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シルヴァニアウルフにリベンジ

 その夜、何か気配を感じて目が覚めました。

 複数の気配が私たちがいる馬車を取り囲んでいます。耳を澄ますと、にじり寄ってくるような足音と低く唸るような声が聞こえてきます。


「アーシャ、メル、シズク。起きてください。いらっしゃったようです」


「来たのっ」


 メルは跳ねるように起き上がり、すぐに態勢を整えていましたが、アーシャとシズクは眠たそうに目を擦っています。

 私は手に水を溜めると、アーシャとシズクの口元まで運び、ゆっくりとほんの少しずつ流し込みました。

 アーシャとシズクに恨むような目でじっと見られましたけれど、今はそれを気にしている場合ではありません。 


「目は覚めましたか?」


 私たちは御者の方を起こさないように静かに馬車から這い出します。

 辺りはほとんど闇に包まれていて、先を見渡すことはできません。わずかに届く星明りが相手の姿を微かに照らしています。


「出てきてくれたのは嬉しいけれど、こんな夜中じゃなくてもいいのにね」


 アーシャが眼前の敵を見据えながらため息とともに不満を漏らします。


「こちらの事情を考えてくれるわけではありませんから」


 彼ら、シルヴァニアウルフは夜目も利きます。昼間にこちらを襲ってこなければならないということはありません。

 私たちは馬車を囲うように現れたシルヴァニアウルフに対して、やはり馬車を囲うように4方向を向いて対峙しました。

 私たちの戦闘で生じる音や光で眠っている御者の方を起こしてしまわないように遮音と対物の障壁で馬車を覆います。

 私たちが馬車から降りて出てきたことで、シルヴァニアウルフはこちらへにじり寄ってくるのを止めたらしく、遠巻きにこちらを威嚇するような唸り声をあげています。今回の群れはきちんと統率がとられているようで、先走ってこちらへ突っ込んでくるようなことは見られません。


「何にしてもこっちから見えないのは不利だよね」


 アーシャが私たちの頭上に太陽のようなとまではいきませんけれど、ボール大の炎の球を作り出します。

 私たちの影がシルヴァニアウルフの足元まで細長く伸びていきます。

 そのまま待つことしばらく、私たちもシルヴァニアウルフたちも動き出そうという気配は見せません。彼らが動き出さないうちにと、私たちは戦闘の準備を整えます。するとようやく、こちらに完全に態勢を整えられてはまずいと思ったのでしょうか、彼らが一斉にこちらへ向かって走ってきました。

 彼らの行動は間違ってはいませんでした。あの時のように魔力や体力が少ないわけではないので、時が過ぎるほどにこちらの準備は整い、彼らが夜に奇襲をかけてきた意味は薄くなっていきます。数は向こうが圧倒的に多いので、体勢を整えさせる前に殲滅してしまおうと考えたのも自然なことだと思われます。

 しかし、私たちは焦ることもなく冷静でした。

 私たちが気がつくのがもっと遅ければ危なくなっていたのかもしれませんけれど、すでにこちらの準備は終わっていました。

 シルヴァニアウルフの突撃は、私たちが作り出している障壁によって跳ね返されはしませんけれど、一定距離以上には近づけなくなっています。跳ね返してしまった場合、逃げられてしまってはこちらのリベンジが果たせませんから。

 彼らはどうにかしてこちらへ近づこうとしていますが、やはり障壁を破ることはできずにいました。

 私とメルが作り出した障壁に彼らが手こずっている間に、アーシャとシズクがそれぞれ攻撃を開始しました。もちろん、この障壁は外部からの衝撃を跳ね返すものなので、内部からの攻撃は彼らに通ることになります。

 アーシャが作り出した炎の矢に貫かれたシルヴァニアウルフは、外傷が見られませんでしたのでおそらくは内部だけが燃えてその場で倒れました。あの時のイングリッド先輩のようでしたが、おそらくは意識してのことでしょう。


「時間をかけるつもりないから」


 アーシャは宣言通り、瞬く間に目の前にいるシルヴァニアウルフの半数を殲滅せしめました。アーシャの生み出した炎の矢は、大きさこそ腕くらいの長さの物ではありましたけれど、数えきれないほど膨大で、逃げ道などないかのようにシルヴァニアウルフの頭上から雨のように降り注ぎました。もちろん、周囲に被害など出すはずもなく、きっちりシルバニアウルフだけを倒したようです。

 一方、反対側でも問題なく戦闘は行われていたようです。

 私はアーシャの方を向いていたのでわかりませんでしたけれど、戦闘が終わりメルとシズクに加勢しようと振り向いたときには、最後に残っていた1頭がシズクの放った光によって焼き切られているところでした。


「少し失敗」


 草の焦げたような匂いが漂い、シズクはバツが悪そうに顔をしかめました。


「すごいよ、シズク。やったじゃない」


 そんなことを気にすることなく、メルがシズクの手を取って声を上げ、慌てて周りを、とくに馬車の方を向いて音声を落としました。


「ありがとう」


 シズクは少し照れているようで、はにかんだような笑顔を見せていました。

 

「では彼らを回収に行きましょう」


 しばらく待って追撃がないことを確認した私たちは、倒したシルヴァニアウルフの回収に向かいました。


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