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恋をしたのは鬼でした  作者: だんご


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17/18

戦争



 音が、空を裂いた。


 合図。


 その一瞬で——世界が崩れた。


 人間と鬼が、同時に踏み込む。


 ぶつかる。


 叫び声。


 鉄の音。


 何かが折れる音。


 一気に押し寄せてくる。


 サクは、その中に立っていた。


 目の前で、人が倒れる。


 鬼が吠える。


 どちらも、同じ顔をしていた。


 怒りと、恐怖。


 それだけだった。


「……っ」


 足が動かない。


 どこを見ればいいのか分からない。


 何をすればいいのか分からない。


 ただ、戦いだけが進んでいく。


 横で、チヨも固まっていた。


 その目が揺れている。


 自分と同じ種族。


 でも——違う。


 サクは、歯を食いしばる。


 踏み出す。


 目の前で振り下ろされる刃を、弾いた。


 衝撃が腕に走る。


「やめろ!!」


 叫ぶ。


 でも、その声は飲み込まれる。


 誰にも届かない。


 別の場所で、鬼が人間を押し倒す。


 逆に、人間が鬼を囲む。


 どっちも止まらない。


「……なんで」


 思わず、呟く。


 どっちも間違ってないはずなのに。


 それでも、止まらない。


 その時——


 空気が変わった。


 違う動き。


 違う音。


 乱暴で、まとまりのない足音。


 サクの視線がそちらに向く。


 森の奥から現れた影。


 角のある鬼たち。


 だが、その目は——


 さっきまでの鬼とは違った。


 笑っている。


 楽しんでいる。


「ははっ、いいねぇ!!」


「どっちもやれやれ!!」


 無差別だった。


 人間にも、鬼にも襲いかかる。


 混乱が広がる。


「なんだあいつら……!」


 誰かが叫ぶ。


 戦場が、一瞬だけ揺れる。


 サクの中で、何かが切り替わる。


 考える前に、体が動いた。


 あの鬼たちへ向かう。


 理由はなかった。


 ただ——


 止めないと、もっと死ぬ。


 それだけだった。


 刃を受ける。


 弾く。


 荒い攻撃。


 重い。


 でも、読みやすい。


 サクは踏み込む。


 押し返す。


 完全に倒すことはできない。


 でも、止めることはできる。


 その間に——


 別の場所で、チヨが動いていた。


 一人の人間が、背後から襲われそうになっている。


 気づいていない。


 チヨは迷わなかった。


 飛び込む。


 その腕を弾く。


 鬼の攻撃を受け流す。


 人間の前に立つ。


 武器は向けない。


 ただ、守る。


 人間は固まる。


 目の前の存在に。


 角のある、鬼に。


 でも——


 攻撃はされない。


 ただ、庇われている。


 理解が追いつかない。


「……なんで」


 小さく、声が漏れる。


 その時——


「待て!!」


 声が響いた。


 一人の男が前に出る。


 サクが視線を向ける。


 見覚えのある顔だった。


 あの時、助けた人間。


 その男が叫ぶ。


「その鬼は違う!!」


 戦場に、その声が広がる。


 一瞬だけ、空気が止まる。


 人間たちの動きが鈍る。


 鬼たちも、わずかに視線を向ける。


 完全には止まらない。


 でも——揺らいだ。


 確かに。


 サクは息を荒くしながら、その光景を見た。


 戦いは続いている。


 叫び声も消えない。


 でも、さっきとは違う。


 ほんの少しだけ。


 武器を下げる者がいる。


 迷う者がいる。


 チヨは、その場に立っていた。


 誰も攻撃しない。


 でも、誰も近づかない。


 その境界の中で。


 サクは最後の一撃を弾く。


 盗賊鬼を押し返す。


 完全には倒せない。


 でも、距離を取らせる。


 それで十分だった。


 それ以上を求める余裕はなかった。


 戦場は、少しずつ変わっていく。


 止まる場所。


 まだ続く場所。


 混ざり合う。


 崩れていく。


 完全には終わらない。


 でも、確実に——変わっていた。


 サクはその場で息を整える。


 チヨと目が合う。


 言葉はない。


 でも、分かる。


 ここまで来たこと。


 その意味。


 周りには、倒れている人がいる。


 動かない者もいる。


 煙が上がる。


 焦げた匂い。


 静かにはならない。


 まだ、どこかで戦っている音がする。


 サクは目を閉じる。


 胸の奥が、重い。


 全部は変えられない。


 それでも——


 変わったものが、確かにあった。

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