八話 覚悟
八話です。投稿速度おそくて申し訳ありません。
しばしの沈黙が二人を包んだ。
その沈黙がそれぞれの心情を表しているかのようだった。
まるでその沈黙を破るかのように圭一は無理に陽気な声で
「俺今は軍医見習いをしとる。いろいろ学べて楽しいんや。」
そう言った。神野はふと思い出した。
軍医見習いといえば最低階級でも少尉である。
そっと圭一の襟元を見てみると金のモールに桜が一つ付いていた。
神野はそれで納得したのか、ああっと声を上げた。何が分かったのか?
それは神野たちを見守るいぶかしげな目だった。一水兵の神野と士官の圭一とのやり取りだった。二人の階級にはおおきな溝があった。
これ以上は周りを刺激するのは良くないと思ったのか神野は小声で察した事を伝えた後、目で『もう行ったほうがいい』と伝えた。
圭一は首を縦に振り整理番号券と黄色のテープを腕に巻きつけて去っていった。
また睡魔が襲ってきた神野は少し眠たかったが、水を持ってきた渡部を視界に捕らえ体を起こした。渡部は小走りで神野に駆け寄り縁が少し欠けた茶碗を差し出してくれた。
「神野!水や!」
自分で飲めるのだが渡部は神野の容態を考えてかわざわざ飲ませてくれた。
しかし、その手は小刻みに震えておりほんの少しだがその振動で茶碗に入っていた水が神野に落ちた。
神野は飲まされつつも渡部の顔を見た・・・その顔は青ざめていた。
ようやく神野は飲み終え一息ついた。
「渡部・・・外・・・どうやった?」
分かっている。渡部の顔が青ざめているのはおそらく外の様子だ。
何年ともなる仲なのでそれぐらいは分かっていた。
渡部は少し逡巡したが重い口をあけて言った。
「ひどい有様やった・・・戦争は・・・こんなんやな・・・」
彼がそこから教えてくれたのは皆信じられない光景の話だった。
二人、いや日本海軍の多くの者達は戦争を体験した事がない者達だった。
身に受けたショックはとても計り知れないものだろう。
それでも彼らは現実を受け入れようとしていた。
「俺は班長のもとに帰る。神野はゆっくり養生しとれ」
一通り話した彼は神野にそういった。
神野も先ほどから睡魔と闘っては起きの繰り返しだったのでそうさせてもらった。
渡部が待合室を出たのを最後に神野は遂に眠った。
その眠りを起こしたのは轟音だった。