表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/314

vsロックリザード

 私たちが飛び出すと、一方のロックリザードは一度洞窟の奥へと避難するような素振りを見せましたが、私たちに近い方の個体がキィキィと声のようなものを発したかと思うと、もう一方もその場で奥に向かって同じように鳴いた後、方向転換してこちらへ向かって音を立てて突撃してきます。


「どういうこと」


 こちらへ向かってくるのは面倒がなくていいけれど、その理由がわからないとシズクが首を傾げます。


「片方は逃げる素振りも見せていたのに」


「逃げなかった理由は簡単にわかります。逃げても無駄だからです」


 彼らの鋭く光った爪を躱しながらシズクの疑問に答えます。


「自分たちの方が強ければ倒してしまえばいい、逆に弱ければ逃げても捕まるだけ。おそらくはそう考えたのでしょう」


「でも、自分たちの方が足が速ければ逃げ切れるんじゃない。それに仲間がいるなら合流した方が得策だと思うけど」


「彼らの方が足が速ければ、外の開けた場所ならば逃げ切ることが出来るかもしれません。仲間を待つのもいいかもしれません。しかし、曲がりくねったこの洞窟の中でそれほどの速度が出せるとは思えません。それに、こちらの力が未知数である場合、仲間を待つ時間があるのかも不確定です。そして、彼らはその性質上、この洞窟を出て生きていくことが出来ないのだと思われます」


「どうして」


「彼らが何をしていたかわかりますよね」


「もちろん。この岩肌を削って・・・あっ」


 シズクも理由に思い至ったようです。


「そう。おそらく場所が違えば変わるのかもしれませんけれど、彼らはここの岩肌を削ることでそれを食料として生きていました。つまり、ここを出ては彼らは生きていくことが出来ないのです」


 もちろん、他にも同じ鉱物が採掘できる鉱山はあるでしょう。しかし、どのみちそこまで行くにしても、目の前の私たちという外敵を排除しなければ、可哀想ではありますけれど、彼らに明日はこないのです。


「すみませんが、ここで私たちの成長の糧となってください」


 目の前に迫ったロックリザードが振り回してきた眩しく輝く尻尾を後ろに下がって躱します。そのまま尻尾は洞窟の岩壁に大きな音を立ててぶつかり、ミシミシと亀裂が入りました。


「はやくしないと埋まっちゃうかも」


 天井が崩れて落ちてくれば、ロックリザードは無事かもしれませんが、普通の人間は生き埋めになってしまいます。もちろん、いざとなれば私が転移で3人を連れて脱出するつもりではありますけれど、その場合には戦果なしになってしまいます。


「そうですね。それにこのまま長引くとさらにまずい事態に陥るかもしれません」


 先程から、洞窟の奥から私たちの戦闘が反響したのとは別の足音が響いてきています。おそらく、警告なのか招集なのかわかりませんが、彼らの出した声に引き寄せられて奥にいた個体がこちらへ向かって来ているのだと思われます。2匹をやっと相手にしている状況では、これ以上増えるのはあまり良い状況とはいえません。


「でも、こっちの攻撃は通らないよ」


 先程からシズクが繰り出している魔法は、きらきらと輝く甲羅のような外皮によって弾かれてまともに傷を負わせることができていません。魔法自体の強度を上げることが出来ればそれも通るのかもしれませんが、今は牽制が精一杯で時間が作れていないため、そこまでの準備ができません。

 彼らの弱点らしい場所を狙うような隙はありません。


「そうですね。致し方ありません。地形を崩すことになってしまいますが」


 まずはアーシャとメルにも合図を送って、彼らの注意を引き付けつつ全力で後退します。そして走っている間に魔法を準備。出口にも通じる横穴に私たち4人が入り込んだところで、地面を隆起させて私たちが入り込んだ穴、元来た穴の入り口を塞ぎます。

 おそらくは急に外敵、もしくは獲物、が逃げ出す素振りを見せたため好機と思ったのでしょうか、彼らが後ろからの援軍を待たずにガリガリと地面を隆起させて作った壁を削り始めた音が聞こえます。


「あれじゃあ役に立たないんじゃ」


「大丈夫です。私たちは彼らから逃げるわけではないのですから」


 顔を見合わせた皆に作戦を伝えます。とはいえ、それほど大それたものでもないのですけれど。

 即席で作ったためその壁は薄いもので、彼らがその壁を突破するのにかけた時間は短いものでしたが、私たちが準備をするには十分な時間でした。

 

「今です」


 おそらくは私たちが交戦していたと思われる2匹が横穴に入り込んだところで、私は壁に張り付くように隠れていたシズクとアーシャに合図します。


「よーし」


 アーシャの張り切った声と共に地面が勢いよく盛り上がり、入ってきた穴の入り口を完全に塞ぎます。今度は即席で作ったわけではないため、そう簡単には突破されないでしょう。それに、アーシャとシズクは壁を作り終えた後も強化するための魔法を続けて使用しています。いくら彼らの主食と言えど、そう簡単に入って来ることは出来ないでしょう。


「メル」


「うんっ」


 後ろから聞こえた音に彼らが振り返った一瞬の隙を逃さず、私たちは空気の刃で彼らの首を刈り取りました。


「首は可動部ですから柔らかいとは書いてありましたが、その通りで助かりました」


 頭を失った彼らはその場に血を流して倒れ込みました。血を抜いている時間が惜しくそのまま即座に収納すると、私とメルは今なお壁を作り続けているアーシャとシズクに声をかけます。


「アーシャ、シズク。大丈夫そうですか」


「なんとか」


「この洞窟から抜け出すだけの時間は稼げそう」


「それで十分です。ありがとうございます」


 キャシー先輩のように雷を纏うのも試してみたくはありましたけれど、確実な方法、身体を強化するだけでその場からの離脱を優先しました。



 外は丁度お昼時あたりで、太陽は真上を少し過ぎたあたりのようでした。

 馬車まで戻ると、お姉さんが笑顔で迎えてくださいました。


「皆さんご無事のようで何よりです。それで、思いのほかお早いお戻りのようですが」


 私たちが一見しただけでは特に戦果らしい戦果を持っている様子ではないので、心配したような口調で尋ねられました。


「戦果はこれです」


 私が収納していたロックリザードを取り出すと、討伐した直後のように切り飛ばした首の辺りから血が垂れて流れてきました。


「生憎と血を抜いている余裕がなかったのでこれから行います」


 御者を務めてくださったお姉さんは前回と同じ方でしたが、やはり驚いていたようではありました。しかし詮索はされず、そうですかとだけ頷かれました。

 血抜きが終わると、それまで忘れていた空腹に襲われたようで、わたしたちのお腹がくぅと鳴りました。


「少々お待ちくださいね」


 お姉さんはくすりと笑みを漏らされて、馬車から食料を取って来られると、あっという間に食事を作ってしまわれました。


「これも御者としての必須スキルですから」


「ありがとうございます」


 少し得意げなお姉さんと一緒に少し遅めの昼食をいただきました。お味ももちろん、とても美味しかったです。

ロックリザードが使っていた魔法は身体強化のようなもので外皮を強化するものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ