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0o

作者: 氷星凪
掲載日:2026/02/19

[一]

 生まれてから五分の二半世紀。Iは立派な中世的彫刻"Invisible Hand"に引き寄せられ続けていた。体に纏う綿靄(めんあい)の存在にすら気づかず、気付いたとしてもそれを眼鏡の曇りだと思って満足するばかりの日々だった。その牙城を崩したのが、紛れもなくItである。


[二]

 Itの登場により、遂にIは空気中に常に漂流していた「バースペクティヴ号」の観測に成功した。すぐさま乗り込むと、もう先にItは帆を揚げていた。得意のマイムを活かしたとItは得意げだったがIは怒りを覚えた。Itは困惑しつつも、Iが顔を赤くする理由を伝えると理解するまでにそこまで時間を要さなかった。信号が切り替わる。「PASSIVE」から「ACTIVE」。出航だ。見下ろせば、下にはビルの明かりに照らされるままに行き交うHoとSho達がいた。彼らの上空を白い影が通る。みな、無視しているのか、はたまた()()をしているのか。


[三]

 船を多少の風が襲ってくるのはスリルがあって上出来。しかし、しばらくして帆にしがみついたβ-9が船体を揺らす。この船に大砲はない。今度はニューロンにβ-7が這いずってきた。Iは体を無意識にへりの外へ出そうとする。地上へ。体を、投げ出し。だが気づいたら白装束の袂を、Itに掴まれていた。無意味な指の動きをしつこいほど加えて引き戻される。そうだ。それでいい。再び目を開けるとβは消えていた。


[四]

 いくらか進んだところで今度はΔがおでましだ。発祥へと近づくIらに土産物と称した小包を渡し、再び知覚させる。上段に入っていたのは、蜜布(みっぷ)。下段には、厭世への道標には遠回りに思えた救済小麦入りのパン専門EC。その下段の隅を爪楊枝で突き、隠れていた崇拝的BEACONを見つけて、恍惚! なんて思ってはいないだろうな。Iが渡し、Itはそれらを飲み込んだ。少なくとも五分の二半世紀以上は地上にいたんだ。完全処分は現実的では無いのだろう。


[五]

 いつの間に乗船していたHo、Shoを拒む理由は無かった。Ho、Shoは自然的なダークマターに未だ付き纏われていると話し、Iへの羨望と可能性に起因する全ての世界への諦観を示した。しかし、Iは信じていた。Itが生む欺瞞は文字通りの欺瞞ではない。善意による、現実化される欺瞞なのだ。そしてItはキミの中にもいる。目をつぶり、暗闇の中で自分を感じろ。


 地上のβからキミが「狂人」と呼ばれた時、どこかから黒電話が鳴った。受話器を引き上げて電話を取る。一瞬の呼吸のインターバルを挟み、受話器を含む空間からItが囁き叫ぶのが聴こえた。

「Good morning, husband. さあ、今日はどこを散歩する?」


[六]

 着く直前、今までの世界に船は返した。次の航海者のためだ。

 目の前には、果てしなく、果てしなく、そうただ果てしなさがどこまでも広がった。「0o」は全てのトピアを超越した、"広がり"そのものなのだ。ここには()()()()()()()がある。だがそれは限定品でもなければ、特別な催しでもない。まるで日常のように起きるそれは、真に日常として起きており、I、It、Ho、Sho、ここまで来た者たちに理解できない者はいなかった。


[七]

 しかし、Iは強欲だった。自分の入った棺桶を見に行くために懲りずに歩き出したのだ。船はもうない。故に、進む手段はこの足のみ。

 それぞれがどう歩いていくかは、標識の虚無な景色からしてもう明らかであった。

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