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3年学内選抜戦決着

 1年生の時にアリア先輩に伺っていた通り青く縁取られた校章が目視できる位置まで辿り着くと、キャシー先輩は纏われていた魔法を解除されて、静かに私のことを下ろしてくださいました。かかっていた重力は魔法で防御していたのですけれど、キャシー先輩が停止されたときには一瞬、ふわっとした感じを味わいました。

 周囲を見回すと、男子生徒は慌てたように陣形を作り、私たちの妨害をするように動き始めていました。


「おそらく、ゴーレムが突破されるとは考えていなかったのでしょうね。もしくは、例え突破されても十分なだけの戦力が残っているのかもしれないけれど」


 キャシー先輩の推測は正しかったらしく、彼らは驚いているようで、顔には焦りの色が浮かんでいます。


「突破されたのかっ」


 しかし、その驚きも一瞬のことのようで、私たちを確認するとあからさまに安堵したような表情になりました。


「なんだ二人だけじゃないか」


「おい馬鹿、油断するなよ。キャシーとルーナ様だぞ」


 指揮官のような方に注意されて、気を引き締めなおしたようで油断なくこちらの様子を窺ってきます。


「ねえルーナ、ひどいと思わない。ルーナには様がついているのに、私のことは呼び捨てなのよ」


 キャシー先輩はおどけたような口調で、彼らからは視線を離さずに、おっしゃられました。


「まあいいわ。あまり時間もかけられないし」


 キャシー先輩は一度後ろを振り向かれました。こちらへ向かってくるような声は今のところ聞こえてきてはいませんが、いつ挟撃されるような形になるのか、もしくは援軍が来てくださるのかわかりません。下手に時間をかけるのは得策とは言えません。


「行かせると思うのか、護封―—―—―」


 キャシー先輩が再び帯雷されたので、それを止めるためにより強力な結界でも作って私たちを封じ込めようとされたのでしょうか。

 一般的に、魔法の出力は個人の魔力と想像力、他にも要素はありますが、大よそそれらによって決定されます。つまり、魔法に名称をつけたり、文言を唱えたりするのはその補完としているところが大きいと言われています。

 よって、出力の強い、大規模な魔法を使う時には詠唱が効果的であるのは間違いではないのですけれど。


「何っ」


 詠唱しなければならない、そんな工程を挟む遅い魔法は妨害も入りやすいということです。

 男子生徒が途中まで文言を紡がれたところで、懐に潜り込むことに成功した私は、その勢いのまま相手を突き飛ばします。もちろん加減はしたのですが、詠唱中ということもあり無防備だったらしい彼は、勢いよく後ろに向かって飛んでいきました。


「捕まえたっ」


 突き飛ばした格好でその場で固まってしまっていた私は、腕を引き戻す一瞬前に手首を掴まれてしまいました。さすがに、男子の握力を振りほどく力はありません。ルグリオ様やセレン様のように武術を修得しているわけでもありませんし。


「あの、放してくださいませんか」


 困ったような顔をつくって、優し気に微笑みかけます。


「は、はいっ、すみません」


 慌てたように顔を赤くされて、パッと手を放してくださいました。


「おいばか、何放してるんだよ」


「あっ」


 卑怯だとも思ったのですが、使えるものは何でも使うべきだとセレン様もおっしゃっていましたし。


「すみません」


 彼には悪いと思ったのですけれど、今後は気をつけなくてはと思いながら、吹き飛ばしました。

 成長期だからと遠慮してはいたのですけれど、そろそろ私もルグリオ様やセレン様のように武術を習うことができるかもしれません。夏季休暇になったらそれとなく尋ねてみることにしましょう。

 

 そんなことを考えている間にキャシー先輩は、おそらく男子寮側の守備陣の責任者と思われる方と対峙されていました。


「まずい、加勢に」


「行かせると思いますか」


 反転して向かわれようとしていた彼らの行く先に障壁を展開し、行く手を遮ります。今度は逆に、私が彼らの足止めをするかたちになりました。

 敢えて作戦を伝えるようなことはしませんが、さもこちら側は奇襲をかけただけで、攻め手は私とキャシー先輩しか来ていないと思わせるためにもわざと彼らの注意を私に引き付けます。 

 予定では、私たちが通るために先輩方が男子生徒の注意を引き付けてくださることになっていたのですけれど。


「逆になってしまいましたね」


 思わず声が漏れてしまい、怪訝そうな顔をされました。

 

「まずいっ」


 一人、一番奥にいた男子生徒が焦ったように後ろを振り返りました。


「どうしたんだ」


「この二人、いや、エミリア先輩を入れれば三人は囮だったんだ。こんなに派手に、わざわざゴーレムを砕いたのも、俺達の妨害に邪魔されてここで止まっているように見せているのも、キャシー先輩の方に行かせまいとしていたのも、あたかも3人だけでこちらを攻略できると思わせるための―—―—」


 気付いたところですでに遅かったようです。

 かなり遠回りになり時間が掛かるため普通はそちらに人数をかけたりはしませんけれど、裏側へと向かわれたハーツィースさんやシェリルが到着したのでしょう。前方から衝突音と歓声が聞こえてきました。


「気づかれましたか。しかし、そちらへ行かせるわけにはいきません。皆さんにはもうしばらくここで私の相手を務めていただきます」


 改めて私はこの場に見える全員を囲えるだけのドーム状の障壁を展開します。


「まだこんなに魔力が残っているなんて」


「こちらへ来るまでは大分楽をさせていただきましたから」




 それからすぐに終了を告げる合図が晴天の下に響き渡りました。



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