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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
少女誘拐編
15/314

だから大丈夫よ

 この場で転移して逃げるのが最も安全な策だろう。しかし、そうはしなかった。

 僕たちは祭りの邪魔にならないように、他の人を巻き込まないように、祭りの喧騒から離れた場所まで移動して、間にルーナを挟むようにして、背中合わせに立つ。


「ルーナは僕の後ろから離れないで」


「はい、ルグリオ様」


 念のため、ルーナには僕にしがみついていてもらう。僕の腰にルーナの細い手が回される。


「そろそろ姿を見せてはもらえないかしら」


 辺りに人影がないことを確認して、姉様が静かにそう告げると、辺りから複数の気配が僕たちを囲むように現れた。10人程度といったところだろうか。手にはそれぞれ、剣や弓、鎖といった武器を所持している。


「よく気付いたな。王子様とお姫様にしては随分やるじゃないか」


 リーダーらしい、腰に剣を差した体格のいい男が一歩進み出てくる。


「あなた達の目的と依頼者をお聞かせ願えないでしょうか?」


 答えるとは思っていないけれど、一応聞いてみる。


「悪いがそいつは言えないな。依頼人の秘密を明かすことはできないんでね」


 なるほど、依頼者はいるのか。つまり、この人たちをとっちめても次が来る可能性があると。男はそれに気づいた様子もない。あまり頭は良くないようだ。


「へえ。こんなにか弱い少女を狙うような変態犯罪者にも、矜持はあるのね」


「なんだと、この女ァ!」


 姉様がわざと煽るようなことを言うと、沸点の低い、彼らのうちの一人がこちらに斬りかかってくる。


「おい、待て。殺すんじゃねえ」


「うるせんだよぉ!」


 仲間の制止の声も聞かずに、剣を振り上げて突っ込んでくる。


「まったく、躾がなっていないわね」


 姉様は振り下ろされる剣を無駄のない動きで躱すと、そのままの勢いで男の腕をとり、投げ飛ばす。投げ飛ばされた男は、地面にぶつかり気絶した。ざわつく男たちを無視して、姉様は冷ややかな視線とともに温度を伴わない声で言い放つ。


「私たち王族が何の力もないと思っていたわけではないでしょう? 私たちはあなた達とは違って、日々自己鍛錬に身を置いているのよ。次期王族としてふさわしくあるための勉強、自己防衛のための格闘及び魔法。私たちは強くあらねばならないの。私たちには国民を守る義務があるのだから。あなた達には私たちをつけ狙っただけの覚悟はあるのかしら」


 周りの賊は動かない。いや、動けない。姉様からほとばしる圧倒的なまでの格。生物としての本能には逆らえない。それは手に武器を持っていても変わらない。

 元々、自分たちの意志ではなく、依頼されただけの彼らにそれを跳ね除けるだけの力はなかった。


「もう一度、聞きます。依頼主は誰なのか喋りなさい」


 次はないという口調、最後通牒だ。これでも話さなければ、姉様は躊躇しないだろう。それでも賊は話そうとはしない。それはプライドなのか、それとも矜持か。もしくは喋ることができないようにされているのか。


「そうですか。それでは残念ですが、お別れですね」


 姉様が右手をかざす。それだけで、その場の賊は全員崩れ落ちた。


「ルーナ、大丈夫だったかい?」


 血みどろになったわけではないけれど、賊に囲まれるというのは10歳になったばかりの女の子にはきついものだろう。僕が心配して声を掛けると、ルーナは僕を心配させまいとしてか、努めて平静に答えてくれた。


「心配してくださってありがとうございます、ルグリオ様。私は大丈夫です。ルグリオ様もセレン様もいらっしゃいますから」


「無理はしなくてもいいんだよ」


「はい」


 ルーナのことだけは絶対に僕が守り抜く。



 僕たちは賊が目を覚まさまないうちに、全員転移で城まで戻った。さすがにこんなことがあった後で、のんきに祭りに参加することはできない。

 ルードヴィック騎士長以下、警備の人たちに事情を説明したところ、何でも、僕たちの周りには暗部の者が控えていたとのこと。それなら、もっと早くに知らせてくれればよかったのに。

 僕とルーナと姉様は、姉様の部屋で椅子に座って、今回のことについて話していた。


「まあ、私たちを囮に使ったのかもしれないわね。その方が他の国民には影響が少ないだろうし」


 なんてことはない、というように姉様は口にする。


「それでも、ルーナもいたんだからそんな危ないことは前もって知らせておいて欲しかったし、そもそもそんなことしないで欲しかったよ。せめて、ルーナにだけは」


 本当は姉様もそんなことには巻き込まれて欲しくない。


「ねえ、ルグリオ。そんな風に済んだことに文句を言うのはやめなさい。あなたがルーナやみんなを心配しているのと同じように、私も、騎士長たちも、もちろんお父様もお母様もあなた達のことを心配しているのよ。だから、大丈夫。あなたの姉様は強いんだから」


 姉様はウィンクを一つすると、腕を曲げて手を当てた。 


「僕は、姉様のことも、皆のことも心配しているよ」


「そうね。そんな風にみんながみんなを思っているから、だからきっと大丈夫よ」


 確たる根拠はない。でも、姉様が言うと不思議と納得できるような気もした。姉様は、この話はお仕舞いとでもいうように背伸びをすると、僕の方を見つめてきた。


「そんなことより、転移って便利ね。私にも教えてよ」


 姉様に教えると、悪用しそうで怖いんだよね。


「別に悪用なんてしないわよ」


「思考を読まないでよ、姉様。それに教えてほしいのなら、母様に頼むといいよ」


「ふーん。いいわよ、じゃあルーナに聞くから」


 姉様はルーナの方に体を向ける。なぜか科を作って猫なで声だ。


「ねえ、ルーナ。お義姉ちゃんに教えてくれないかしら」


「はい、セレン様」


「ルーナはいい娘ね。いや、いい義妹ね」

 

「別に教えないとも言ってないだろう」


 僕は姉様に例の本棚のことを話した。そして収納の魔法で仕舞っていた本を取り出す。


「ふーん、これが」


 姉様がパラパラと本を読み始めると、夕食が出来たと呼びにこられたので、僕たちは揃って夕食に向かった。

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