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ロックリザード

 職業として冒険者を選ばれている方には関係のない話ではありますが、私たちはまだ学生であるため、雨季には無理をして学外の実習へ赴くことはしませんでした。

 視界も悪く、体調も崩しやすい。もちろん雨が降らない日もあるのですけれど、私たちの本分は学業であり、学院にいる方が通常の勉強がはかどるというのは言うまでもないことですから。

 その間私たちは図書室の本や先輩にお借りしたノートを眺めて、次に出かける場所を選定したりしました。


 雨季が明けるのと同時に夏の到来を告げる太陽が眩しく頭上から降り注ぎます。


「まさに絶好の冒険日和ね」


 雨季の間出かけられなかった鬱憤を晴らすかのような眩しい笑顔を浮かべた班員、アーシャとかメルとか、に連れられて、私達は組合の依頼を眺めます。


「夏季休暇前はこれが最後になると思うから、少し遠出もしてみたいね」


 ついでに、雨季の間行わなかった実習の不足分を補うためにも、少し難度の高い依頼を受注します。


「ロックリザードの討伐ですね。承りました」


 ロックリザードは主に鉱山に生息している魔獣で、どういう仕組みなのか体内、もしくは体外に宝石や鉱物をため込んでいるという性質を持っています。

 しかし、生息している場所へ向かうのが困難、さらに本体もかなりの強さ、中には魔法を使うような個体もいるらしいということで、学生が向かうには少し困難な討伐対象でもあります。

 受付で対応してくださったソフィー先輩は少し眉を顰められましたが、それだけで特に躊躇われることもなく確認してくださいました。


「まあ、大丈夫でしょう。あんまりにも遅くなるようなら私から学院に連絡しておくから」


「よろしくお願いします」


 いってらっしゃいと気さくに手を振られて、私たちは王都からは大分離れたところにあるゼネルラ鉱山へと馬車に乗って出発しました。



 辿り着いた鉱山への入り口の洞穴の前で馬車の方にお別れを告げます。馬車の方は私たちが戻るまで待っていてくださるのですが、もしかしたら奥深くまで進んでしまい、日をまたぐことになってしまうかもしれません。なにせ、洞穴の中には外からの光が届きませんから。

 

「あの、本当にお待ちになるのですか」


 私たちは御者のお姉さんに申し訳ないと思う気持ちもあり、出来るだけ早くに終わらせようと思っていたのですけれど、お姉さんは微笑んで大丈夫ですよとおっしゃられました。


「問題ありません。それに、私にはあなた達が戻られなかった場合に報告しなくてはならない義務がありますから」


 自己責任とはいえ、学院に予定を提出している以上、そして私たちが学生である以上は学院の側にも私たちの安全に配慮する必要があります。むしろ、そのために学院に予定を提出しているという意味合いが強いです。


「ですから私のことには構わず、皆さんは無事に、そして出来れば良き経験と共にお戻りください」


「ありがとうございます」


 感謝を告げた私たちは、慎重に鉱山へと侵入していきました。




 入り口付近はまだ光が届いていて難なく進むことが出来たのですけれど、奥へ入り込むほど暗くなり、持ってきた松明に火を灯します。言うまでもなく、ずっと光を照らしているのは魔力をだらりと使い続けることになり大変だからです。


「たしかにこれは大変ね」


 メルのつぶやきが周りの岩壁に反響して、思いのほか大きく聞こえます。

 薄暗い中を警戒しながら進むのには体力と精神力が必要で、まだこの場所に慣れていない私たちには大変な道のりです。


「早めに出てきてくれると嬉しいんだけど。そういえば、ルーナはどれくらいまでなら収納の魔法で収納できそうなの」


「そうですね。一般的な大きさなら、数十匹なら大丈夫だとは思います」


 私の回答に、私以外の全員が顔を少しひくつかせます。この魔法を知った時から大分、2年以上は過ぎていますし、セレン様は軽々とログハウスを収納されていました。おそらく、今の私ならばそれも収納可能だと思われます。


「ああ、うん、そう。もうあんまり気にしないことにするわね」


 アーシャは疲れたような顔でそう告げると、再び前を向いて歩き始めました。




 結局その日はめぐり合うことが出来ずに、開けた場所に持ってきたテントを張って就寝しました。

 翌日、簡易的な朝食を済ませて少し進むと、がりがりと岩を削るような音が反響してきました。


「誰か人が来て居るのかな」


 メルが首を傾げます。

 私は以前読んだ書物の内容を思い浮かべながら推測を述べます。


「いえ、おそらくこれは彼ら、ロックリザードの立てている音でしょう」

 

 私は皆の前に出て壁面を叩きます。


「おそらくこの岩壁を体内に取り込み、そこから宝石や鉱石を作り出しているのです」


「だったら、討伐してしまわずに捕らえた方が良いんじゃないの」


 アーシャは討伐ではなく捕獲を提案しましたが。


「生きているままでは収納することはできません。それではたとえ捕らえることが出来たとしても、持ち帰ることは出来ませんが」


 それでもいいですか、と確認すると、一様に首を横に振られました。

 全滅させるつもりでないのなら、おそらく彼らの仲間が追ってくるのを撒いて逃げなくてはなりません。そして、全滅させるつもりは元々ないので、確実に逃げることになります。その場合に、討伐した彼らを持ったままでは逃げ切ることはかなり困難になると言わざるを得ません。そして置いて帰ったのでは、それは討伐した彼らに対する冒涜ですし、私たちの利にもなりません。


 私たちは注意深く岩陰に身を潜めて、曲がった先を確認します。


「たしかに、あれはロックリザードのようですね」


 視線の先には2匹のロックリザードが確認できました。

 背中側の赤茶色の皮膚の上から、一方の個体には棘のように、もう一方の個体は甲羅のようになった宝石が光り輝き、薄暗い洞窟内を照らしています。彼らは地面に足をついたまま、壁に手をついてガリガリと岩壁の表面を削っています。


「綺麗・・・」


 アーシャが口に手を当ててつぶやきます。彼らには聞こえていないでしょうけれど、なんとなく声が小さくなってしまうような状況ではあります。


「あれで一体いくらに。ああ、あれだけあれば、孤児院も失わずに済んだのに」


「メル」


 メルの小さな声が聞こえてしまい、思わずメルの方を向くと、メルは違うのと言って慌てたように手を振りました。


「今の生活には、私にはもったいないくらいで、とても満足しているけれど、あの時にもあれを討伐できるだけの力があったらなあって少し思っただけだよ」


「そうですか」


 だから気にしないでとメルは私から視線を外してロックリザードの方を見つめます。


「準備はいいですか」


 全員が頷いたのを確認して、私たちは一斉に岩陰から飛び出しました。隠れていた方が安全ではありましたけれど、行動が制限されてしまいますし、結局彼らを回収しなくてはなりません。それに、これから討伐するのだとしても敬意は払うべきだと考えたからです。



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