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恋をしたのは鬼でした  作者: だんご


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選んだ道


 しばらくして――


 村は、静かになった。


 あれだけ響いていた叫びも、音も、すべて消えていた。


 残ったのは、重たい沈黙だけだった。


 ゆっくりと、辺りを見る。


 地面に倒れている影。


 角が、生えている。


 あの襲ってきた鬼たちだ。


 動かない。


 もう、起き上がることはない。


 そして――


 その周りには。


 見慣れた顔が、いくつもあった。


 昨日まで、話していた人。

 笑っていた人。


 名前を知っている人たち。


 みんな、動かない。


「……」


 喉が、詰まる。


 何も言えない。


 ただ、胸の奥だけが、じわじわと痛くなる。


 しばらくして、ぽつりぽつりと人が集まってくる。


 生き残った者たち。


 その顔には、怒りがあった。


「……鬼の仕業だ」


 誰かが言う。


「やられっぱなしでいいのか」


 声が重なる。


「違うだろ」


 別の男が前に出る。


「先に手を出してきたのは、あいつらだ」


 空気が変わる。


 怒りが、広がっていく。


「鬼の村を潰す」


 はっきりとした声だった。


「やられる前に、やる」


 その言葉に、周りが頷く。


 流れが、できてしまう。


「……待ってくれ」


 気づけば、声が出ていた。


 視線が集まる。


「……あれは」


 言葉に詰まる。


 でも、言わなきゃいけない。


「……あの村の人たちじゃない」


 少し、躊躇う。


 それでも続ける。


「僕は知ってる……あの村に、あんな奴らはいなかった」


 チヨの顔が浮かぶ。


 あの村の、穏やかな空気が浮かぶ。


 あれとは、違う。


 絶対に違う。


 でも――


「何言ってる」


 低い声が返る。


「鬼は鬼だろうが」


 切り捨てるような言葉。


「同じだ」


 別の声も重なる。


「角があるなら全部同じだろ」


「違う!」


 思わず声が強くなる。


 でも――


 誰も、聞かない。


「もう決まったことだ」


 冷たく言われる。


「準備を進めるぞ」


 人が動き出す。


 武器を持つ者。

 集まる者。


 止められない。


 完全に、流れができてしまっている。


(……くそ)


 拳を握る。


 頭に浮かぶのは、一つだけ。


 チヨ。


(……行かないと)


 夜の山を駆ける。


 暗い道。


 足場も見えにくい。


 それでも止まらない。


 何度も通った道を、必死に進む。


 やがて――


 鬼の村が見えた。


 灯りが、いくつも揺れている。


 息を切らしながら、その中へ飛び込む。


「チヨ!!」


 叫ぶ。


 村の空気が、ざわつく。


 人――いや、鬼たちの視線が集まる。


 その中で。


「サク?」


 聞き慣れた声。


 振り向く。


 チヨがいた。


 無事だった。


 それだけで、胸が少し軽くなる。


「どうしたの?そんな顔して」


 近づいてくる。


 その顔は、まだ何も知らない。


「……人間が来る」


 息を整える間もなく言う。


「え?」


 チヨが目を見開く。


「さっきの襲撃で……村の人たちが、鬼の村を攻めるって」


 言葉がうまくまとまらない。


「違うんだ、あれは――」


 言いかけて、止まる。


 説明している時間なんてない。


「もう近くまで来てるかもしれない」


 必死に言う。


「このままだと、逃げられなくなる」


 チヨの表情が、ゆっくりと変わる。


「……でも」


 小さく言う。


「みんなも――」


 その言葉に、胸が痛む。


 分かる。


 でも――


「無理だ」


 はっきりと言った。


「もう時間がない」


 遠くから、かすかに音がする。


 人の気配。


 確実に近づいている。


「今動かないと、間に合わない」


 チヨが、唇を噛む。


 迷っている。


 それでも――


 やがて、小さく頷いた。


「……分かった」


 その一言で、決まる。


 手を取る。


 今度は、迷わない。


「行こう」


 二人で、走り出す。


 村を抜ける。


 暗い森へと飛び込む。


 足音が重なる。


 息が荒くなる。


 それでも止まらない。


 どれだけ走ったか分からない。


 ようやく、少し開けた場所に出る。


 足を止める。


 振り返る。


 遠く――


 空に、煙が上がっていた。


 黒く、広がっていく。


 さっきまでいた場所の方角。


 鬼の村。


「……」


 言葉が出ない。


 ただ、その光景だけが、目に焼き付いた。

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