ユニコーンの生活区までの行程
汗を流した私は、今日はハーツィースさんがいらしたところ、おそらくは山、森の中へと入るだろうということが予測されたため、動きやすいようにふんわりとはしていない膝丈ほどのスカートに、暑くはないように、けれど肌がむき出しにならないように薄手の長袖に着替えて、上からやはり薄手のコートを羽織りました。
セレン様が起きていらして程なくハーツィースさんも起きていらっしゃいましたので、私たちは揃って朝食をいただいてから、学院へと転移しました。
「やっぱり女子寮の中なんだね」
ルグリオ様はもはや諦めたといったようにつぶやかれました。
「いい加減、慣れなさいよ」
「女子寮に慣れたらだめだと思うんだ」
「じゃあ、ルーナや私が男子寮へ転移しても構わないというのね」
「それは困るけどさ」
「それなら諦めなさい」
ルグリオ様がおっしゃりたかったのは、おそらく、別に寮の中でなくとも学院内に転移しても大丈夫そうなところは他にもあるということなのでしょうけれど、セレン様は取り合わないつもりのようでした。
運よく、アーシャも既に帰省しているようでしたし、私たちが女子寮へと転移してきたことには誰にも気づかれた様子もなく、部屋を窺いにくるような気配もありません。
もしかしたら他の皆さんも既に帰省されていて寮にはいらっしゃらないのかもしれませんが、私たちは用心しながら物音を立てないように静かに女子寮を抜け出しました。
「ここにハーツィースさんが倒れていらしたんです」
寮の前の小道を少し学院の方へと進んだところで、私たちとハーツィースさんの間で行われたやり取りを詳しく説明します。
「あなたはここへ来る前に辿ってきた道は覚えているのかしら」
「あまり侮って貰っては困りますね」
知っている場所ならば転移の魔法で移動することができるのですが、ハーツィースさんたちユニコーンが暮らしていた、もしくは暮らしている場所というのは私たちの誰も、ハーツィースさんを除いて知らないため、ハーツィースさんに先導していただいて、私たちは学院の裏の森の中を用心しながら進んでいきます。
ルグリオ様、セレン様、それにハーツィースさんが一緒にいらっしゃるため、人ともユニコーンともいきなり交戦状態に陥ることはないと思いますが、他の魔物と遭遇しないとも限りませんし、周囲を警戒しながら、時折転移の目印になるものを気にかけながら目的地へと向かいます。
「今日はここまでね。これ以上は危険かもしれないわ」
地図らしきものを作成されていたセレン様の声に、一刻も早くお仲間のところへと戻りたいと考えていらっしゃるでしょうハーツィースさんは不満げではいらっしゃいましたが、辺りも暗くなってきていましたし、進むことも困難な状況になりつつあったので、しぶしぶながら承諾してくださいました。
都合よく開けた場所が見つからず、森の中腹で空白地帯を作ってしまうことも避けられたため、私たちは転移すると、コーストリナのお城へ戻りました。
「あら、おかえりなさい」
お城へ戻ると、アルメリア様とヴァスティン様に、特に成果はなかったのですが、現状の報告をしにお部屋を訪ねました。
私たちの報告にも、特に気にされた様子も見せられませんでした。私たちとしても、1日2日でどうにかできるとは思っていなかったのですが。
「それじゃあ、そろそろだと思うから夕食にしましょうか。それとも、先にお風呂に入ってきた方がいいかしら」
私たちは部屋に戻ると、着替えを持ってお風呂へと向かいました。
もちろん、私はセレン様とハーツィースさんと一緒に入りました。
「私の方でも、各国への書状を届けさせた。これで今後の無暗な討伐には歯止めをかけられただろう」
お食事の席で、ヴァスティン様はそのようにおっしゃられました。
冒険者の組合からだけではなく、ヴァスティン様が直々に書状を認められたのなら、各国への情報もさらに早く回ることでしょう。
「これで、今後の冒険者への抑止にはなった。後は」
「分かっています、父様」
ヴァスティン様がルグリオ様へと視線を向けられ、ルグリオ様も頷かれていらっしゃいました。
「現在討伐に出たままで、情報が回っていないと思われる冒険者の方々へは僕たちの方で対処いたします」
「うむ」
食事を終えた私たちは、翌日に備えてすぐにベッドに入りました。
朝の食事を終えた私たちは、昨日進んだところまで転移しました。
他の冒険者の方に会うこともなく、遭遇した際に襲ってきたゴブリンやオーガを撃退しながら進みということを繰り返しながら、さらに翌日にはとうとうハーツィースさんたちが暮らしていたというところの近くまで辿り着きました。
「私が進んできた速度とは大違いですね」
「あなたは一人で進んできたのだからすることも多くて大変だったのでしょうけど、私たちは4人もいるし、転移してお城に戻りながらだから疲れもあまり溜まらなかったからね。それよりも、まずは残っているかもしれないと言っていたあなたのお仲間と出会う方法を考えましょう。ここに残っていれば、もしくはあなたが呼びかければ会うことはできるのかしら」
セレン様の問いかけに、ハーツィースさんは整った顎に手を当てて少し考え込まれていらっしゃるようでした。
「わかりません。私たちは皆、散り散りに逃げましたし、完全に脅威がなくなったと確信が持てるまでは戻ってこないかもしれません」
「あなたがルーナと出会ってから大分経っているとは思うけれど」
セレン様が私の方を見られたので、私も頷きました。
「はい。私がハーツィースさんと出会ったのは春先のことですから、ハーツィースさん達が逃げてきた時間も考えると、かなりの時間が経過していると思われます」
「私は一応あなた方のことを、完全にではありませんが、信用しているつもりではありますが、他の皆はそうではありません。呼びかけては見ますが、あまり期待はしないことです」
私たちが黙って頷いたのを確認されると、ハーツィースさんは私たちには理解できない言葉のような、雄たけびのようなものを発しました。