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3年学内選抜戦開始

 澄み切った青い空の下、先頭に立たれたキャシー先輩は、肩の辺りまで伸びたエメラルドのように輝く髪を払うと、開始の合図を待ち望む私たちへと向き直られました。


「私はあんまりこういうことは得意じゃないんだけど」


 キャシー先輩は照れたような表情で頬の辺りを掻かれました。


「えーっと、これから学内の選抜戦が始まるわけだけど、前回勝利したからといって今回も勝てるとは限らないわ。いいえ、むしろ前回こちらが勝利している分、連敗はするまいと思って、向こうはかなり必死になってくるはずよ。他の、学院の内情や実力をきちんと測ることが出来る人が聞いたのでなければ、男子が女子に負ける、それも二年続けてなんて肩身の狭い思いをすると思うの」


 魔法を抜きにして考えても、骨格や筋肉の関係上、男性の方が女性よりも基礎運動能力が高いというのが一般的です。もちろん、鍛錬によっても変わってきますし、あくまでもそういったことが多いという程度ですけれど、


「でも、そんなことは関係ないわ」


 キャシー先輩はふんわりとした笑顔を浮かべられました。


「前回の勝利に過信することなく気を引き締めていきましょう。こういう言い方は好きじゃないんだけど……負けたらアレを着ることになるのよ」


 1年生と2年生を除いた生徒の身体が一瞬硬直したようでした。もちろん私も。そしてなぜか、アーシャたちの視線が私の方を向くのを感じましたが、私は気にせずキャシー先輩のお話に耳を傾けます。


「皆も嫌でしょう。私も嫌。だから勝たなくてはならないのよ」


 1年生と2年生は何の事だか分かっていないような顔をしていましたが、私たちの雰囲気は伝わったようです。


「あの、ルーナ様」


 2年生の代表、腰の辺りまで伸びた亜麻色の髪、きりりとした赤い瞳が魅力的なキサ・ティレイラさんが、握り拳をぎゅっと握りしめ、少し屈んで私の顔を正面から見つめていました。


「どうかしましたか?」


 多分、緊張しているのだろうなと思って、緊張をほぐせるように柔らかい口調で尋ね返しました。


「き、今日は、私も妹共々、頑張りましゅ」


 それほど緊張していたのか、キサさんは最後の方で舌を噛んでしまわれたようで、涙目になって口元を押さえています。


「お姉ちゃん、大丈夫。まったく、仕方ないんだから」


 妹のエリィさんがキサさんの口を開いて中を覗いて、たどたどしく治癒の魔法をかけていました。


「もう治癒の魔法が使えるのですね」


 私が驚いて声をかけると、エリィさんは赤くなってはいと返事をしてくださったのですけれど、またすぐにキサさんの後ろに隠れてしまわれました。

 私がどう話しかけようかと悩んでいると、私の後ろからシェリルがひょこっと顔をのぞかせました。

 シェリルは藍色の長い髪の毛に金色の瞳のロックリー家の一人娘で、私やアーシャと同じクラスの普段は静かな女の子です。ただし、ご実家が大きなお菓子のお店を開かれているということもあり、たまにいただくお菓子はとても美味しいのですけれど、一度お菓子の話をし出すと止まらなくなってしまうので、注意が必要でもあります。


「良かったらこれ。甘い物を食べると緊張もほぐれるわ」


 そう言って、どうやって仕舞っていたのかポケットからちいさなマドレーヌを取り出すと、姉妹に一つずつ手渡していました。


「ありがとうございます」


 ティレイラ姉妹が一口目を咀嚼しているところで開始の合図が響き渡り、彼女たちは味わいながら、それでも大急ぎで食べ終えると、慌てて守備位置と、私たち攻撃陣の方へと走ってきました。




 今回はアーシャが守りに就くと言っていたので、私は男子寮の方へ向かってシェリルと一緒に飛び出しました。実際に飛んでいるわけではありませんけれど。

 1年生の時には守りを担当したからというわけではありませんけれど、任されたからにはできる限りの全力を持って校章の奪取、もしくは破壊へと向かいます。

 しばらく走っていると、隣にいるハーツィースさんが眉をひそめて首を傾げながら質問しようとしてきました。


「ルーナ。あなたは先ほどから走って男子寮の方へ向かっていますけど、どうして」


「わーっ。それ以上は言ってはいけません、ハーツィースさん」


 ハーツィースさんの言わんとしていることが分かった私は、慌てて彼女の口を塞ぎました。


「どうしたの、ルーナ」


「何でもありませんよ」


 鉄壁の笑みを張り付けてシェリルの追及を避けます。

 私はハーツィースさんに顔を近づけると、小声で忠告しました。


「ハーツィースさん。一応、転移の魔法はコーストリナ王族の極秘なのですから、あまり無暗に話さないでください」


「どうしてですか。使えるものは使った方が良いと言っていたではありませんか」


「そうですけれど。一応、これは学院の行事ですし、学院で習っていないどころか、一般に出回っていない魔法はあまり使わない方がよろしいかと」


 私は周囲を警戒しながら、小声で、端的に説明しました。ハーツィースさんは納得はいっていないようでしたけれど、理解はしてくださったようでした。



 そんな風に話しながら進んでいても、周囲の警戒を怠っているわけではありません。

 程なく、男子寮側と接触したのであろう声が近くから聞こえてきました。思わず、後ろを振り返り女子寮の方を確認すると、いまだ接触はないようで、音が聞こえたり光が見えるのは私たちの前方のみです。

 私がシェリルと顔を見合わせたところで、飛んできた木の枝を削って作られたと思われる数十本の矢が、私たちが張っていた障壁に弾かれて力なく地面に転がりました。


「やっぱりこのくらいでは獲らせてくれませんか」


 声の聞こえてきた方、木の上を見ると、男子生徒が一人飛び降りてきました。

 

「姿を見せるとは余裕ですね」


「まさか。ルーナ様やご友人を相手にそのような余裕はありませんよ」


 その方、シキ・セーヤさんは深々とお辞儀をされました。


「勝負故、突然攻撃した非礼をお許しください」


 最後まで言わせずに叩き込まれたハーツィースさんの魔法を、木の陰に隠れていらしたもう一人、リュウ・シィさんが跳ね返されます。


「反射障壁ですか」


「その通りですっ」


 私は後ろからさらに跳ね返ってきた魔力弾を同じ魔力弾で相殺してかき消します。


「しばらくはここで足止めさせて」


 そこまで言ったところで彼らは自身の身体の変化に気付いたようでした。

 彼らの足元はすでに気づかれないように盛り上げられた地面、正確には土で固められていました。


「これは」


「それでは私たちは先を急ぎますので」


「しまっ」


 最後まで言わせず、彼らの意識を刈り取ります。


「心配せずとも、ただ相手を眠らせるだけの魔法です。そのほかに外傷はありません」


 私との会話、そして足元の固められた地面に気をとられていた彼らは、シェリルの魔法に気付くのが遅れたようで、私たちは彼らをその場に置き去りにして真っ直ぐ男子寮がある方へと向かいました。

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