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リベンジ

 3年生になって最も多くの生徒の興味、関心を誘っている科目といえば、やはり現地実習でしょう。

 今までは学院内のみ、それに実習があったとはいえ気心の知れた同じクラスの生徒、よく知る場所でのいわば身内内での体験しかなかったのですが、学院を飛び出し、生徒という垣根を越えて大人の中に交ざり行動するというのは、私たちくらいの年代にはとても惹かれるものがあります。

 実習先を選ぶ際、私は迷うことなく冒険者を選びました。これは私が特別なのではなく、クラスのほとんどの方は同じ職種を希望されているようでした。

 危険も多いことですし、まさか一人で行くというわけにもいきませんから、幸い同じ希望だったアーシャに声をかけました。


「アーシャ」


「わかってるよ、ルーナ」


 私とアーシャがペアを組むと、教室中から一斉に私たちの座る席を目指して人が押し寄せてきました。この年頃の男子生徒は異性に対して遠慮するのではと思っていましたが、そのようなことは全くありませんでした。


「是非私と組んでいただけませんか」


「いえ、是非私と」


「ちょっと男子は引っ込んでいなさいよ」


「まさかルーナと一緒に寝泊まりするのが目的じゃないでしょうね」


「もちろん、そんなわけないだろ」


「そうだそうだ。別に近くで寝顔を鑑賞したいとか、同じ馬車で寝泊まりしたいとか、そんな邪な感情は持っていない」


 男子生徒に女子生徒の氷のような視線が突き刺さります。

 結局、その日は決まらず、リリス先生は持ち帰って決めてくるようにとおっしゃられました。それを聞いて、男子生徒があからさまに落ち込んだのは言うまでもありません。





「それでこうなったわけですか」


 休み明けにリリス先生のところに決まった班員の名前を提出に行きました。


「まあ前例がないわけでもありませんから」


 私とアーシャ、メルとシズクで組んだ班は、違うクラスの生徒と一緒だったというのにも関わらずあっさりと承認されました。

 ちなみにハーツィースさんはもちろん冒険者など選ばずに、人間の暮らしを見て見識を深めるのだとおっしゃられていました。



「えっ。なんで寮の裏の森になんて行くの?」


 同じように冒険者を志した同級生からは、会う人みんなに同じ質問をされました。せっかくなのだから、もっと別の場所へいかないのかと。


「もちろん、リベンジです」


 その度に私たちは口を揃えてそのように告げました。他の場所でも遭遇することは出来るのでしょうが、やはりそこから始めたいという気持ちが強く、あの日のリベンジを果たすという目標を忘れるはずはなかったからです。





 申請の通った生徒は馬車の登録に向かいます。

 冒険者に限らずとも、現地実習では日にちをまたぐことも珍しくないため、学院側から馬車を借りることもできます。その場合の欠席は公欠扱いとなり、授業の補填も行われます。

 通常の授業が行われる日に行っても良かったのですが、私たちは休みを待って、私は以前も行ったことのある冒険者の組合へと足を向けました。


「またこの時期が来たのですね」


 私たちが冒険者への登録申請をすると、以前もお見かけした受付嬢の方が対応してくださいました。私のことは覚えていてくださったようで登録はすんなりと済ませることができました。他にも何組か同じように登録をしている様子の学院の制服を着た生徒の姿が見られました。

 私たち4人は全員登録を済ませると、常時依頼として出されている薬草の採集及び魔物、魔獣の討伐の依頼を受けます。採集、討伐した薬草や魔獣、魔物は組合が適正価格で買い取ってくださったり、買取にはならずとも討伐料が支払われ、それが冒険者と呼ばれる職に就く人たちの主な収入源となっています。


「確認しておきたいのですが、偶然遭遇してしまった魔物や獣に関しては討伐できるのなら討伐してしまっても大丈夫なのですよね?」


「ええ、もちろんです。薬草の採集もそうですが、それらは常時依頼として出されているので問題ありません」


 他の依頼には荷物運びや護衛などといった他の街への遠征ができる依頼もあり、とても興味の惹かれるものではありましたが、初めての実習ということもあり、私たちは決めていた通りに薬草採集の依頼を受けると、組合にいらした他の冒険者の方や受付の方に微笑まし気に見送られながら出発しました。




 学院の近く、例の裏山、林に行くという案もありましたが、せっかく学院の外に出たのだからという意見に落ち着き、私たちはこの街の冒険者の方々がよくいらっしゃるという組合からほど近い森の中を進んでいきました。

 途中で薬草を採集しながらお昼時になり、私は一旦馬車に戻ろうと思って採集するために止まっていた場所から立ち上がりました。すると微かですが、森の奥の方から何かがこちらへ向かってくる気配を感じました。


「ルーナ、メル、シズク、何か来たみたい」


 私が収集物を収納し終えて立ち上がるのと、アーシャが警告を発するのは丁度同じでした。

 気配の感じた方からは、何者かの足音が聞こえます。ほどなくそれは私たちの前に姿を現しました。


「最初から会えるなんて運がいいみたいだね」


「リベンジ」


 姿を見せたそれ、ワイルドボアに対して、アーシャは交戦の意思を隠そうともしていませんでしたし、シズクも珍しくやる気がみなぎっているようです。


「ルーナ。ようやくだね」


「ええ。ようやくです」


 メルも興奮を抑えきれない様子でした。

 私は目の前のワイルドボアに集中しつつも、周囲への警戒も忘れずに気を配ります。


「あの時は大分苦戦させられましたけれど、今回は以前のようにはいきません」


 同じように鼻息を立てながら突っ込んでくるワイルドボアを余裕をもって回避します。

 当然ではありますが、討伐対象の傷み具合は少ない方が価値もあがります。死んでしまっては治癒魔法は意味をなさないので、できるだけ少ない損傷で制圧する必要があります。

 以前はそんなことを考える余裕もありませんでしたから、そのように思考できるようになった自分に成長を感じます。


「何笑ってるの、ルーナ」


「メルも私を伺うだけの余裕があるのですね」


 不謹慎かもしれないと思いつつも小さく微笑みを漏らすと、ワイルドボアが方向転換しないうちにアーシャとシズクに声をかけます。


「私とメルであれの足を止めますから、その隙に」


「わかった」


「了解」


 二人の返事を聞いて、私とメルはワイルドボアの足をめがけて、氷柱というには大きい氷の槍と、周囲の草木に被害を出さないように調節した炎の矢を放ちました。

 動いている標的の体全体を貫くにはまだ力が足りませんでしたが、脚の一本ずつならば打ち抜くことができたようで、続けて射出した同じ槍を含めて4本の脚を貫き、完全にワイルドボアの機動性を失わせます。

 脚を失い、地面に突っ伏したワイルドボアの頭に正面からとどめの一撃をアーシャとシズクが叩き込みました。二本の稲妻に貫かれたワイルドボアはそれで動かなくなりました。傷がついたのは脚と頭だけで、体の方はほとんど無傷で済ませることが出来ました。


「以前ならここで体力がなくなっていたので、次の相手は出来ませんでしたが」


 私たちは勝利の余韻に浸ることなく、おこぼれを狙っていたであろう周囲に伏せている魔物にも注意を配ります。

 私たちがまだ戦える様子だったので諦めたのか、数十匹のゴブリンが姿を見せました。


「他にはいないようですね」


「これが終わったらお昼ってことね」


 アーシャも嬉しそうに声を弾ませています。


「たしかゴブリンは食べられないよね」


 メルは残念そうにつぶやきを漏らします。シズクは無言のまま頷いて、眼前の標的を見据えていました。


「もうひと頑張りです」


 私は気合を入れなおすと、ゴブリンと対峙しました。


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