの方―——―ハースさんが名乗られたのにお応えしたのは私ですから。大丈夫です。抜けてこられているということは、おそらくシルヴィア先輩も気付かれているはずです。先輩方が戻っていらっしゃるまでの間、私が交戦すると結界を維持するだけの余裕はおそらくなくなりますから、抜けてこられた方のお相手をお願いします」


「・・・・・・承知いたしました。どうかお気を付けください」


 完全には納得されていらっしゃらないようでしたけれど、シエスタ先輩は校章を守る位置まで戻って、いつでもこちらに加勢が出来るような態勢で鋭くハースさんを睨んでいらっしゃいました。


「お待たせいたしました。私がお相手致します」


「いえ、お気になさらず。では、参ります」


 そう言ったかと思うと、ハースさんはおそらく自己加速の魔法を身に纏い、私を押しつぶさんばかりの勢いで突っ込んできました。

 キャシー先輩が得意とされている魔法は、ご自身に雷を纏わせて、周囲に発生する電撃とその速度をもって相手に発見すらされない『速さ』を生み出すものでしたが、こちらは純粋に突破力を突き詰めたような突進で、周囲の岩をものともせずに一直線に進んでいらっしゃいます。

 一歩の加速がすさまじく、ほとんど超低空飛行と変わらないそれは、おそらく以前ワイルドボアを相手に使った戦法は取ることが出来ないでしょう。私に出来ることはおそらく―—―—―


「きゃっ」


 突風どころではない、目の前に出現した竜巻に巻き込まれそうになったシエスタ先輩から小さな悲鳴が漏れました。私も他の魔法を使う余裕はありません。全力を込めなければおそらく突破されてしまうことでしょう。

 下手をすれば私も、シエスタ先輩さえも巻き込んでしまいそうな竜巻に、地面に私たちの足を固定することでどうにか踏みとどまります。それでも飛ばされそうな上半身をシエスタ先輩が必至の力で支えてくださいました。


「ぐっ」


 その甲斐あってか、ハースさんをどうにかその場に踏みとどまらせることが出来ています。しかし、こちらもいつまでも持つものではありません。今は暴風が吹き荒れているため他の方も近寄ってくることが出来ずにいるでしょうけれど、これが破られては私とシエスタ先輩は確実に飛ばされ、先輩方が戻られる前に突破されてしまうことでしょう。

 しばらく私たちとハースさんの間での均衡は保たれていましたが、やがて双方の魔法が消滅し、辺りは静穏を取り戻しました。私たちは同時にその場で膝をつきました。


「すみません、ルーナ様。私」


「ありがとうございます、シエスタ先輩。支えてくださらなければおそらく飛ばされていました」


 ルール内ではおそらく一人では守り切ることは出来なかったでしょう。


「そうですね。これは団体戦なのですから、何も一人にこだわらなくても良かったのかもしれません」


 たとえ挑まれた勝負とはいえ、確かに一対一でお相手するということは騎士道精神に則れば崇高なことなのかもしれませんが、これは団体戦です。他人と協力して勝利することこそ求められているはずです。


「私の進撃を止めるとは。お見事です。ですが、次もそう上手くいきますでしょうか」


 再び構えられたハースさんがこちらへ突っ込まれる前に、私たちの前に颯爽と黒髪をたなびかせた人影が舞い降りていらっしゃいました。


「面白そうなことしてるじゃねえか。あたしも混ぜてくれよ」


 こう言っては失礼ですけれど、言動からは考えられない軽やかな着地をされたエミリア先輩は、獰猛な笑みを浮かべられました。





「どうして戻ってきてくださったのですか」


 突然の乱入者にも慌てることなく、シエスタ先輩が冷静に尋ねられました。


「いや、何かこっちで面白そうなことをやってるような感じがしたからよ」


 エミリア先輩は手のひらに拳を撃ちつけられると、こちらへ向いていた身体を再びハースさんの方へ向けられました。


「そういう訳だ。こっから先はあたしが相手になってやるよ。そっちの方があんたもいいだろう」


「そうですね・・・・・・。私は構いませんよ。こういった戦闘に関しては、あなたの方が楽しめそうですし」


 ハースさんは私とシエスタ先輩に向けていた視線を、エミリア先輩へと向けられました。


「そうかい。あたしも可愛い後輩をむざむざやらせるわけにはいかないんでね」


 エミリア先輩が構えられると、その両腕には、両腕をすっぽりと覆う漆黒の手甲のようなものが、両足には同じ足甲のようなものがそれぞれ装着されていました。運動着だった上着は同じく漆黒のアーマードレスに変化しています。


「ほう。武装顕現とは」


 ハースさんは薄く笑みを漏らされると、少し驚いたような、喜んでいるような声を上げられました。

 どうやら武装顕現と呼ばれている魔法らしいです。


「さあ、第二ラウンドといこうか」


 エミリア先輩は両腕の手甲を打ち鳴らされました。

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