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収穫祭のデート

「本当によかったのでしょうか?」


「大丈夫だと思うよ。ハーツィースさんたちの案内は姉様が引き受けてくれたし、学院の、寮の方でも笑顔で送り出してくれたんだから」


 その代わりに販売も頼まれたけどねとルグリオ様は笑いながらおっしゃられました。



 アーシャと模擬戦をした翌日、私はルグリオ様と二人で学院を出てアースヘルムの街中、収穫祭を歩いていました。

 朝早くからルグリオ様とセレン様が学院にいらして、ハーツィースさんに人間の街の収穫祭を案内されるのと同時に、私たちも一緒に連れて行って下さるとおっしゃられたのですが、メルやアーシャ、それに寮の皆さんにはそんな野暮なことはできないと遠慮されてしまい、セレン様もハーツィースさんを連れて他のユニコーンの方とも一緒に収穫祭を回るからとすぐに転移されてしまったので、残されたといいますか、意図して二人きりにされた私とルグリオ様はお礼を告げて二人きりで出発しました。

 中央広場から少し外れたおそらく人目につかないだろうと思われた場所に転移した私たちは、人目につかなかったことにひとまず安堵のため息を漏らすと、手を繋いで通りに出ました。


「ルーナはどこか見たいところとか、何かやりたいことはあるかな?」


「いいえ。私はこのまま一緒にいられたらそれだけでも十分です」


 私はこうしてルグリオ様に寄り添えて、二人で一緒に歩いているだけでとても幸せな気分でしたし、久しぶりに二人きりになることができてこの上なく嬉しかったので、ルグリオ様はお困りになるだろうと分かっていてもそう答える以外には思いつきませんでした。


「そう。それじゃあもう少し歩いてみようか。足は大丈夫かな」


 そんな私をルグリオ様は気遣ってくださって。私の歩幅に合わせてゆっくりと裏通りから中央広場へ、お祭りではしゃぎまわっている子どもたちや、その子どもたちを笑顔で見つめながら談笑している奥様方、自分のお店の呼び込みに枯れるほどの大きな声で叫んでいる店主さんたちに挨拶をして、私とつないでいる反対側の手を振られたりしていらっしゃいました。


「ルーナ様、もうコーストリナには馴染まれましたか?」


「私の娘も来春からエクストリア学院に通うのです。何卒よろしくお願いいたします」


 私も大分、もしかしたらアースヘルムよりも顔を知って貰えているようで、行き交う人たちに挨拶をされたり、時折、私よりも小さい、メアリスやルノ、ニコルと同じくらいの子どもたちにも指をさされたり、スカートの裾を摘まれたりして、その子たちのお母様方に謝罪されるたびに、そんなことはないですと子供たちの頭を撫でたりしました。


「ルーナもすっかり人気者だね」


「からかわないでください、ルグリオ様」


「ごめんね。だけど、子供たちを相手にしているときのルーナはお姉さんという感じでとても素敵だったよ。もちろん、いつでも素敵だけどね」


 ルグリオ様に頬にキスをされて、私はぼーっとなってしばらくルグリオ様のお顔を眺めていたのですけれど、恥ずかしくなって顔を逸らしてしまいました。ルグリオ様はそれがたまらなく愛おしいというように微笑まれて、また私の手を取ってくださいました。


「まだまだ楽しいことはたくさんあるよ。時間も気にはなるけれど、戻るときは一瞬だから気にしないで大丈夫だよ」


「はい」




 それから私たちは輪投げをしたり、大道芸を見物したり、恋人夫婦ならば出られるというクイズ大会に参加してみたりと、楽しかったり、嬉しかったり、ときには少し恥ずかしかったりしながら収穫祭を満喫しました。


 十分に収穫祭を見て回って楽しんだ私たちは、セレン様とハーツィースさんと合流すると一緒に学院近くまで転移して戻りました。


「収穫祭はどうでしたか?」


 ハーツィースさんの周りのおそらくセレン様とご一緒に獲られたのであろう数々の景品や、ハーツィースさんが手に持たれている料理を目にすれば一目瞭然だったのですけれど、彼女の口から直接感想を聞きたくて尋ねてみました。


「私たちにはこのように騒々しく祭りを行うという文化はないのですが、参加してみると案外興味深いものですね」


 元々自然の中で過ごされてきたユニコーンのハーツィースさんたちにとっては、わざわざ敵に居場所を知られるような、気分の浮かれてしまうような催しなど文化として存在するはずもなく、初めての参加だったためにもしかしたらこのように騒がしすぎるのは苦手かとも思っていましたが、杞憂に終わったようで安心しました。





「ルーナはどうだった?」


 寮に残っていたメルやアーシャたちは私の感想が気になるようで、寮に戻って扉を潜ると、待ちきれなかったとでもいうような勢いで周りを囲まれて問い詰められました。

 私も寮の様子を聞いたりしたのですが、アーシャたちの質問の方が圧倒的に多く、ホールで座らされると矢継ぎ早に質問を浴びせかけられました。


「あんたたちは今日はどうするんだい? 別に部屋は余っているから泊まっていっても問題はないけど」


 私たちがお風呂に入ろうと切り上げ始めたあたりで、トゥルエル様がルグリオ様とセレン様に問いかけられました。外も暗くなり始めていましたし、心配されたのでしょう。


「いえ、今日のところは姉様を連れてお城へ戻ります」


「遠慮はしなくてもいいんだけどねえ」


「父様から、それに母様から姉様を連れて帰ってくるように厳命されているので」


「夏に帰ったばかりじゃない。しかも、それからしばらくお城にいたのだし、昨日だって」


「それではこれで失礼します」


「ルグリオ様、またいらしてくださいね」


「セレン様、いつでもお待ちしております」


 ルグリオ様と台詞を遮られたセレン様は寮生の皆さんに別れを惜しまれながらお城へ戻られました。アルメリア様におっしゃられたのならセレン様がお顔を見せられずにどこかへ行かれてしまうこともないでしょう。



 


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