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とっくの昔です

 戻ってきた私たちは大きな歓声に迎えられました。

 すでに女子寮前のフィールド内には選手ではない生徒も待ちきれないといった様子で飛び出してきていて、私たちはすぐに囲まれました。


「ルーナ様、タオルです」


「こちらはお飲み物です」


 私も後輩にタオルや飲み物を差し出されたのでお礼を述べると、彼女たちは頬を染めて、黄色い歓声をあげながら輪の中に戻ってさらにはしゃいでいる様子でした。


「シエスタ先輩」


 私は辺りを見回して、寮から持ち出されたと思われる椅子に腰かけられているシエスタ先輩を見つけると、ご友人と話していらっしゃる様子だったのですが、そちらへ向かっていきました。


「体調の方はいかがですか」


「私のことなど心配してくださってありがとうございます。身に余るお言葉です。私は大丈夫です」


 シエスタ先輩はお飲みになっていた檸檬と蜂蜜を溶かしたお湯を机に置かれて、私は止めたのですけれど、椅子から立ち上がられると優雅に一礼されました。


「シエスタは相変わらず硬すぎ」


「ルーナが入学した時にいなかったから仕方ないのかもしれないけど」


「私の方から言わせてもらえば、あなた達の方が信じられません」


 他の先輩方はそうでもありませんでしたが、シエスタ先輩は割と真剣にそのような不敬と思われる態度をとることに抵抗があると言いますか、とんでもないと思われているようです。

 可能性は低い、もしくはないと思われましたが、そのまま言い争いに発展してしまう前に口を挟ませてもらおうと思ったのですけれど、それよりも前に後ろから抱き着かれました。


「ルーナっ」


「きゃっ、アーシャ、驚かさないでください」


「ごめんごめん。でも、いいじゃない、どうせこれから祝勝会もあるんだし、少しくらいハメをはずしても」


「じゃあ私も」


「私も」


 私は多少なりとも運動した後でしたし、同じように運動着のアーシャはともかく、汗もかいていましたし、他の私服の方は遠慮した方が良いのではと考えていたのですけれど、皆さん、そのようなことは考えてもいらっしゃらない様子でした。


「はいはい、そこまで。とりあえず出てた皆は風呂に行かせてやりな。そのままだと風邪ひくだろう」


 狂騒を打破したのはトゥルエル様の一言でした。

 エプロン姿のトゥルエル様は一声で人の輪を散らされると、私たちを追い立てるように寮の中へと向かわれました。

 私たちは疲れていることは事実でしたし、この後には祝勝会も開かれることですから、素直にトゥルエル様のご厚意に甘えることにして、部屋へ着替えを取りに戻りました。





 さすがにお城のものには敵うはずもありませんけれど、寮のお風呂は大きいため、学生が20名程度入っただけではほとんど狭さを感じません。私たちはお湯につかると一斉にため息を漏らして、自然にお互いに微笑みあいました。


「こうしてのんびりとした気持ちでお風呂に入れるのも勝利したからかな」


「そうね。負けてたら気持ちも沈んでいたもの。きっとお湯にも沈んでしまっていたわ」


 こうした軽口で笑い合えるのも勝利したからこそでしょう。私は手でお湯を一掬いすると肩から掛けました。


「どうしたんですか、アーシャ」


 視線を感じて、ごくりと喉のなるような音が聞こえたので隣を向くと、アーシャがまじまじとこちらをいていました。


「いや、なんかルーナが色っぽかったから」


「何を言っているんですか。いつも一緒に入っているではないですか」


「そうなんだけどね」


 アーシャが同意を求めるようにシェリルの方を向くと、シェリルもこくこくと頷いています。


「大体、それを言うならあなた達や先輩方の方がよっぽど、いえ、何でもありません」


 アーシャは身長こそ私とそれほど変わらず小柄ですが、均整の取れた綺麗な身体とボリュームのある胸をしていますし、シェリルも引き締まった身体とふくよかな胸をお湯に浮かべています。

 私は自分の身体を見下ろして、再び、先程とは違う意味で深いため息をつきました。


「大丈夫、ルーナもちゃんと育ってるよ」


 おもむろにアーシャに胸を揉まれました。


「いきなり何をするんですかっ」


 思わず腕で胸を庇いながら後退します。


「ふむ、2センチ」


「冷静に考察しないでください」


 大体、いつと比べての話をしているのですか。


「ルーナはそういうことを気にする人なの」


「そういうこととは」


「やっぱり、最初はルグリオ様に触っていただきたかったとか」


 それは、まあ、もちろん、そのような気持ちも持っていないこともありませんでしたけれど。


「ルグリオ様とはずっと前にもう一緒にお風呂には入っていますし」


 アーシャの追及を避けるためだったのか、つい、そんなことを漏らしてしまいました。すると、一瞬でお風呂場の空気が固まり、静寂が訪れました。水の滴る音だけが、やけに大きく響きます。慌てて口を押えましたが、すでに時遅し。


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっ」


 大音声がお風呂場に響き渡りました。確実に外にも聞こえていると思われます。


「うるさいよっ。あんたたちももっと静かに入りなっ」


 トゥルエル様がいらしたのですけれど、そのようなことはすでに誰も、私の他には、聞いてはいませんでした。


「何何っ、どういうこと」


「いつの話っ」


「詳しく」


「教えてください」


「皆さん興奮しすぎです。せっかく疲れをとるためにお風呂に入っているのに、それでは意味がないではないですか」


 もちろん、その程度で引いてくださるのなら、元々このような事態には陥ってはいないでしょう。


「じゃあルグリオ様は、ルーナのこのすべすべした玉のような肌も、上気してほんのりと染まるリンゴのような頬っぺたも、サラサラの銀細工のような髪の毛も全部ご覧になられたの」


 そのように触れられると少しくすぐったくて、私は身をよじってその輪の中から脱出しました。


「それどころか、私もルグリオ様のお背中をお流ししましたし、私も綺麗にしていただきました」


 もはや何を言っても同じだろうと、その日のことを洗いざらい白状しました。今更隠してもしょうがなくなってしまいましたし。


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっ」


 再び大音声がお風呂場に響き渡りました。


「だから、うるさいって言ってるだろうっ」

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