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疎外感など

 対抗戦二日目にして最終日。今日の予定は昨日よりもずっと大変なもので、お昼の前に一試合、そして昼食後にしばらく休憩をとり、十分な移動と準備の時間を与えられた後に最終戦が行われます。

 初戦の相手はサイリア特殊能力研究院。魔法のようで魔法ではない力についての研究が進められている機関です。

 魔法ではない、いわゆる異能に関しては、学院では習うことはありませんが、全く知らないということもありません。それどころか―—―—―—


「ルーナ、ぼーっとしてたけど、どうかしたの」


 考え込んでしまっていたようで、隣で一緒に朝食を摂っていたアーシャが心配そうに顔を覗き込んできていました。正面を見ると、やはり同じような表情で、手を止めて、メルとシズクもじっとこちらを見つめていました。


「いえ、何でもありません。少し今日の対戦相手のことで考えていただけですから」


 そう微笑んでみせると、3人ともどこかほっとして胸を撫で下ろしているようでした。


「そう。それならよかった。昨日の疲れが残っているとか、調子が良くないとか、深刻な病気や怪我があるわけじゃないんだね」


 アーシャの手のひらが、私の額に当てられます。


「ご心配をおかけしました。ですが、本当に大丈夫です。体調が悪いということはありませんから」


 私は大丈夫だということが伝わったようで、それからは私もメルたちのおしゃべりに加わりながら、朝食を済ませました。




 私たちが競技場で準備運動をこなしていると、リリス先生に連れられてサイリア特殊能力研究院の方々がお見えになりました。

 

「じゃあ、私たちは切り上げるわよ」


 キャシー先輩の号令で、私たちは競技場の整備をしてから、控室へと引き上げました。流した汗をさっと乾かして、招集がかかるのを待ちます。

 しばらくして、ドアがノックされて、呼びにこられました。


「ありがとうございます。すぐに参ります」


 キャシー先輩は扉を閉められると、くるりとその場で私たちの方へと振り返られました。


「今日は二試合あるけれど、皆大丈夫よね」


「もちろん」


「決まってるわ」


「大丈夫です」


 私たちが返答すると、キャシー先輩は満足されたように頷かれました。


「次の試合のことも気になるとは思うけれど、まずは最初の一戦、サイリアとの試合に最善を尽くしましょう」


「はいっ」


 緊張したような声が帰ります。


「元気があってよろしい。だけど、やっぱり皆緊張しているようね」


 キャシー先輩の視線がちらりと私を捕らえます。


「今日の試合に勝ったら、皆にキスしてくれるわ。ルーナが」


「本当ですかっ」


 一斉に私の方を向かれても困るのですけれど。というよりも、分かっていてやっていらっしゃいますよね。


「キャシー先輩、そのような話は聞いていませんよ。私をだしにしないでください」


「と言うのは冗談よ」


「なんですか、この私が悪いみたいな空気は。アーシャ、なんで舌打ちまでするのですか。そんな目で見てもしないものはしません」


 私ははっきり言い切ると、キャシー先輩を正面から、おそらく睨みつけていたことでしょう。


「個人的には非常に残念なことながら、国民としては喜ばしいことなのだけれど、ルーナはルグリオ様に純潔を捧げているようなのでご褒美はおじゃんとなってしまいました」


 私の視線を意にも介されず、キャシー先輩はおどけた調子でおっしゃられました。

 緊張を解くためならば、他にもいくつも方法はあったことでしょうに。むしろ余計に緊張していました。そもそも、そのようなことのために試合をするわけではないでしょう。


「まあ、ルーナが怖いので、その何倍も可愛らしいけれど、冗談はこのくらいにして。気合を入れて、集中していきましょう。残念会よりも祝勝会の方がいいでしょう」


 私たちが声を揃えて返事をすると、キャシー先輩は私たちを先導して、フィールドに向かって歩き始めました。



 サイリア特殊能力研究院との試合は、渓谷のようなフィールドで行われました。

 途中まで、自陣のある場所から降りて行って、おそらくは渓流を挟んだ形で相手校の第一陣と交戦すると思われました。


「じゃあルーナ、行ってくるね」


「滑らないように気をつけてくださいね、アーシャ」


 アーシャたちを送り出した私は、最奥、つまりは校章の最も近くの位置にシエスタ先輩と、5年生のリィン・シントゥーア先輩と一緒に位置取りました。


「さて、どうせしばらくは暇でしょうから、お喋りでもしましょうか」


 3人になるなり、リィン先輩はまるでそれ自体が光りを発しているようなサラサラの金髪をたなびかせて、私とシエスタ先輩の顔をじっと見つめられました。


「何かございましたか、リィン様」


「シエスタ、先輩で良いわよ。ちょっと失礼するわね」


 リィン先輩は壊れ物でも扱うかのような手つきで、シエスタ先輩の新雪のように美しい白金の髪の毛を一房手に取られ、反対の手で私の髪の毛を一房手に取られました。


「何か私だけ金髪というのも、何となく疎外感があるわね」


「そのようなことは気になされずともよろしいかと。リィンさ、先輩の御髪も、私のこの髪もそれほど視覚的な違いはございません」


 あるいは遠目から見ると真っ白くみえるようなシエスタ先輩の髪と、私の髪が似ていることは事実ですけれど、リィン先輩の御髪は蜂蜜よりも透明感のある、それは見事な金髪で、ルグリオ様や、セレン様のような眩くきらめく、黄金を溶かしたような金髪とはまた違った繊細な魅力が詰まっています。


「そう、ありがと」


 私がそう伝えると、リィン先輩ははにかんだ様な笑みを浮かべられました。



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