3年対抗戦初日終了
対抗戦初日は開会式と1試合が行われるだけで終了し、残りの試合は翌日に執り行われます。万が一の場合を考えられた予備日を含めると、間に一日挟んだ方が良いのではとも思っていたのですけれど、ずっと以前、おそらくは私が生まれる前から続いている試合形式なので、そういうものなのだと納得させました。
「まあ、大変なのは私たち選手だけで、他の多くの生徒は大して疲れたりするわけじゃないからね」
マリスターナ先輩はお風呂の縁に置いた手の上に顎を乗せながら、振り向かれずにそうおっしゃられました。
ルーラル魔術学校との試合を終えた私たちが学院に戻ってきたのは、夕日が大分傾いたころでした。
試合の疲れをほぐすためにと夕食の前に選手全員で、先輩も後輩も混ざって一緒にお風呂に入りました。疲れた体にお湯が染み渡ってとても気持ちがいいです。
「私たちは楽な方よ。初日の今日は他校での試合とはいえ開会式の後に一試合だけ、そして明日は移動もなくここで二試合でしょう。他のところは試合を終えた後にここまで移動してくるんだからもっと大変なはずよ」
開会式は各校の選手が全員、一堂に集まるわけではありません。開会式とはいっても、先生方からの宣言と諸注意がなされるだけで、各校の競技場に設置された魔道具によって同時に通達され、その後、各々会場に移動するという、味気のない、いわば形式だけのものです。
「キャシーは真面目ね。私なんて全試合ここで出来たらいいのになんて考えているのに」
「私もー」
腕を前に伸ばされながらおっしゃられたマリスターナ先輩に同調された先輩方の声が重なります。
「いや、私だって出来ることならここでやりたいって意見には賛成だけど」
「こればっかりはね」
会場を決めているのは純然たるくじ引きの結果なので、純粋に運だけの結果になります。全試合を他校で行うことになっても、逆に全試合を自校で行えることになっても、大変だと不満を漏らしても、楽だと喜んでも結果は変わりません。
「シエスタ、起きなさい。ここで寝てたらあんた死ぬわよ」
「もう少しだけ寝かせてください、シンシア。今日は大変疲れました」
「寝るのは構わないけど、せめてお風呂を出て着替えてからにして」
反対側では今にも沈んでしまいそうなシエスタ先輩を、いつもは一本にまとめている金髪を解かれたシンシア・ミャスリナ先輩が揺り起こしていらっしゃいました。
「手伝って、アイナ」
「えー」
近くにいらしたアイナ・ガーランド先輩は、渋々といった感じではありましたけれど、シンシア先輩と協力されてシエスタ先輩を湯船から引き摺り出すと、失礼しますと断られて浴場から出ていかれました。扉の向こうからはしゃんとしなさいとか、そっち引っ張ってといった声が聞こえてきます。
「明日は2試合あるのですけれど、大丈夫でしょうか」
私が尋ねると、シルヴィア・ルー先輩は肩越しに扉をちらりと振り返られて、大丈夫でしょとおっしゃられました。
「シエスタは私たちと一緒に守りについているからそんなに動き回るわけではないし、いざとなったら私もいるし、先輩方もいらっしゃるから。だから、ルーナは気にせず、明日も楽しんできたらいいわ」
逆上せないように気を付けてねと言い残されると、シイルヴィア先輩は綺麗な空色の髪をなびかせてお湯から上がられて、戻っていらしたアイナ先輩、シンシア先輩と一緒に身体を洗いに向かわれました。
お風呂から上がった私たちは夕食を済ませると、部屋に戻ってベッドに腰を下ろしました。
「アーシャ、今日はどうでしたか」
アーシャは私やシェリルとは違って守りについていたはずなので、そちら側の様子も聞いておこうと思って話しかけました。
「そうだなあ。やっぱり、守ってるだけっていうのは何となく性に合わない感じはするんだけど、つまらないってことはなかったよ。まあ、ルーナたちが頑張っていたみたいだからこっちの陣地に辿り着いた相手校の選手も結構消耗していたみたいだったし」
「では、明日の試合は交代してみますか。私が守りの方に入るので、アーシャは攻撃の方に向かわれて下さい」
「いいのっ」
アーシャが興奮した様子で勢いよくこちらに身を乗り出してきます。
「ええ、もちろんです。そもそも、役割もきっちり決まっているわけではなく、とりあえず分かれている風なところが強いではありませんか。それに、私も本当にリベンジというのなら攻撃に加わるのではなく、守りの方でこそ仕事をするべきだと思っていますし」
「でも、あ、いや、やっぱり何でもない。ルーナならどっちに入ってもきっと大丈夫だよね」
「一応、明日になったら先輩方に確認してみましょう」
「そうだね、っとそれでどうする、まだ寝るには早いけど」
部屋の外からはまだ声が響いてきています。選抜戦の間は当然授業がないので課題もありません。
「では、もう少し勉強していましょうか。そうすればすぐに眠くなると思います」
「えー」
アーシャが露骨な表情で訴えてきます。
「そのような顔をしてもだめです。もう思いついてしまいましたから。それに、選抜戦が終わればすぐ収穫祭の準備で忙しくなりますし、実習にも行きたいじゃないですか。今のうちに予習でも何でも授業のことは終わらせておきましょう」
「ルーナは本当、真面目だね」
アーシャはベッドから降りると、何のかんのと言いつつも私に付きあって机に向かい、ノートを広げてくれました。
「学生の本分は勉強ですよ。もう少しだけなら、明日にも影響は出ないでしょう」
明日の相手はサイリア特殊能力研究院とイエザリア学院。
特に最終戦のイエザリア学院との試合は厳しいものになる気がしますが、今ここであれこれ考えていても仕方ありません。
「明日も頑張ろうね」
「ええ、もちろんです」
こういう幕間とでも言うべき、あってもなくてもいいような話はタイトルつけるのが難しいです。
1とか2とか、いっそ幕間でもいいのですけれど、それだと大半が幕間になるんですよね。