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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
少女誘拐編
14/314

収穫祭開始

 迎えた収穫祭当日、空は澄み渡り、ラッパが高らかに鳴り響き、太鼓の音が鼓膜を揺さぶりお腹に響く。

 甘い香りや香ばしい匂いのする屋台も立ち並び、気候にふさわしい穏やかな風を、逆に吹き飛ばすような熱気に溢れた人たちが中央広場に詰めかけている。

 こちらで大道芸を見ているかと思えば、あちらでは既にお酒やお菓子を手に持って、真昼間から宴会のようなことまで始めている人たちまで、其処彼処にみられる。まあ、開会式なんて、盛り上げるために行う形式的なものだから、どうしていようと別に構わないのだけれどね。国民が心の底から楽しめているようならそれでいい。それでも、この国を治めるものとしての役割はきちんと果たさなければ。

 中央広場に設置された台の上、今回の収穫祭の総責任者、あくまで民間のだけれど、サザルバール氏が姿をみせる。


「皆さま、お静かに願います。国王様より、収穫祭の開始の宣言がございます」


 歓声、咆哮、そして、割れんばかりの拍手が沸き起こる。頭が揺さぶられ、視界がぐらつく。広場中に熱気が広がっていく。それに応えるように手を挙げて、父様が台に上がる。それと同時に、辺りもしんと静まり返る。まさに今、弾けんばかりの種子を連想させる。


「私も長い話は好きではないし、皆も退屈してしまうだろう。はやく祭りを楽しむためにも、手短に済まそう。今回も収穫祭を迎えられたことを喜ばしく思う。皆も大いに楽しみにしていたことだろう。たしかに、現在、我が国及び近隣諸国では深刻な事件が相次いでいる。この中には、実際に被害に遭ったものも少なからずいることだろう」


 全体の雰囲気に、どことなく暗いものが混じる。そんな空気を吹き飛ばすように、父様は続ける。


「しかし、そのような犯罪に屈するような我々ではないということをみせつけてやろう。祭りの期間中も、我々が目を光らせているので皆が気にすることはない。目一杯騒ぎ、心の底から笑い合い、心ゆくまで楽しみつくそう。それではここに収穫祭を開催する」


 広場は、街は、歓声に包まれた。




「それでは、私とアルメリアは城に戻る」


「あんまりハメを外し過ぎちゃだめよ」


そう言い残して、父様と母様は馬車に乗り込んだ。転移するにもできるだけ人目に付かない方が好ましいし、今日はどこもかしこも人だらけだ。もっとも、そんなに無暗に使うとも思えないけれど。


「じゃあ、私たちも行きましょうか。……それとも私はお邪魔かしら」


 姉様がこちらを見て、面白そうに笑っている。姉様はお祭りを命一杯楽しむつもりらしく、膝丈ほどのズボンに、白いシャツの上から、ガウンを羽織っている。


「そんなことはないよ、姉様。一緒に見てまわろう」


 僕はルーナの方に向き直り、膝をついて手を差し出す。


「さあ、共に参りましょう、ルーナ姫。お手を取らせていただいてもよろしいですか?」


「はい、ルグリオ様」


 ルーナは頬をほんのり赤く染めて、差し出した手を取ってくれた。

 今日のルーナは、髪を結い上げ、暖かい色調のワンピースに、歩きやすいようにヒールの低い靴を履いている。皆がルーナのことは知っているし、むしろ隠そうとしない方が目にも止まっていいと思ったからだ。


「やっぱり、私、お邪魔じゃないかしら」


 姉様のつぶやきは、申し訳ないけれど、聞こえなかったことにした。



 

「じゃあ、まずはどこからみて回ろうか」


 揚げたサツマイモの蜜掛けや、糸状に引き延ばされた砂糖菓子、綺麗な飴細工、小さく切られた肉の串刺し等、ずらりとお店が並んでいる。もちろん、食べ物ばかりであるはずもなく、輪投げにくじ引き、仮面を売っているお店まで本当に様々だ。


「ルーナはどこか見てみたいところはあるかな?」


 祭りの熱気に充てられたようで、ルーナは少し紅潮していた。


「……私は、このようなお祭りは初めてなので……。アースヘルムでも、あまり出歩いたことはありませんでしたし」


「そっか。それじゃあ、僕が案内するよ」


 僕たちは適当なお店を探して歩き回る。


「ルーナ、疲れてはいないかい」


「大丈夫です。ルグリオ様」


 まずはのどを潤そうと思って、適度に冷えた桃の果実の飲料水を買ってルーナに渡す。


「すっきりした口に残らない甘さで美味しいです」


「それはよかった。こっちの胡桃の蜂蜜掛けもおいしいよ」


 あんまりたくさん食べてばかりだと夕食が入らなくなるなあと少し考えたりもしたけれど、甘いものを食べているルーナが幸せそうな顔をして口元を緩めているのをみていると、それもいいかなと思えてくる。


「どうかなさいましたか?」


 不思議そうな顔をして、ルーナが小首をかしげる。


「どうもしてないよ。姉様はどこか見たいところはないの?」


「私は私で楽しんでいるから心配ないわ」


 姉様の両手には、いつの間に手に入れたのか、景品と思われるものや、沢山の食べ物が抱えられていた。どうやって持っているのだろうか。仕舞えばいいのに、とはこの際言わないでおく。


「そんなことよりも、ルグリオ。気付いているかしら」


「うん。気付いているよ」


 先程から、何者かに見張られている。それも複数人。護衛に派遣されているのとは違うだろうという雰囲気が漂ってきている。


「僕たちが王族と知っているのか、それとも知らないのかはわからないけれど、これ以上連れまわすのもいい気分じゃないね」


「ええ。せっかくの楽しいお祭りに水を差してくれたお礼はしないとね」


 僕と姉様だけならどうとでもできるだろう。しかし、この場にはルーナもいる。


「とりあえず、こうしましょう」


 僕とルーナと姉様は頭を合わせて、打ち合わせをした。






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