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会いに行きますから

「女性を、ましてや彼女のようにまだ幼い子供を襲うというのは感心しませんね」


「何言ってやがる。あいつらはユニコーンだぞ」


 冒険者と思しき男性たちはハーツィースさんとユニコーンの少女を指差しながら、今にもこちらへ飛び掛かってきそうな勢いでまくし立てていらっしゃいます。


「お前たちだって知らないわけじゃないんだろ。ユニコーンはその素材としての価値だけじゃなく、容姿がいいほど高い値がつくんだよ。世の中には物好きがたくさんいるからな」


「そこにいくと、あいつらは上級の獲物じゃねえか。かなりの儲けになるだろうな」


 彼らはげらげらと大声で笑っていたのですが、やがて怒ったようにこちらを睨みつけてきました。


「だから、そこの女をこっちによこしな」


「そうしたら穏便に済ませてやるからよ」


 ルグリオ様は、獲物を追い詰めるかのように迫ってくる彼らの視線を遮るように私たちの前に立たれました。


「おまえ、俺達の邪魔をしようってんだな」


 彼らは腰のものこそまだ抜かれてはいらっしゃいませんが、こちらと交戦する意思を隠そうとはしていません。


「もう一度だけ勧告はしておきます。現在、冒険者の組合からは彼女との契約に基づき、ユニコーンに関する書状が出回っています」


 ルグリオ様は先日署名された書状を取り出されると、彼らに見せるように掲げられました。


「この事実を知りながらまだこちらと交戦されるというのでしたら、僕たちとしても、あなた方を組合へと引き渡すことになります」


「ごちゃごちゃうるせえな。それなら、お前らをとっちめて知らぬ存ぜぬで通せばいいってことになるな」


 言うが早いか、彼らは腰に下げていた剣と、背負っていた弓矢を引き抜くと、剣を構えながらこちらへ突っ込んできます。おそらく、女性と子供、それに自分たちより大分年下に見える少年が相手だったのでそれでどうにかなると踏んでいたのでしょう。

 彼らの突撃は私たちまで届くことなく、ルグリオ様がお作りになられた障壁に阻まれて、彼らは跳ね返り尻もちをつかれました。

 驚いている彼らに対して、冷静な口調でルグリオ様は尋ねられました。


「お聞きしたいのですが、彼女たちユニコーンを狙っているのはあなた方だけでしょうか。それとも、組織だってのことですか」


 しかし、言葉は届いていないようで、彼らはしきりに障壁を壊そうと、魔法を使われたり、武器を振り回されたりしていらっしゃいました。


「なんだ。こんなに強力な障壁を張れるとは。教師か、それとも役人か」


「いや、違うぞ。よく見ると、こいつら。いや、まさか」


 彼らは私たちとルグリオ様の間で視線を行ったり来たりさせていましたが、やがて、恐る恐るといったように口を開かれました。


「もしかすると、コーストリナ第一王子と第一王女、それにアースヘルムの第二王女じゃ」


「いかにも。自己紹介が遅れましたが、僕はルグリオ・レジュール。こちらの女性は姉のセレン・レジュールと、婚約者のルーナ・リヴァーニャ姫、それにユニコーンのハーツィースさんです」


 ルグリオ様が名乗られたので、彼らは顔を見合わせられると武器を投げ捨てられました。


「それで、今一度あなた方に尋ねたいのですが、ユニコーンを狙って狩りをいまだに続けられている方はどれ程の数がいらっしゃるのでしょうか。もちろん、今出かけられていないで、国、もしくは組合にいらっしゃる方は知っていると思うので、あなた方が把握している方だけで結構ですが」



 ルグリオ様が名乗られると、彼らは態度をそれは驚くほど、まさに人が変わったとでもいうように変化されました。

 彼らの態度の変わりようにはいささか驚かされましたが、ルグリオ様、セレン様のことをご存じならば当然とも思われました。

 ルグリオ様も目的を優先されたのか、こちらへの害意がなければそれ以上厳しく追及されるおつもりはないようで、すぐに彼らからの事情聴取に入られました。

 彼らの話では、彼らの間ではそういった情報のやり取りはされていないらしく、あったとしてもそれは組合の把握している数と変わらないだろうとのことでした。

 彼らも情報の流布に協力してくださるとのことで、話が終わると飛ぶように私たちが来た方へと走り去っていかれました。

 

「予想はしていたけれど、ユニコーンの生活区を全て回ろうと思ったら全然人手が足りないね」


 私たちはたまたま現場に遭遇することが出来ましたし、偶々彼らの心根が完全には悪に染まり切っていなかったようで割と楽に説得することは出来ましたが、彼らのような冒険者の方々を全て説得して回るには時間も人手も全然足りません。

 いくら転移の魔法が使えるからといっても限度があります。


「まあ、大丈夫でしょう」


 私たちは上手くはいっていないと感じていたのですが、セレン様はそうではないご様子でした。


「私たちはコーストリナの組合にしかいってはいないけれど、お父様やお母様、それに騎士や大臣の方たちも、今頃お城で、或いはお城を出て各国、各組合へ向けて出発されているはずよね。それに合わせて、現在でも討伐に出ている冒険者へ勧告して回るというのも行われているはずよ。まあ、実際に聞いてみればわかるとは思うけどね」


 先程保護したユニコーンの少女、レーシーさんを連れて私たちは、今度は途中の行程は飛ばすことができたので、お城へと戻りました。





 コーストリナのお城で私たち、ルグリオ様が報告を終えられると、ヴァスティン様も頷かれて、私たちがいない間の進捗を聞かせてくださいました。


「すでに周辺各国への通達と、書状の受け渡しは済んでいる。浸透するにはまだ時間もかかるだろうが、おそらく問題はないだろう」


 玉座に座られたヴァスティン様の言に、ハーツィースさんは未だ完全にとは言い切れないようでしたが、とりあえずは安心してくださったようです。


「それでハーツィース殿、そなたはどうなさるつもりだ。もし不安があるというのなら、そなたの同胞が見つかるまでの間でも、もちろんそれ以降も、レーシー殿と一緒にここに滞在して貰っても全く構わないのだが」


 やはり素っ裸という訳にはいかず、お城へ戻る前にセレン様が収納されていた、彼女には少し大きめの服を着られたレーシーさんとハーツィースさんは顔を居合わせられると、首を横に振られました。


「ありがたい申し出ではありますし、恩も感じてはいます。ですが、やはり私たちは私たちの元いた地で同胞の帰還を待ちたいと思います。もし、帰ってきた場合に誰もいなければ不安も大きくなるでしょうから」


 ヴァスティン様が頷かれたので、私たちは玉座の前を失礼すると孤児院へと向かいました。





「それでは世話になりましたね」


 ハーツィースさんのことを知っているメルやカイ、レシルに加えて、サラやほかの子供たちも加えて大人数でのお城での送り出しを終えて、ルグリオ様、セレン様、それから私は、彼女たちと出会った学院へと見送りに来ました。


「ルーナ。アーシャやトゥルエルにも感謝は告げておいてください。とはいえ、私たちも取引をしたのですからそう間をおかずにこちらへ足を運ぶとは思いますが」


「ええ、伝えておきます。あなたもお元気で」


 私たちは彼女たちの後ろ姿が見えなくなるまでその場で立って手を振って見送りました。


「少し寂しいかい?」


「そうですね。ですが、きっとまた会えますから」


 ルグリオ様の暖かな手が私の髪を優しく撫でてくださいます。


「彼女たちとも夏季休暇の思い出を作れたら良かったのですけれど」


「大丈夫よ。その分も私たちで楽しめばいいのだから」


 セレン様は私に顔を向けられて微笑まれます。


「姉様はしばらくお城にいるってこと?」


「まだ行ってみたいところもあるけれど」


 よければ一緒に行く? とセレン様は私たちに問いかけられました。


「そうだね。都合が良ければ、皆とも一緒に行こうか」


「そうですね」


 夏季休暇はまだまだありますし、きっと楽しいこともたくさんあるはずです。

 私は差し出されたルグリオ様の手を取ると微笑みを返しました。


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