とある子爵令嬢の大逆転(後編)
連続投稿で前編も更新されてます。
「……似てる」
「……はい?」
ウナジューを半分ほど食べ進めたところで乃亜さまにもウナジューが行き渡り、私の正面に座って食べ始めます。
その際に乃亜さまが手に持った板と私の顔を見て、呟いた一言。
「ねぇ、アリーリャさんだっけ? 近しい人にはなんて呼ばれてるの?」
「お父様にはリーリャと呼ばれてますわ」
「リーリャ! 声も顔も名前も似てるじゃん!!」
お知り合いの誰かと私が似てるみたいですわね。
神様にも人に似たようなところがありますのね、なんて思いながら乃亜さまを見ていますと、少し興奮された乃亜さまが突然私の手を握り、こう言いました。
「ねぇ、私もリーリャって呼んでいい? 友達になろ!」
「えっ? よ、よろしいんですの?! 私なんかが神様とお友達なんて……」
「いいのいいの! 普段いる世界だとゃ邪神とも人間とも姉妹のような親友になってるんだよ!」
「で、でしたらよろしくお願いしますわ」
なんてことでしょう! まさか私が神様とお友達になるなんて!
このあと私たちはお互いのことを話し合いながらウナジューを食べましたの。
「ねぇねぇ、ウナベエのじーちゃんがなんでこっちにいるの?」
ウナジューをご馳走になり、一息ついていると元気よくウナジューを食べているシェラタンちゃんが同じくウナジューを食べているセナさんに尋ねます。
そういえば、セナとメープルに連れてってもらうって言ってましたわね?
こっちにきてもらうことにしたって、おっしゃってましたけど予定が変わることなんてあるのでしょうか?
んぐっ、っと喉にごはんを詰まらせるセナさん。
胸をどんどんと叩いて、ふぅふぅと息をつきます。
一瞬の沈黙の後、セナさんが説明をしようとした瞬間でした。
『あのな、うな兵衛にシェラタンが今日来るからな、って言いに悟志と乃亜と行ったらな。久蔵が1回この世界に行ってみたいって言ったんだ。でもな、シェラタンがうな重食べられないのはダメだろ? 俺が久蔵があっちでうな重作るなら連れてってやるぞって言ったらな? わかった!って言ったから荷物まとめさせて連れてきた』
うわぁぁぁーーしゃべったぁぁーーーー!?
って、そうですわよね。ゴン太様は異世界の神ですから、そりゃしゃべるくらいわけないですわ。
「そっか、そっかぁ」
慣れた様子のシェラタンちゃん。
そのあとお片づけをして、シェラタンちゃんたちとはお別れ。
たまにはこんないいこともあるもんですわね。なんてほっこりして帰り道をゆっくり歩いていきました。
その頃、アリエス王国の王都であるムウ。
ムウの中心に位置する王城では数人の男女が真剣な顔をして話をしていた。
男女のそばには1匹の狼が伏せて寝ている。
「侯爵家なんかはどうだ?」
紅茶を一口飲み、そう言った男。
アリエス王国、当代の国王。ウォルター・フォン・アリエス。
「国王陛下、いえあなた。ダメに決まってるでしょう。あの子を担いでやりたい放題するに決まってますわ。唯一信じられそうなのはハクセンくらいですけど、これ以上力を与えるわけにもいきませんし」
ウォルターの言葉を否定するのが、彼の妻であり、王妃のクロエ。
そんな彼女に提案をするのが第3近衛軍の軍団長にして、第3近衛軍第1大隊の隊長ソル・ブレイバーだった。
「王妃陛下、田舎の子爵家あたりに任せてみては? この件で昇爵させたとしても伯爵ですし、中央政治に影響を及ぼすほどではないかと」
「それもそうね。子爵家領でいい感じのところがないか見繕ってちょうだい」
「はっ、かしこまりました。……って、お前は何をしてるんだ」
ソルの隣に座り、懐から紙を取り出し、目の前の羽ペンを使って文字を書き出す女。
レダ・ドラフト、第3近衛軍の副軍団長で、こちらは第3近衛軍第2大隊の隊長を務めている。
「え、何言ってるんですか軍団長。殿下が田舎に行くとなったら私たちと離れ離れになるんですよね? 近衛の職を辞して、そこの領主軍に入るんですよ。だから辞表書いとかないと。陛下、今までお世話になりました」
目の前で辞表を書いて、平気でやめると言い放つ女に戸惑いを隠せないウォルター。
ソルに視線を送ると心得た、と言わんばかりに頷き、こう答える。
「馬鹿、ここで辞表を書くやつがどこにいる。私みたいにいつでも出せるように、常に懐にしまっておくのが正解だ。お前んとこのフィリップは自決用の短刀と辞表を常に持ち歩いているぞ。副軍団長のお前もそこらへんちゃんとしてないとダメだろう」
「なんですって?! あの研究バカのフィリップがそこまで忠誠を誓うとは……、さすが殿下です!!」
「それにな、あくまで領地の1部を殿下の“ナワバリ”にして、殿下の“群れ”と暮らすだけだ。日々のご安全は引き続き、我ら第3近衛軍がお守りすることになる。辞める必要なんてないんだ。その領地を治める貴族のメンツもあるからな、傍に世話役としてそこの嫡子をつけることになるが。余計なことをしようとしたら私たちが忠告してやればいい。……ですよね、陛下」
「ま、まあそうなるな。……ルプス様、それでよろしいでしょうか?」
ウォルターは伏せて寝ている狼に声をかけると、狼が目をあけて顔を上げる。
あくびをひとつした狼はこう言った。
『俺は面倒なことにならなければそれでいい。……それよりも』
扉の方をルプスが向くと、扉をたたく音が聞こえる。
「失礼します、陛下! お客人が到着され、現在庭におります」
扉の向こうから聞こえた声。
窓から庭を覗くと老人が1人、椅子に座って水を飲んでいるのが見える。
「さて、我が子の恩人が来られたみたいだ。挨拶して、私たちもかの御仁の相伴に与るか」
ウォルターがそう言うと、4人と1匹は王の執務室から出ていく。
狼の尻尾が嬉しそうに振られているのを、壁に貼られた肖像画が見守っていた。
し、しくじりましたわ~!
なんということでしょう、どういうことでしょう。
半年後の第3王子殿下のお披露目。すっかり忘れてましたの。
貴族社会の見栄と申しますか、なんというか。
新しくドレスを仕立てないといけませんのに、それを忘れて使用人への贈り物に使ってしまいましたわ~!
やっちまいましたわ、やらかしちまいましたわ~!
この時期にお願いしておかないと急ぎの料金やら高すぎる生地しか残ってないやらで出費がかなりかさみますのに。
「ま、仕方ありませんわね。一時の恥は受け入れて、去年のドレスで行きましょう」
なんて独り言を言っていると窓の外から大きな声が。
「アリーリャお姉ちゃ~ん!」
あ、そうでしたわ。
今日はシェラタンちゃんと森へ行くんでしたの。
セナさんとメープルさんからお金をいただいておりますので、これは実質護衛依頼。
気を引き締めて参りましょう。
な~んて思っていたんですけどね。
「私のやることがないですわ……」
こいつら子分なんだ~、とシェラタンちゃんから紹介されたのはとても大きな狼さんとお猿さん。
狼さんはウォン、と。お猿さんはキッ、と軽く鳴いて私に挨拶してくれましたがとんでもねぇ強さでしてよ?
私でも勝てるかどうか……。
そんな狼さんにまたがり森を進むシェラタンちゃん。
道中、魔物と出くわしても私たちを見るとすぐに逃げだします。
いえ、きっと狼さんに驚いて逃げてるんですわね。
私だけなら襲ってきますもの。ホントにスムーズですわ~。
思っていたよりも早く森の奥にある泉に着くと、私たちはごはんを食べることに。
「はい、これアリーリャお姉ちゃんのオベントー!」
なんて言ってシェラタンちゃんが差し出したのは……ウナジュー?!
いえ、違いますわね。
ウナギの横にお肉と……、これもしかしてタマゴを焼いたものでしょうか?
それが乗ってますわ。ありがたくいただきましょう!
「ソン! お魚とろ!」
ごはんを食べたシェラタンちゃんは網を持って、お猿さんと泉へ向かいます。
意外とガチで獲ろうとしてません? 領内での乱獲は禁止ですわよ?
なんて考えは杞憂に終わり、大きな魚を手づかみでソンさんが捕まえた以外は適当に網をざぶざぶ動かして遊んでるだけでしたの。
「……危ない!」
周りを見ていると聞こえた誰かの声。
その声をがした方向を見ると、影棒と呼ばれる神出鬼没の魔物。
いけませんわ! シェラタンちゃんに向かっていきます。
剣を抜いて魔法でけん制しようと思った瞬間。
現れたのは乃亜さまでした。
「マセラフィラリオン!」
乃亜さまがそう叫ぶと白い線が影棒を縛り付けます。
これで動けない、すぐに倒さなければ!
『子供を狙うなんて卑怯だぞ!!』
雷魔法を撃ちこもうと右手を影棒に向けた瞬間、乃亜さまの横からすごい勢いで駆け抜けていったゴン太さま。
あっという間に影棒に飛び掛かると噛みついて振り回して、倒してしまいます。
それにしても助かりましたわ~。
たまたまセナさんとメープルさんに頼まれて、食材探しのお手伝いをしに来たゴン太さまと乃亜さま。
そろそろ目当てのものを渡して帰ろうかと思っていた時に嫌な気配を感じてきてくださったそうなんです。
神出鬼没の魔物を察知できるなんて流石神様ですわ!
暗くなる前に帰りましょう、ということで今度は私も狼さんの背に乗せていただき帰路につきました。
狼さん、ルプスさんってすごいんですのよ? 半端な大きさなんてしてませんの。
馬と同じくらいの大きさなんですのよ?
とっても楽に家まで帰った私を待っていたのはこれまたとんでもねぇ事態でした。
「お父様、ただいま……あら、お客様?」
「ああ、お帰りリーリャ。こちらは第3近衛軍、軍団長のソル様だ」
「これは失礼いたしました! 私、アリーリャ・ベラヤリーニヤと申します。ソル様、よろしくお願いいたします」
お父様へ帰宅したことを報告しようと執務室に向かうと、そこには初めてお会いする方が。
第3近衛軍、といいましたら近衛軍の中でもとびきりやべーところ。
第3王子殿下への忠誠がすさまじく、殿下のためなら無理を通して道理をひっこめる狂人集団と聞いてますわ。
そんなやべーやつらの親玉ですのよ? 怖いですわ~。
宮廷大従士、と呼ばれる国王陛下、王妃陛下を守り支える集団と、王子殿下、王女殿下につく近衛軍。
誰も彼も頭のねじがぶっ飛んでやがるイカレた連中だともっぱらの噂。
そんな方が一体何しに来られたのでしょう?
「実はね、第3王子殿下が過ごされる地を探されていてね。うちに白羽の矢が立ったんだ」
なんですって?! お父様の説明に驚くしかありません。
ただでさえ厳しい懐事情ですのに殿下の生活費まで負担することになったらどうしましょ。
「こちらとしては殿下が外に出られるとき、その地に近しい人間が必要とのことで。本人を目の前に言うのもあれですが、ご息女を傍仕えにすること。あと殿下が過ごされるのに十分な土地だけお借りできれば、あとはそちらに従います。年間白金貨10枚の借地料もお支払いしますし、悪い条件ではないと思いますがいかがでしょう? それに、失礼ながらそちらについて調べさせていただきました。……おい」
ソル様の合図で後ろの兵士の方が腰に付けた袋をあけます。
するとそこから隣領のズック子爵が出てくるではありませんか。
傷だらけで気を失っておられますわね。
「今までよく頑張った。それと同時に困っているときに力になれずすまなんだ、と陛下が申しておりました」
あら、我が子爵領の税収額が年間白金貨1枚。
税収以外にそれだけいただけるならとびきり好条件じゃありませんこと?
お父様にお受けするように言おうかしら。
なんて現実逃避をしていたらソル様から発せられた陛下からのお言葉。
一体何が起きてるんですの?!
「このズック子爵はなかなかの悪でしてね。今までベラヤリーニヤ家に起きたトラブルの8割はこいつの策略によるものでした。動機については領地拡大と森にある貴重な資源に関する利権です」
ソル様から聞かされたのはズック子爵が傷だらけで寝ている理由。
そ、そんな理由で私たちを苦しめたんですの? 許せませんわ!
「ですので、王家の力を以ってこのベラヤリーニヤ家を第3王子殿下の庇護下におきます。何かあっても王族に喧嘩を売るようなバカはいないでしょう。あとズック子爵家には今まで奪ってきたものを全て返すように伝えておりますし、他の方にも陛下から書状がいくそうなのでもう大丈夫かと」
お、王家の庇護?! そ、そんなよろしいですの?
今まで奪われたものも戻ってくるなんて、こんなに素晴らしい日はないですわ!
「殿下がアリーリャさんを傍仕えに、とのことでしたので。そちらに専念できるように現状できることは全てさせていただきます。もちろんお披露目の際にも殿下の御傍についていただきます。ドレスもこちらで殿下の横に立つのにふさわしいものをご用意いたしますのでご安心ください。ということで、いかがでしょう?」
答えはもちろん、はいですわ!
ということで数か月が経ち、第3王子殿下の住まわれるお屋敷が完成し、いよいよ初対面。
どういう方なんでしょう、なんて想いを馳せていると屋敷の門が開きます。
開いた門の先、そこには狼にまたがったシェラタンちゃんの姿がありました
さて、本編22話の番外編いかがでしたでしょうか?
本編もよろしくお願いいたします。




