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ルーナの思うようにすればいいんじゃないかな

 夏季休暇を明けて活気を取り戻したエクストリア学院、とりわけ女子寮では、久しぶりの対抗戦出場ということも相まって、出場する方はもちろんのこと、応援に回られる方も大いに盛り上がっています。

 イングリッド寮長を含めた5年生は言うに及ばず、キャシー先輩やマリスターナ先輩をはじめとした4年生の先輩方も、初めての対抗戦に興奮や期待が高まっているようです。

 それはもちろん私たち2年生も同様で、実際に出場するのはアーシャ一人だけなのですが、並行して進められている収穫祭の準備や授業の合間の休憩、夕食、課題を終えた後にも、その話題で持ちきりです。


「あ、ルーナ、それにアーシャも。こっちにきて一緒にお話ししない?」


「キャシー先輩」


 私たちが夕食に降りていくと、先に席に着かれていたキャシー先輩とマリスターナ先輩に呼ばれたので、アーシャと、他の先輩方とも一緒に座りました。


「先輩方は初めての参加なのですよね」


 夕食の、パンを浮かべたタマネギのスープをスプーンですくいながら、過去の選抜戦の話を尋ねてみました。

 セレン様が卒業されてからは、今回イングリッド寮長が勝利されるまで女子寮側は勝利がなかったと聞いています。


「そうなの。私たちが入学したのは丁度セレン様と入れ替わりだったから」


「今までは見るだけだったけど、今回はついに自分たちの手で勝ち取ったからね」


 先輩方は拳を固められると、嬉しそうにお互いの拳をぶつけられていらっしゃいました。


「当日は頑張ろうね、アーシャ」


「はい。全力を尽くします」


 アーシャは緊張した、それでもはっきりとした声で、しっかりと宣言していました。


「ルーナ」


 キャシー先輩はアーシャにエールを送られてから、私の方へと笑顔を向けられました。


「ルーナにも思うところはあるのかもしれないけれど、今度は一緒に出られたらいいわね」


「キャシー先輩」


 隣を見ると、アーシャもマリスターナ先輩も同じような笑顔を浮かべていらっしゃいます。


「はい。今度は是非」


 私はアーシャに負けじと力強く答えました。






「なんかルーナの気持ちが少しはわかった気がするよ」


 一日の終わりに、大分疲れた様子でアーシャがベッドに倒れ込みます。


「毎日お疲れ様です」


 選手として出場される皆さんは、連日、授業が終わってからも訓練をされていらっしゃるので、上級生は割と平気そうなのですが、アーシャは大分疲れているようでした。

 アーシャの場合はそれだけではなくて、教室でも、お風呂でも同じようなことを言われているのでしょう。私たち2年生にとっても、初めて同級生が出場するのですから。入学前にご覧になっていた方もいらっしゃるのかもしれませんが、前回の私はふがいなく終わってしまいましたし、もちろん、自分たちも次こそはという思いもあるのでしょうが、同級生が出場するというのはやはり別物なのでしょう。

 私はレモンとはちみつを混ぜたミルクを差し出します。


「ありがとう、ルーナ。ルーナはきっといいお嫁さんになるね」


「褒めても他には何も出ませんよ」


「それは残念」


 私たちは顔を見合わせて笑みを漏らすと、アーシャはカップに口を付けました。


「うん、おいしい」


 カップを片づけてから、私がベッドに向かってシーツを正していると、後ろからアーシャに抱き着かれました。


「きゃっ。アーシャ、びっくりさせないでください。どうかしたのですか」


「ううん。ただ、ルーナは私に出番を譲ってくれた時、自分はもう出ないみたいなことを言っていたでしょう」


 そうですね。ハーツィースさんに言われなければ、おそらく今でもその意思がぐらつくことはなかったでしょう。


「私の意見は変わりませんよ。やはり学院なのですから、できるだけ多くの方に機会があるべきだとは思っています」


「でも、さっきキャシー先輩に誘われたときには、今度は是非って答えてたよね?」


「ええ。ハーツィースさんに言われるまではそう考えてはいなかったのですけれど。このように言うと鼻にかけている感じがして好きではないのですが、私は2年生の中で今のところ最高の成績を修めさせていただいています」


「いや、全然鼻につく感じはしてないよ。べつにルーナは謙遜しているわけでもないし」


 アーシャはそう言ってくれましたが、やっぱり私は傲慢だったように聞こえていたのではないかと反省しています。


「ですから、皆の模範となるべく、やはり代表として出るべきだったのではないかと」


 私がそこまで話すと、アーシャは私の正面に腰を下ろして、私の両肩に手を置きました。


「前にも言われてたかもしれないけど、そんなに難しく考えることじゃないと思うよ。ルーナが出たいと思ったなら出たいと意思表示すればいいことだし、そうは思わないんだったら、やっぱりそれを伝えればいい。他の人のことを気にするんじゃなくて、ルーナの思うようにすればいいんじゃないかな」


 なんか偉そうだったかも、とアーシャは頬を人差し指でかいています。


「いえ、その通りなんです。ありがとうございます、アーシャ」


「私は何も言ってないよ。ルーナが自分でそう考えたんでしょ」


「いえ、何となく、ニュアンスといいますか」


「細かいことは気にしないの」


 私たちはもう一度小さく笑い合うと、ベッドに入りました。




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