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ゴーレム攻略

 ようやく男子寮を目視できる距離まで近づくことができたのですけれど、私たちは男子寮の前の茂みに身を潜めました。キャシー先輩を含めて先に向かわれた先輩方はすでに交戦されていましたが、無暗に飛び込むのでは戦場を混乱させるだけで打開することはできません。そして私たちも、男子寮前の光景を目にして、進むことを躊躇わざるを得ない状況に陥っていました。


「何なの、あれ」


 ようやくひねり出したかのようなつぶやきがシェリルの口から洩れます。


「ゴーレムですね。核を基にして魔力で動く土くれ、いえ、人形です」


 岩を固めて出来たような、見上げるほどの大きさの人形が男子寮の前に仁王立ちして、大きな腕を振り回し、巨体で持って進路を塞いでいます。

 一足踏み込むだけで生じる振動と衝撃波、当たれば行動不能に陥るだろうことは明白な巨腕がこちらの突撃を鈍らせます。

 私たちが足を鈍らせていると、そのゴーレムに向かって一陣の稲妻が駆けて行くのが見えました。

 周囲にバチバチと弾けるような音を放ちながら、これだけ近くにいても目視するのがやっとな速度でゴーレムの脇をすり抜けようとしています。


「キャシー先輩」


 2年生の時の選抜戦の様子を思い出しながら、雷の砲弾の正体を推測します。

 しかし、いくら早かろうとも来る場所さえ知られていれば対処はされてしまいます。 

 ゴーレムの背後、丁度キャシー先輩が抜けようとされていたところには複数人が固まっていて、絶対に通すまいと氷の礫や火の玉、魔力砲が集中していて人の通る隙間はなさそうです。

 動きが鈍ったところにすかさず巨腕が振り下ろされて、地響きと共に土煙が舞い上がります。

 煙が霧散するころにはそこにキャシー先輩の姿は見えず、ただ地面がひび割れ所々亀裂が走っているのが確認されました。


「あれは厄介ね」


 声の聞こえた方角、斜め後ろを振り返ると、帯電してはいない通常の状態のキャシー先輩が額の汗をぬぐっていました。


「あら、皆来てたの。よかった、まだリタイヤしてないみたいね」


 キャシー先輩は私たちの後方から追っ手が来ていないことを確認してほっと一息つかれたようでした。


「他の皆さんがどうされているかはわかりますか」


 キャシー先輩が一人、一番最初に男子寮に奇襲をかけて、もちろんそれで落とすことが出来れば僥倖、できなかった時のためには他の先輩方が控えていらっしゃるはずなのですが。


「ええ。予定では私が彼らの注意を惹いている間に、他の皆が本陣に突っ込んで校章を探して破壊するというつもりだったのだけれど、あれじゃあちょっとばかり潜り抜けるのは難しそうね」


「前回はあのような人形が動いていたという記憶はありませんけれど」


 そう言いつつ、ゴーレムのことを観察すると、肩の上あたりに人が乗っているのが確認できました。おそらくはその方がゴーレムを創造し、動かしているのでしょう。


「審判の先生から何も言われていないということは、過剰ではないと判断されているのでしょうけれど」


 キサさんが顔をしかめて、可愛らしい唸り声と共にぽつりとつぶやきます。


「とにかくまずは場所を移動しませんか。一か所に留まり続けるのは危険かと思います」


 シェリルの提案に私たちは頷いて、おそらくは追いついてきているであろう他の方を探すのと同時に、あのゴーレムを潜り抜ける方法を話し合います。



「ゴーレム、というか一般にああいった召喚系の魔法を主に使ってくるような相手には、一対一の戦いなら、まずは創造、召喚させないように初っ端から攻勢をかけるのが基本なんだけど、対抗戦みたいに陣地が離れているような競技で使うにはもってこいの魔法ね」


「そうね。でももちろん攻略不能ということはないわ。あのゴーレムを破壊できるだけの攻撃が出来れば、少なくないダメージが術者にも返るはずだし。もちろん、生半可な攻撃では痛くもかゆくもないだろうけど」


 先輩方の視線がゴーレムの肩の方へ向けられたので、私たちもその辺りを注視します。誰なのかはわかりませんけれど、確かに誰かが乗っていて動かしているようです。


「あの方が作り出しているのですよね」


「多分ね」


「まあ、一応あのゴーレムごと倒すことも出来るっちゃあ出来るんだけどな」


 紫色の長髪をポニーテールでまとめたエミリア・ローデンファルト先輩がそのようにおっしゃられて、キャシー先輩は笑顔でエミリア先輩の頬を引っ張っていました。


「いふぁいいふぁい」


「最初から言いなさい」


「おー痛い」


 エミリア先輩はしばらく頬をさすっていましたが、キャシー先輩に向かってばーかばーかと悪態をつかれて、キャシー先輩が何ですってと言い返され、そのまま言い争いに発展するかとも思ってみていたのですけれど、先輩方は私たちの視線に気がつくと、コホンと咳払いをされて人差し指を一本立てられました。


「あたしが全力まではいかずとも、多分8割くらいの力でぶん殴れば砕き倒すこともできると思うんだよ」


 エミリア先輩は私たちのことを見回されました。


「けど、そのためには力を溜める必要がある。正直、うちの守備陣がどうなっているのかわからない状況であまり時間をかける技は使いたくないんだけど。それにその間はこっちが無防備になっちまうから、気づかれると無効化されるし」


「つまり、あなたを守りながら相手の攻撃を捌き続けなくちゃいけないのね」


 キャシー先輩は確認するように集まった私たちを見回され、私たちが頷くのを確認されるとそれぞれの配置を指示されました。







「来たぞ」


「撃て撃て」


 エミリア先輩を囲うような形で私とキャシー先輩は敵の陣地へ向かって進んでいきます。他の方は私たちの方ばかりに集中しないように別方向から襲撃するために裏側及び側面へと回られました。ゴーレムの攻撃は私たちに集中させたいところですけれど、他の攻撃はばらけさせたいですから。


「なあ、もっと人がいてもよかったんじゃねえか」


「それでは彼らの守りを散らすことができないでしょう。全員で集まったらさっきまでとほとんど変わらないじゃない」


「まあ、キャシーとルーナなら心配はしてないけど」


 私が選ばれたのは、攻撃陣の中で最も防御に長けていたという理由です。

 こう言っては何ですけれど、私よりも防御の魔法に優れた先輩方は自陣の防衛に就かれていらっしゃいますし、攻撃に参加されている誰と比べても私の防壁のほうが優れていると先輩方にも頷かれてしまいました。


「本当に私でよかったのでしょうか」


「もちろんよ。あなたに無理なら、こっちに来ている誰にも無理だから」


 皆一応防壁は作れるけど、やっぱり攻撃寄りなのよねとキャシー先輩は仕方ないわというように溜息をつかれました。


「私たちだってこんなごり押しがいつまでも持つとは思ってないわ。他の皆がやられたら一気にこっちに攻撃が集中するし、早めに倒しちゃってよね」


「ああ、わかってるよ」


 エミリア先輩が収束に入られると、ますます砲撃が集中します。


「チャージなどさせるものか」


 遠方から魔法を撃ち込むだけではこちらの防壁を破ることが難しいと判断されたようで、握り拳に魔力を集めた男子生徒が数人、こちらへ向かって突撃してきました。確かに、魔力だけよりも魔力と肉体両方の方が威力はあがるのですけれど。


「させません」


 私はアーシャと戦ったときよりも強固な、防壁ではなく結界を作り出して私たちをまとめて囲います。私の結界は男子生徒の防御突破の魔法の威力を上回ったようで、彼らを弾き返しました。


「それができるなら、ルーナは守りに回った方が良かったんじゃないの」


「今更ですね」


 


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