3年生対抗戦開始
食欲の秋、学問の秋、芸術の秋。
秋には様々な顔があり、特にここ、コーストリナ王国では豊穣の秋としてお祭り、収穫祭が行われるほどですが、私たち学生にとってはこれまでの成果を試される、対抗戦の秋でもあります。
夏季休暇を終えると、直近に迫った対抗戦に向けて練習、訓練にも一層身が入ります。
連日、日が暮れるまで演習場に残って試合形式の練習を繰り返します。メンバーに選ばれなかった生徒、特に5年生や4年生の方は誰に頼まれるでもなく自主的に、自然に残って相手をしてくださっています。
そして3年生になったからこそ分かることなのですけれど、私たちには現地実習もあります。
まとめて行うことも可能と言えば可能なのですけれど、それは授業に出られない日が続くということであり、あまり好ましい履修体制とは言えません。そのため定期的に出かけることとなり、さらに厳しいものとなります。
「でもそれはきっとイエザリアでもルーラルでもサイリアでも同じことよ。イエザリアなんかは体力的にはうちより厳しいかもね」
だからへこたれている暇はないのよと、キャシー先輩からの激が飛びます。
イエザリア学園。魔法の中でもより競技や戦闘の方面に特化した学習体系がとられていて、将来、近衛や衛兵、冒険者に身を置く方が多く排出される学園です。ルードヴィック騎士長もそちらの出だと聞いています。
ルーラル魔術学校。魔法、魔術を扱う中でも知識の方面に力を入れていて、学問や研究、実験に多くの時間が割かれ、学者や研究者、博士と呼ばれるような方達を多く送り出しているエクストリア学院と同じくらい歴史のある学校です。
そして、サイリア特殊能力研究院。特能研などと略して呼ばれたりすることもあります。ここでは魔法という枠からは少し外れた異能力と呼ばれる能力についての研究、解明が進められています。
「聞いた話では、サイリアでは呪いなんかについても学ぶことがあるそうよ」
呪いという言葉に反応してしまい、肩がピクリと動きました。
「呪いですか」
気になったのは確かでしたし、誤魔化すように聞いてみます。
「心配しなくても大丈夫よ。実際に今までそういう被害が出たという話は聞かないし」
「そ、そうですよね」
シェリルが引きつったような笑顔を浮かべて、乾いた笑い声を漏らしています。
「シェリル、もしかして」
「別に怖くはないわよ」
冷静な口調。ですが、回答までの時間はとても短いものでした。
「まあ総合的に見ればうちが一番、競技に関してはバランスよく対応できると思うけれど、どこと対峙しても、特にイエザリア学院には注意が必要ね」
「まあ、相手のことを気にしていても仕方ないな」
エミリア先輩が手のひらにパシッと拳を撃ちつけられます。
「どんな相手だろうとあたしが大将の前まで連れてってやるよ」
「よく言うわよ。ゴーレムに手こずってたくせに」
キャシー先輩の指摘にエミリア先輩が指を振られます。
「安心しなよ、キャシー。もはやあの時のあたしとは一味違う」
「あの時ってあなたねえ」
先輩方が集まって何やら話し始めてしまわれたので、私たちはそくさくと着替えを済ませると演習場を後にしました。
そして私にとっては初めての、選手として迎える選抜戦の日が訪れたのです。
「キャシー、負けるんじゃないぞ」
「キャシー先輩。お願いします」
各校が一堂に集まる開会式が華々しく終了し、一度競技場から出た私たち選手は各校とも代表と思われる生徒の方に熱い視線を送っています。
「そんなことを言われても、結果は変わらないのよ」
「いや、変わる。気合で」
はぁとため息をつかれたキャシー先輩は、審判を務めてくださる先生方に見守られながら、各校の代表者の方それぞれに向かって拳を突き出されました。
じゃんけんの結果、エクストリア学院はイエザリア学院及びサイリア特殊技能研究院との試合は自校で、ルーラル魔術学校との試合は相手校で行うことになりました。つまり、最初の試合がアウェイでの試合となり、残りの試合はホームでの試合となります。
「比較的良かったんじゃないの」
「そうね。さすがに全部ホームってわけにはいかなかったけど」
「イエザリアとの対戦がホームで行えるのは大きいわね」
先輩方は結果に概ね満足いっていらっしゃるようでした。確かに全てホームというわけにはいきませんでしたけれど、全てアウェイで行うということもなく、むしろ2度もホームで試合が出来るのは、私たちにとってかなり有利だと言えるでしょう。
「じゃあ、皆、準備はいいかしら」
思いのほか寒かったため、運動着の上から制服と同じ色の上着を着込むと、私たちは揃って頷きを返しました。
「それじゃあ行くわよ」
私たちは意気揚々と更衣室から出ると、馬車に分乗して、目的地であるルーラル魔術学校へと向かいました。