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組合での交渉

 私たちが冒険者の組合に足を踏み入れると、それまで騒がしかった組合内の雰囲気がぴたりと止まりました。

 沈黙ののち、私たちの方を窺う視線と囁き声が聞こえます。

 ルグリオ様やセレン様はもちろんのこと、私とそれからハーツィースさんにも隠し切れない熱のこもった視線が注がれています。冒険者の方々にとっては捕獲の対象でもあるだろうハーツィースさんを連れて来ることに不安がないわけではありませんでしたが、彼女がいなければ話もまとまりません。

 しばらくすると、ようやく我に返られたらしい受付嬢の方が、受付から出てこられて、私たちの前までいらっしゃいました。彼女はハーツィースさんに疑うような視線を向けてはいらしたのですが、それも一瞬のことですぐに笑顔に戻られると、恭しく言葉を紡がれました。


「セレン様、ルグリオ様、それからルーナ様、お連れの方も。本日は―—―—―—」


「挨拶は結構よ。それよりも、今日は伝えることと、他のところにも流して欲しいことがあってきたのよ」


 セレン様は受付の方の言葉を途中で遮られると、ギルド長と話がしたいのだけれどと頼まれていました。



「それでは、こちらでお待ちください」


 ギルド長を待つまでの間にと通された応接室のような部屋で、私はルグリオ様と並んでハーツィースさんの正面のソファーに腰を下ろしました。

 一緒に運ばれてきたカップにセレン様が紅茶を注がれて、私たちが一杯飲み終えるころになると、大変慌てた様子でギルド長と思われる線の細い男性が、先程の受付の方と一緒に入っていらっしゃいました。


「大変お待たせいたしました」


「お久しぶりですね、クラウスギルド長」


 ルグリオ様もセレン様もクラウスと呼ばれたギルド長とは顔見知りらしく、カップを戻されると立ち上がって挨拶をされていたので、私も合わせるように立ち上がりました。


「お二人がこちらへいらしたのは学院での実習のとき以来でしょうか」


 そこでクラウス様は私の方へと顔を向けられた。


「お初にお目にかかります、ルーナ様。私がこのギルドの長を務めさせていただいておりますクラウス・ロックフィードでございます」


 私もドレスの端を掴んで広げると、頭を下げました。


「初めまして。私はルーナ・リヴァーニャと申します。いずれ、学院の方からもこちらへ窺うことがあるでしょうから、そのときにはよろしくお願いいたします」


「承知いたしました。それで、そちらの方のご紹介をしていただいてもよろしいでしょうか」


 クラウス様は顔を上げてハーツィースさんの方へと、疑っているわけではないようですけれど、鋭い視線を向けられました。


「今日ここへ来たのはその彼女、ハーツィースと関わることよ」


 ハーツィースさんのお顔を見られて、おそらくは額の角をご覧になられて訳ありだと感じられたらしいクラウス様は、黙ったままセレン様の言葉を待たれていらっしゃいました。


「見ての通り、彼女はユニコーンで、先日、エクストリア学院に逃げ込んできたのをルーナが保護していたそうよ」


「逃げ込んできた、ですか」


「あなた達の組合では、ユニコーンに関する取扱いはこの春先あたりから今日までであったかしら」


「そうですね。詳しくは確認して見なければわかりませんが、おそらく何件かはあったことでしょう」


 ハーツィースさんが反応したのを、ルグリオ様が横目で見られて落ち着くようにと制されていらっしゃいます。


「それはどのようなものか教えてくれるかしら」


「少々お待ちいただけますか」


 セレン様が頷かれるのを待って、クラウス様は戸棚から資料を取り出されました。資料というよりは、依頼書、達成書といった方が正しかったかもしれません。


「こちらです。ご覧ください」


 セレン様は、恭しく差し出された資料を受け取ると、ぱらぱらとめくって確認されてからルグリオ様に渡されました。

 ルグリオ様、ハーツィースさん、それから私が読み終えると、私は資料をクラウス様に返却しました。


「お役に立ちましたでしょうか」


「興味深かったわ」


 セレン様はそれだけ返事をされると、本題を切り出されました。


「確認しておきたいのだけれど、人を襲うような魔物とは違って、こちらから手を出していないのにユニコーンに手を出されたということはないのよね」


「はい。ですが、ご存じのようにユニコーンは素材として大変重宝されておりまして」


 クラウス様が並べかけられた言葉をセレン様は、それはいいのと手を振られました。


「では、今後は彼女たち、ユニコーンに関しては討伐対象から外してもらえるかしら」


「それはどういったことでしょうか」


「ユニコーンを討伐、捕獲するのは彼女たちの角や血液なんかが貴重な薬なんかの材料になるからよね」


「その通りでございます」


「私たちは彼女たち、ユニコーンと取引をすることにしたから。それで得られた素材は私たちが適正な価格で市場、もしくはあなたたちを経由してもいいけれど一般に広めるわ。もちろん、襲われた場合などは仕方がないけれど」


「そのようなこと、私たちからするわけがないでしょう」


 ハーツィースさんを一度みてから、セレン様はクラウス様へと視線を戻されました。


「ユニコーンが散り散りになるまで追われていたことは事実のようよ。彼女たちの容姿は見ての通りだし、素材としても有用なのはわかるけれど、これからはなるべく控えて欲しいの」


「それは今後、そのような生物、魔物が増えるということでしょうか」


「確かにあなた達の危惧もわかるわ。そういったものが増えれば冒険者の仕事がなくなってしまうものね」


 冒険者は基本的に魔物の討伐や薬草の採取、未知なる領域の探査などを目的としてその職につかれることが多いらしく、それらの素材を売買することで生計を成り立たせているようです。

 セレン様もお城を抜け出されているときには、そういった仕事をされていらっしゃるようです。


「でも、おそらくその心配はないはずよ。ワイルドボアなんかに代表される生物や、ゴブリンなんかとはこうして会話が成り立たないことはわかっているし、彼女たち、ユニコーンのような取引ができる生物は稀だと思うから」


「承知いたしました。ではすぐに書を認めますのでご記名をお願いできますでしょうか」


「ええ」


 クラウス様は、失礼しますと席を立たれると、部屋を出ていかれて、しばらくすると結構な量の書類を持って戻られました。


「他のギルド、組合へは私の方から伝達、説明させていただきます。こちらに署名だけお願いできますでしょうか」


 セレン様とルグリオ様は手分けをされて、あっという間に署名を済ませてしまわれました。


「ありがとうございます。さっそくこれらは依頼として各方面へと届けさせていただきます」


「それじゃあ、後のことはよろしく頼むわね」


「お任せください」




 クラウス様に見送られて部屋を出た後、そのまま組合を出るとセレン様はハーツィースさんに話しかけられました。


「それじゃあ今からあなたが元いたところを見にいってみましょうか」


「急にあなた方人間がくると、同朋は攻撃してくると思いますが」


「心配いらないわ。それよりも、未だに依頼が出ていたということは、現在でも討伐が行われているはずよ。一刻も早く向かいましょう」


「わかりました。案内しましょう」


 私たちは4人で一緒にハーツィースさんがいらしたところへ、直接は無理なので、一先ず彼女と遭遇した学院へと転移しました。

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