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成長してるよ

「つ、疲れたぁ」


 初めての現地実習から学院女子寮の部屋に戻ってきた私たちは、部屋へと入るなり、私は床にへたり込み、アーシャはベッドに倒れ込みました。


「アーシャ、お行儀が悪いですよ」


「ルーナだって」


 私は立ち上がって放っておいたら寝てしまいそうなアーシャの腕をとって立ち上がらせます。そして、浄化の魔法を使って私とアーシャ、それからベッドを綺麗にします。


「このままでは本当に動けなくなってしまいますよ。お風呂に行きましょう」


 荷物を出して、一応それらにも浄化の魔法をかけた私たちは、メルとシズクとも一緒にお風呂へと向かいました。




 私たちは自分たちでお風呂にお湯を張る予定だったのですけれど、部屋を出てお風呂へ向かう途中でトゥルエル様にお会いしました。


「お帰りなさい。どうだった?」

 

 変わらないトゥルエル様の暖かい笑顔に改めて現地実習から無事に戻ってこられたことを実感しました。


「はい。一年生のときよりも確実に成長していることが実感できました」


 ワイルドボアを倒したと思ったらその後ゴブリンに遭遇したこと、おびき出すことには成功したものの、シルヴァニアウルフに夜襲われたこと、それからもちろん、組合でソフィー様にお会いしたことも話しました。立ち話のつもりが、思いのほか長くなってしまい、


「お疲れさん。あっと、引き留めて悪かったね。これからお風呂へ向かうところだったんだろう」


 私たちが頷くと、トゥルエル様も浴場までいらっしゃってあっという間にお湯を張ってしまわれました。


「じゃあごゆっくり」


「ありがとうございます」


 シャワーを使うことはあっても、こんなに朝早くからお風呂まで張るということはあまりないでしょう。私たちのためにお風呂を沸かしてくださったトゥルエル様に頭を下げました。




 久しぶりに浸かるお風呂はそれは気持ちのいいものでした。

 全身から疲れが抜けていくような気持ち良さと、全身にお湯が染み渡る感覚に長いため息を漏らしました。

 脚の指の先から頭の先の隅々まで潤いをまさに取り戻しているように浸透してくるのがわかります。

 手足を伸ばして心ゆくまで堪能します。

 身体がふやふやにほどけていくようです。


「やっぱりお風呂に浸かるのは気持ちいいね」


 アーシャもとても満足そうな表情をしています。

 一旦、気持ちのいいお湯から出ると、結わえていた髪の毛をほどいて、全身をいい香りのする石鹸で念入りに洗います。


「ルーナ、背中流してあげようか?」


「いえ、大丈夫です。それにセレン様からそういうことをさせるのは1人だけにしておきなさいと言われていますから」


 アーシャからの提案はありがたいものではありましたけれど、手の動きといいますか、雰囲気といいますか、何となく身の危険を感じたので遠慮させていただきました。


「そっかー。そうだよね。初めてはルグリオ様にしていただきたいと思うよね」


 随分前にそれは済んでいるのですけれど、余計なことは言うまいと思い、ただ笑顔を浮かべました。

 身体を洗い終えて、またお湯につかり直して、至福にひたっていると、脱衣所の方から物音が聞こえてきました。

 制服を脱いでいるような衣擦れの音が止むと、扉を開けてメルとシズクが入ってきました。

 

「ルーナとアーシャだったんだ」


 メルとシズクは真っ直ぐに私とアーシャがいるところまで向かってきました。

 私たちと同じように至福の表情を浮かべて、長いため息をついたメルたちはお風呂を堪能しているようでした。

 私も一緒になって、お風呂の縁に頭をあずけて、天井を見上げます。そうすると、先日の戦闘、ワイルドボアやゴブリン、シルヴァニアウルフのことが頭に浮かびました。


「成長してるよね、私たち」


「ええ」


 メルのつぶやきにこたえると、メルは私の方へと身体を向けて、おもむろに私の胸を指で突っついてきました。


「ひゃんっ」


 思わず声が漏れました。


「なっ、なにをするんですか」


 私が抗議してもメルはころころと笑うだけでした。


「ルーナ、大丈夫。ちゃんと成長しているよ」


「えっそうなの。じゃあ、私も」


 反対側から伸びてきたアーシャの指は回避しました。


「何の話ですかっ。成長って、そういうことではないでしょう」


「別にいいじゃない。減るものではないんだし」


 頷く二人を尻目に、シズクへ顔を向けても、シズクは黙って、眠ってはいないでしょうけれど、目を瞑って我関せずといった態度をとっています。


「そうそう。逆に揉まれると大きくなるって話もあるくらいだし」


 アーシャは真面目そうな顔を作っていましたが、目が笑っていたので全く信用できませんでした。



 お風呂から出た私たちは、しばらく部屋で休んでから遅めの夕食へと向かいました。

 誰かがいるとは思っていなかったのですけれど、食堂にいた何人かの生徒は、私たちに気がつくと、自分たちの食器を下げた後、私たちの方へといらっしゃいました。


「お帰り。どうだった?」


「ただいま。大変だったし、すごく疲れたけど、とっても楽しかったよ」


 私たちは食事をしながら、初めての現地実習の感想を言い合ってとても有意義な夕食を過ごしました。





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