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一緒のベッドで寝るというただそれだけのこと

 私が声をお掛けしてそれほど間をおかずに、ルグリオ様はお部屋に入っていらっしゃいました。

 ただ一緒に寝るというだけで、そういうことはないのにも関わらず、私の心臓は早鐘を打ち、今にも飛び出してしまいそうなほど緊張しています。

 入浴は終えているというのに汗をかきそうなほどです。

 私はベッドに腰かけて、膝の上で拳を固く握りしめます。

 明日はきっと早いですし、べ、別に、え、えっちなことをするわけではありませんから、何も恥ずかしがることはありません。ただ、一緒の布団に寝るという・・・そう、ただそれだけのことです。ここで私が躊躇っていては、いつまでもルグリオ様に休んでいただくことはできません。


「ルーナ、悪かったね。こんなかたちで姉様の悪ノリに突き合わせてしまって」


「ひゃいっ」


 話しかけられて、変な声が出てしまいました。ルグリオ様も驚かれているご様子でしたので、私は急いで次の言葉を紡ぎました。


「すみません、ルグリオ様。謝られるようなことはありません。わ、私も嫌ということはありませんから」


「そ、そう」


 いつまでも、ベッドに腰かけているわけにも参りません。

 女性のベッドに男性が自分から入るのはさすがに躊躇われるだろうと思ったので、私はその場でベッドの中へと身体を向けると、膝をついて進み、ベッドの上、左右に分けた片側に座り込みました。


「ど、どうぞ、お上がりください」


 私が勧めると、ルグリオ様は振り向かれて、一瞬躊躇われてようにも感じられましたが、私と同じようにベッドの中腹まで入って来られて、私と向き合うような形で居住まいを正されました。

 

「「あ、あの」」


 そのままの沈黙に耐えられずに私が話しをしようと声をかけたのと、ルグリオ様にお声をかけられたのが同時でしたので、私たちはお互いに口ごもってしまいました。

 再び口を開くことも躊躇われたので黙っていると、ルグリオ様が話しかけてくださいました。


「ルーナ。こんなことを言うのもあれだけれど、今の君の姿もとても可愛い、いや、とても綺麗だよ。手で掬うと指の間からサラサラと零れる煌く銀糸のようなその髪も、しなやかな白魚のように柔らかいその細い指も、抱きしめたら折れてしまいそうなほど細いその腰も、僕を見つめてくれている宝石のようにきらきらと輝くその紫の瞳も全てが愛おしく感じられるよ」


「ありがとうございます」


 ルグリオ様があんまりにも手放しでほめてくださるので、私は参ってしまって、消え入りそうな声でどうにか一言だけ紡ぐと、ルグリオ様を見つめていられずに俯いてしまいました。

 私が俯いてしまったので、ルグリオ様は慌てられた様子で話題を変えられようとしたのか、明日のことや学院生活のことなど色々と話題を振ってくださったのですが、私は適当な相槌を打つことしかできず、ますますいたたまれない気持ちになりました。

 まだまだ先のことではあるのですけれど、私が学院を卒業してルグリオ様と結婚式を挙げたら、きっとルグリオ様も王位を継承されるので、世継ぎをつくるためにもこういったことはもっと増えることでしょうけれど、今はまだ気持ちが落ち着かないと言いますか、まだ想像もできないといったところです。

 

 明日のためにも寝不足ではいけないので、私はルグルオ様と向き合うようにベッドに寝そべると、同じ枕に頭を乗せて、肩まで布団をかぶりました。

 互いの息遣いが聞こえる距離というのもいままでなかったわけではありませんし、ルグリオ様がアースヘルムへいらしたときには、一緒にお風呂にも入りました。あれよりも恥ずかしいことはないと思っていましたけれど、今の緊張はあの時にも匹敵するほどです。


「ルーナ、おやすみ。愛しているよ」


「私も大好きです。ルグリオ様」


 ルグリオ様にお休みのキスをいただいて、私は目を瞑りました。







 隣で人が動く気配がしたので、私は目を覚ましました。

 

「おはよう、ルーナ。ごめん、起こしてしまったかな」


「いえ。私も目が覚めたところですから」


 朝日が丁度昇るところらしく、薄いカーテンの向こう側から日の光が差し込んできます。


「おはようございます、ルグリオ様」


 挨拶を済ませて、着替えようとしたところで、思い出して手を止めます。


「ご、ごめん。僕は外にでて待っているから」


 私が言葉を発する間もなく、ルグリオ様は部屋から出ていかれてしまったので、私は着ていたものを脱いでまとめると、学院でも使用している運動着に着替えて、その後着るための服やタオルを収納しました。

 私が部屋から出ると、ルグリオ様はすでに着替えを終えられていて、私の格好を見て驚かれているようでした。


「ど、どうしたの、ルーナ」


「えっ、あっ、この格好ですか」


 最初は何の事なのかわからなかったのですが、そういえばルグリオ様は私が運動着を着ているところをご覧になったことはなかったと思い至り確認しました。

 ルグリオ様が頷かれたので、私は春先からのことを説明します。


「そういうことなら、僕も付き合うよ」


「よろしいのですか」


「うん。ルーナと一緒に早朝の散歩、ではないけれど、一緒に走るのもきっと楽しいと思うから」


 少し待っていてくれるかなと言われて、ルグリオ様が転移してどこかへ、おそらくはお部屋に戻られたのでその場で待っていると、すぐにルグリオ様が武術の訓練のときなどに着られている服に着替えられて戻っていらっしゃいました。


「お待たせ。じゃあ、行こうか」


「はい」



 

 私たちはおそらくまだ寝ていると思われるお城の人たちを起こさないようにと思っていたのですが、すでに起きられていらっしゃる方はたくさんいらして、皆さんに微笑まし気に見送られながらお城の外に出ると、さすがに門の外に出ることはせずに城壁の中を走りに出ました。

 夏場とはいえ、早朝はまだ涼しさが残っていて、丁度いい気候でした。

 しばらく走ってお城の入り口に戻ってくると、じんわりと汗をかいていたので私たちは浴場へと汗を流しに向かいました。



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