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vsゴブリン

 ゴブリン。

 その多くは濁った緑、もしくはそれに類似した体色を持つ魔物です。その匂いもさることながら、彼らの行動原理とでもいうのでしょうか、彼らのその性質から特に女性の冒険者からは嫌悪されている魔物の一種です。

 個体としての強さには特に気をつけなければならない点はないのですが、彼らが襲ってくるときには大抵がこちらよりもかなり数が多いときなので、周囲を囲まれ、じりじりと迫ってくるその様子と、彼らの表情からは、たしかに女性ならば誰しもが嫌悪してしまうようなものが感じられました。


「ゴブリンは確か討伐しても素材としての価値はほとんどなかったよね」


 アーシャが尋ねてきたことは事実でしたので、肯定の返事を返します。

 食用になるわけでもなく、かといって丈夫な素材にもならないゴブリンは、討伐した証としての体の一部分さえ提示できれば討伐したこととみなされて報酬が貰えます。

 そんなことを話している間に、ゴブリンたちが私たちに向かって手に持った木の棒のようなものを振り回しながら襲い掛かってきました。

 生きていく中で、集団で行動したり、道具を使ったりといった知恵を持っているのにも関わらず、行動原理があまりにも単純で何も考えてはいないかのようなものなので、おかしいとは思いますがそういう種族なのだろうと納得させました。

 そしてゴブリンの突撃は私が展開していた障壁によって阻まれ、彼らは一定距離以上からこちらへ近づくことが出来なくなりました。ゴブリンたちは首を傾げるような動作をした後、おそらくは無駄な突撃を繰り返していますが、その程度でどうにかなるほど私が展開した障壁は脆くはありません。

 私の障壁がゴブリンを足止めしている間に、準備の終わったアーシャたちがゴブリンに向かってそれぞれ対峙します。


「これでっ」


 アーシャの作り出した雷がゴブリン数匹の体を貫通します。草木には一切焦げ跡などはついていません。

 続けて2回、3回と稲妻でゴブリンの体を貫いています。アーシャが直接向かっていかないのはゴブリンとの接触を避けるためでしょう。

 アーシャの稲妻に貫かれたゴブリンは絶命してその場に倒れ伏しました。

 一方、メルとシズクの方も問題はないようでした。

 メルの作り出した風の刃がゴブリンの首をまとめて刈り取り、シズクの作った炎の矢がゴブリンの体を貫通します。

 彼我の戦力差はよくわかったはずなのですが、ゴブリンたちはこちらに対する威嚇を辞めず、なおもこちらへ向かって拾った石ころなどを投擲してきます。おそらくは直接殴ったのでは効果がないとわかったのでしょうが、飛び道具でも同じことです。私の障壁を突破するには至りません。

 ほどなく、その場に現れたゴブリンたちは全て討伐されました。



「疲れた」


「うん」


 ゴブリンを討伐し終えて馬車へ戻ると、私は浄化の魔法をかけて、一緒に馬車の中に仰向けに倒れ込みました。

 私は魔力的にはまだまだ余裕はあったのですが、体力的、精神的には大分疲れていました。おそらくは、これが実戦だったということ、しかもお花摘みのときを入れてもまだ二回目ということもあり、かなり緊張していたためその疲れでしょう。

 すこし休憩をとって動くだけの力が戻ってきたところで、私は収納してあったお弁当とシートを取り出します。

 アーシャたちは特に驚いている様子ではありませんでしたけれど、私がどこから取り出したのか不思議に思われたのでしょう御者の方は驚かれていらっしゃいました。しかし、礼儀正しく何も聞かれることはありませんでした。


「ああ、おいしい」


 お弁当の卵焼きを口に入れながら、メルが感慨深そうに感想を漏らしました。


「いつものお弁当よりもおいしく感じられるよ」


 私たちは頷いて、メルの意見に賛成の意を示しました。


「きっと、ワイルドボアを、それからおまけでゴブリンも倒したから」


 シズクが何か言いたそうな瞳で私を見つめていたので、私はお箸をおくと、収納してあったワイルドボアを取り出しました。その光景を見ていた御者の方は、再度驚かれたように目を丸く見開かれました。


「お日様の下で食べるお弁当ってこともあるけれど、やっぱり1年生の時のリベンジを早めに果たせたことが大きいんじゃないかな」


 私たちはいっそのこと討伐したワイルドボアも調理して、とはいっても斬って焼くだけですけれど、食べてしまおうかと思いましたが、このまま持っていった方が報酬の額が多くなるためぐっと堪えるともう一度収納しました。


「さて、休憩が済んだらもうひと頑張りしましょう」


 私たちは顔を見合わせて頷きあいました。



 お昼の後も私たちは特に苦戦することなく襲ってきた魔物を退けると、辺りもだんだん暗くなり始めていました。


「今日のところはこれくらいにしておきましょうか」


「そうね」


「賛成」


「異議なし」


 もちろん旅の途中ですから、シャワーなどといった気の利いたものはありません。

 私は収納してあった布を取り出すと、メルたちと協力してカーテンのように空中に留まらせ簡易的な敷居を作りました。辺りにひとの気配がないとは言ってもやはり気になるものです。


「あの、もしよろしければいかがですか?」


 御者を務めてくださった方に先に水浴びを提案しました。

 学院、もしくは組合が用意してくださった馬車の御者さんはこういった事態に困らないように同性のかたである場合がほとんどです。

 女性ならば、いくら浄化の魔法があるとはいっても、やはり一日に一度は身を清めたいと思うはずです。 


「え、ですがよろしいのですか?」


「もちろんです。とてもお世話になっていますから」


 私は御者を務めていただけですからと言い張り遠慮しているようなお姉さんを、半ば強引な形で簡易カーテンの向こうへと送り出します。

 

「準備はよろしいですか?」


 メルが彼女の衣服を預かって丁寧に魔法で汚れを落としたりしています。その間にシズクに布を固定して貰って、彼女の了承を得ると、私とアーシャで暖かい水をシャワーのように中へと降り注がせます。


「よろしければこちらもお使いください」


 私は収納してあったシャンプーなども取り出します。


「あの、これはどこから……」


 布の向こうで不思議そうにしながらも受け取ってくださったお姉さんの声が聞こえます。


「細かいことは気になさらないでください。品質は保証いたします」


 身体を洗い終えたお姉さんに厚いお礼をされ、今度は代わりに私たちが体を流すのを手伝ってくださったりと、わずかな時間で大分打ち解けることが出来ました。


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