期待されているということ
対抗戦の本戦、他校との試合となりますと、学内のこととは勝手が異なり、一日で全ての対戦が終了するということはありません。予備日を含めて数日間の予定で組まれている対戦を、基本的には自校の近く、もしくは相手の学校の近くのフィールドで行うことになっています。
私たちエクストリア学院の生徒も、多くの方は自校のフィールドのすぐ外に陣取って、選手の生徒が姿を現すのを待ちわびています。
他のフィールドでの対戦の様子も、私たちの前に投影されているので観戦すること自体には特に支障はなかったのですけれど、やはり直接観戦するというのは興奮の度合いも異なるようです。
「前回はチアリーディングをしていたので、そこまで集中して観ることは出来なかったのですけれど、今回はちゃんと観られそうです」
「それは皆そうかも」
メルの横ではシズクがうんうんと首を縦に振っています。生憎、選手の皆さんの入場と重なって歓声にかき消されてしまい私には聞き取れなかったのですけれど、シズクは違うようでした。
両校の校章の位置も、私たち観戦者からは見えるようになっていますが、当然のことながらそのことを選手たちに伝えるようなマナーのない真似をする生徒はいらっしゃいません。もっとも、競技中の選手たちはかなり集中しているので、歓声を聞き分けるのはかなりむずかしいことだとは思いますが。
選手に選ばれるだけの生徒なのですから、魔法に関する実力が高いのは当然のこととしても、攻撃陣の方は特にそうですけれど、守りに入られている方も、索敵に飛び回られていたり、接近してきた相手側の攻撃の方と常に相対されていたりと、高い集中とかなりの体力を消耗されているはずです。
両校の選手の方、どちらもかなり実力が高く、見ている私たちとしても勉強させられる部分が多くありました。
特に私たちの学院の先輩方に関しては、守備につかれていらっしゃるロゼッタ先輩をはじめ、強力な障壁、結界を長時間維持されていたり、もちろん、魔法だけではなく接近された場合の魔法が織り交ぜられた格闘戦にもきちんと対応されていらっしゃいます。私も、身体がしっかりとできてくるまでは危ないからと武術に関してはお城でも教えていただいていなかったのですが、春にお城に戻ったときにはお願いしてみようと決めました。
ルグリオ様のお邪魔になるようならばするつもりはありませんけれど、ルグリオ様とは違う時に教えていただくこともできると思いますし、自分の身を守るという意味でも必要なことになると思います。
「守られているだけではいけませんものね」
「ルーナ、何か言った」
隣のメルが不思議そうに私の方を見てきました。
「なんでもありませんよ」
今話し始めると、アーシャや先輩方の活躍を見逃してしまうかもしれません。
私は心の片隅にとどめて、対戦の様子を心に焼き付けて、自身の成長の糧とできるように、そしてアーシャたちにも私たちの応援が届くようにと精一杯応援に励みました。
「先輩方はすごいんですね」
エクストリア学院は総合的に見れば他の学校、学院と比べて最高の教育機関だとは思いますが、たとえばこういった競技や戦闘に関することに力を入れているイエザリア学園などには負けてもおかしくないはずだと思うのですが。
「意地ってこともあるのかもしれないけれど」
「特にイングリッド先輩たち現在の5年生はセレン様の試合を直に見ている最後の世代だからね。そのことを少しでも後輩に伝えようとしているんじゃないの」
「ルグリオ様は当然ですけど男性の方ですから」
「セレン様もルグリオ様も同世代では圧倒的だったのでしょうからね」
「そういう意味では私たちもルーナの実技を見ることができて、じつについているのかもしれないわね」
「やっぱり、アーシャやハーツィースさんの言っていた通りですか」
「何を聞いているの」
思ったことがつい口から洩れてしまったらしく、視線が集まるのを感じました。
私が聞いていたことを説明すると、そのことに関しては皆さん同じ意見だったようで、当然ですと言わんばかりの顔をされているハーツィースさんを除いて、同じような表情をされました。
「だから、3年生からも期待しているからね」
「私たちも一緒に出られるように頑張るから」
「ルーナも出ないなんて言わないよね」
若干の不安と、それ以上の希望に満ちた目を向けられて、私ははっきりと頷きました。
「ええ。そのときには私も出られるのならば、全力で挑みます」
決意を新たに、アーシャたちの試合を観戦して、力いっぱい応援しました。
「でもそうすると、やっぱりルーナのチアリーディングの衣装は見られないってことになるわね」
「それはおしい」
「だったら、やっぱり収穫祭のときにルーナを着せ替え人形に、じゃなかったファッションショーを」
「そうね。客入りも増えそうだし」
「そんなことやりませんよっ」