ソフィー・セキア
シルヴァニアウルフの群れを討伐した私たちは一度学院に戻ることにしました。食料など、物資の補給もしたかったですし、もうすぐ学内選抜戦も行われます。あまり長いこと学院を留守にするわけにもいきません。普通に考えれば私とアーシャは選抜戦に出ることになるでしょうから。
馬車で眠りながら夜を明かして、学院に帰る前には冒険者組合に立ち寄って、ワイルドボア、ゴブリン、それからシルヴァニアウルフの討伐報酬を受け取ります。
学生にとっては多少大変に感じる依頼でも、大人の仕事としての難易度は低いもので、貰える報酬も多いものではありません。しかし、討伐の証を提出して討伐料をいただいたときの私たちの嬉しさはそれは大きなものでした。どこからともなく、丸一匹出てきたワイルドボアやシルヴァニアウルフに、受付の方は驚きを隠しきれずちらちらとわたしたちの方を伺い見てきます。
「これが依頼の達成料になります」
ややあって渡された硬貨を、私たちはまじまじと見つめて掌に載せて見たり、明かりにかざしてみたりしました。
「ワイルドボアやシルヴァニアウルフは状態も良かったため、通常よりも少し良い値段で引き取らせていただきました」
「ありがとうございます」
私たちがそろって頭を下げると周りから拍手が沸き起こりました。
お父様と同じくらいとも思われる方から、ルグリオ様やセレン様とそう変わらないだろう年齢の方、掃除をされていたり料理を運ばれている方まで手を止めて祝ってくださいました。
「これは」
突然の事態に私たちがキョロキョロと辺りを見回していると、受付から薄いオレンジともピンクとも言い難い—―サラの髪の毛よりはピンク色が強い——中間の色合いのロングの髪の毛をストレートに流した、エメラルドの瞳で、ルグリオ様と同じくらい、セレン様よりも若干身長が高く思われる女性が出ていらっしゃいました。
「驚かせてしまったみたいね。これはいつものことなのだけれど、学院で3年生になって最初の冒険者の現地実習に行った生徒が帰ってくるとみんながこうして祝ってくれちゃうのよ」
いい加減もう慣れたけどとその女性は私たちの方から他の冒険者の方へと視線を向けられて、いい加減に静まってくださいねと微笑まれました。その一睨みで組合内は水を打ったように静まり返りました。
「あの」
私たちがどう言ったものか迷っていると、その女性はスカートを翻して再び私たちの方へと向き直られました。
「ああ、自己紹介がまだ済んでなかったわね」
もみあげの三つ編みをそっと耳にかけられて優雅に微笑まれました。
「ソフィー・セキアよ。よろしくね」
ソフィー様に案内されるがままに席に着いた私たちは、急ぐわけでもなかったですし、皆さんが奢りだとおっしゃられて料理を運んできてくださったので、少し早めの昼食をとることにしました。馬車での朝食はあまりたくさんとりませんでしたし、昨日の戦闘による空腹も手伝って、運んできてくださった料理は瞬く間になくなりました。その間にも討伐の感想などを聞かれたり周りは私たち以上に盛り上がっていらっしゃるようでとても賑やかな食事でした。
「あの、ソフィー様はもしかしてルグリオ様と同時期に女子寮の寮長を務めていらした」
「そう、そのソフィー先輩よ」
料理をお腹に入れ終わって、組合の雰囲気も一先ず落ち着いたところでアーシャがした質問にもソフィー様は陽気に答えてくださいました。私たちもメル、シズク、アーシャ、それから私と順番に挨拶をしました。ソフィー様は私が挨拶をしたところで一瞬だけぴくりと反応されましたけれど、ほんの一瞬のことで、すぐに営業スマイルとでも言うべき人懐こそうな笑顔を浮かべられました。
「この前、私たちが出発した時には」
「その日は私、休みだったのよ。知っていれば絶対にお見送りに行ったのに、残念だったわ」
他の子達は何人か見送れたけれどとソフィー様はころころと笑われながら答えられました。
「そうそう、そういえばユニコーンを最初に保護したのはルーナとアーシャだって話じゃない」
「ええ。冒険者の方に追われて学院まで逃げてこられたみたいでした」
他の冒険者の方々で、おそらくはユニコーンの皆さんを討伐したことがあるのだろう方はバツが悪そうに顔を伏せられました。別にそこまで気になさる必要はないと思うのですが、他人事だからでしょうか。
私たちが語るユニコーン、ハーツィースさんの話をソフィー様も周りにいらっしゃる冒険者の方々も大変興味深そうに聞いていらっしゃいました。
以前、セレン様がされた説明はかなり省略されていましたし、私たちが話していないので当然ではありましたけれど、現在進行形で学院に通っていらっしゃるハーツィースさんや、通うことになるかもしれないレーシーさんたちのことにも卒業生としてなのか、冒険者組合に勤める者としてなのか、それとも個人的になのかわかりませんが、とても面白そうに聞いていらっしゃいました。
こういっては失礼かもしれませんが、さすがセレン様がご自分の次期寮長に選ばれるだけの方だなと思いました。